◎「岡田副総理」でも政権浮揚はあるまい
◎「岡田副総理」でも政権浮揚はあるまい
「岡田副総理」は、2閣僚への問責決議で追い込まれた首相・野田佳彦が、その印象を払拭するために打った起死回生策だが、果たして実効はあるだろうか。どうも両刃の剣のように見える。筋金入りの消費増税論者だから、野田にとっては中央突破への強い援軍だろうが、党内的には小沢グループを敵に回した。それに幹事長時代の岡田の実績はたいしたことはない。
野田の最近の政治姿勢は、「消費増税一辺倒」に徹している。野田は「消費税のためには障害になるものはすべて取り除かねばならない」と漏らしている。そのために防衛相・一川保夫、国家公安委員長・山岡賢次を“除去”するのだ。加えて、行政刷新相・蓮舫も切る。蓮舫は鳩山内閣以来民主党パフォーマンス政治の象徴であり、最近は鼻についてきた感が濃厚だ。事業仕分けに続く「政策仕分け」なるものも湿った花火に終わった。おまけに脱税事件で逮捕歴のある男性と食事をしたり、祭りに出かけるという「不適切交際」がばれて臨時国会で追及された。“除去”しなければ、通常国会国会でも絶好の攻撃対象となってしまう。
もっとも幹事長・輿石東が「改造には大義が必要だ」と野田に進言したとおり、資質に欠ける閣僚を交代させるだけでは、世間体が悪すぎる。そこで野田は「今後の態勢をしっかり強化するために」改造することにしたのだ。5人程度を交代させる中規模改造で「更迭人事」の印象を薄め、消費税シフトを強調しようとしているわけだ。焦点の前幹事長・岡田克也は、副総理兼行政改革、税と社会保障一体改革担当で入閣する。野田にとっては強力な味方と感ずるのだろう。事実、「不退転の決意」で消費増税に取り組もうとしている野田にとって、自らの主張に固執する「原理主義者」の岡田は、またとない援軍と映るのだろう。野田はあきらかに“中央突破”を目指しており、そのための起動力を期待しているに違いない。
しかし、岡田の起用は、野田にとって当初からの党内融和路線から、大きくかじを切って、小沢との対決も辞さぬ構えに転じたことを意味する。小沢系の2閣僚を切って、幹事長時代に小沢の党員資格を停止させた岡田を起用するのだから、相当な神経逆なで人事だ。案の定小沢サイドからは「もう戦争状態だ」という声が漏れ聞こえる。ただでさえ野党の攻撃にさらされようとしているときに、挙党態勢でなく、分裂も辞さない態勢で、激動の通常国会を乗り切れるか。これが「岡田人事」の第1の問題点だ。小沢グループの田中直紀の防衛相起用くらいでは帳消しに出来まい。田中の防衛相としての能力にも疑問符が付く。
さらに岡田を起用して、このまま行けば20%台に突入しかねない内閣の支持率が上がるなど政権浮揚効果が生ずるかだ。筆者は支持率下落が瞬間的に踊り場状態になっても、なお下がり続けると思う。岡田では人気は沸かない。その証拠には幹事長時代に統一地方選挙をはじめあらゆる重要な選挙で敗北を喫しているではないか。
新鮮味もない。野党対策で自民党副総裁・大島理森とのパイプが期待されるようだが、大島も総裁・谷垣禎一同様に民主党政権による消費税増税反対で凝り固まっている。パイプは通じても、野田が「話し合い解散」へと大転換でもしない限りは効力を発揮しない。もし話し合い解散をするなら「岡田・大島ライン」は効力を発揮するかも知れない。いずれにしても岡田人事はプラス効果よりマイナス効果の方が大きいような気がする。やがてそれが判明するだろう。
加えて国民新党との連立が維持できるかどうかだ。消費増税絶対反対の代表・亀井静香はこの重要な時期に、ハワイで“すねた”ように静養している。改造を前にした与党党首会談には出席しないで、幹事長・下地幹郎が代行する。下地は既に、同党の金融担当相・自見庄三郎の続投を要請、自見の留任が固まったが、亀井は野田が消費増税を強行した場合連立を離脱するつもりなのだろうか。野田は国民新党も“除去”しかねない勢いであることは確かだ。総じて政権は改造の度に味方より敵を作る要素の方が大きいが、どうも野田改造内閣も遠心力の方が目立ち始めるような気がする。
◎小沢裁判、深まった「疑惑の心証」
◎小沢裁判、深まった「疑惑の心証」
民主党元代表・小沢一郎の弁護団は、2日間にわたる被告人質問について「証言がぶれなかった」と無罪への手応えを感じているようだが、何を聞かれても「記憶にない」「秘書がやった」を繰り返させておいて「ぶれなかった」もないものだろう。焦点は事件への小沢の関与を浮かび上がらせることが出来たか、裁判官に「疑惑の心証」を深めさせたかにある。その点では小沢は土俵際徳俵で体勢を辛うじて維持している状態だろう。
「語るに落ちた」と言う言葉があるが小沢の場合は「語らずに落ちた」という側面が濃厚だ。知らぬ存ぜぬまではいいが、いくらなんでも、今現在に至るまで「収支報告書は見たこともない」はあり得ないだろう。過剰防衛が裁判官の心証に作用することは間違いない。追及側の指定弁護士にしてみれば、もともと小沢が「秘書任せ」で逃げ切ると踏んできたのであり、裁判長以下3人の裁判官に「クロ」へと傾かせる材料を提供できれば十分な成果であったと言える。結果はどうかと言えばカネの流れの不透明さは一段と深まり、4億円もの大金の扱いを「すべて秘書任せ」であることの不自然さを浮き彫りにさせることに成功している。
被告人質問で重要な点は裁判官が何を聞くかであろう。何を聞くかで裁判官の“気持ち”を推測できるからだ。裁判官の質問を分析すれば、事件のポイントとして感じているところは、市民感覚と同じと感じざるを得ない。3人の裁判官がそれぞれ順番に質問し、合計の質問時間は1時間を超えたが、その質問内容は土地購入資金4億円の原資に関する供述の二転三転、多額の現金を手元に置いておく理由、秘書に4億円をいつ返してもらえるか心配でなかったかなどであった。
これに対して小沢は事前の弁護士との打ち合わせ通りに、「秘書任せで自らは関与していない」で押し通そうとした。途中「私の関心は天下国家の話で、それに全力で集中している。それ以外はすべて秘書に任せている」発言が飛び出したが、まずこれが裁判官の心証にマイナスの影響を与えたに違いない。いくら政務に多忙とはいえ、4億円もの巨額なカネの操作を秘書の独断で行わせることはないと逆に思わせる虚飾性をもった発言だからだ。
また裁判長・大善文男が「元秘書が深沢の土地の登記を平成16年から平成17年にずらしたと証言している。深沢の土地の登記をずらすという秘書の行動についていまはどう思うか」と質したのに対し、小沢は「よかれと思ってやったことだと思う。彼らに対して叱るというたぐいの感情は持っていない」と答えた。あくまで「秘書独断」を貫いたが、大善はおそらく、小沢の指示なしには出来なかったと感じたに違いない。また大善の「元秘書の石川さんから経理処理の方法について報告は受けていないということだが、石川さんを呼んで経理処理について詳しく説明を求めたことはなかったか」との問いに「特別、石川や池田を呼んだりはしなかった」と答えている。これも大金を扱う常識とは明らかに矛盾する。
さらに4億円の原資について前日、印税や議員報酬などを挙げたが、指定弁護士の指摘によれば、印税や議員報酬の払込口座から億単位の出金はなかった。加えて自分が原資を用意したにもかかわらず、利子を支払ってまで銀行から4億円の融資を受けたという、怪訝(けげん)きわまりない行動についても、小沢自身が自ら融資書類にサインしていることが明らかになった。これらの新事実は小沢の関与を濃厚に印象づけ、冒頭述べたように「語らずに落ちた」ものと推定しうることであろう。こうして、小沢の秘書一任戦略と知らぬ存ぜぬ答弁は“馬脚”を現していると見ざるを得ないのだ。こんごは2月に、焦点の元秘書らの調書を証拠採用するかどうかを経て、3月の論告求刑、4月の判決へと進むが、小沢にとって土俵際のうっちゃりは極めて困難になってきたと推測する。
◎「天下国家」が泣く小沢被告人質問
◎「天下国家」が泣く小沢被告人質問
どうも民主党元代表・小沢一郎は「国家」という言葉がお好きなようだ。初公判では検察を「国家権力の乱用」と決めつけたかと思ったら、10日の被告人質問では「私の関心は天下国家の話で、それに全力で集中している。それ以外はすべて秘書に任せている」と宣った。政治資金など秘書に任せっぱなしで、タッチしていないと言いたいのだ。
そして今度は「国家」に「天下」をつけて“格”を一段と上げた。古墳時代に倭国王は「治天下大王」と自らを称していたと言われるが、小沢も自らをそう称したらいい。野党は証人喚問して現代版「治天下大王」の御託宣を聞いたら良い。いやもう、多数決ででも参院で証人喚問を実現すべき段階ではないか。あまりに不自然な発言を放置しては法治国家ならぬ放置国家となりかねない。
小沢がその発言通りに、果たして天下国家に全力集中しているかどうかだが、被告人質問でのやりとりを聞く限り、そうでもない。むしろ裁判対策に余念がないと言ってよい。基本的な法廷戦術は「秘書が秘書が」という、あまたの政治家が秘書のせいにして疑惑を乗り越えてきた裁判手法をとっている。それも巧妙だ。まず大型ダム工事をめぐるゼネコンからの裏金疑惑となっている4億円の出所について「相続財産など、手元にある金を用立てた」と説明。両親から相続した東京・湯島の自宅を売却して現在の自宅を購入した際の残金、相続した現金、著書の印税、四十数年間の議員報酬などを挙げた。しかしこれらはいずれも確認のしようがない事例ばかりだ。これまでの発言の「政治資金」や「銀行融資」では馬脚を現す公算が強いが、「個人の資産」では、あいまいすぎて確認のしようがない。まさに「天下国家に集中」していてはできない用意周到な発言だ。
加えて「天下国家」発言と明らかに矛盾する証言もしている。それは銀行からの融資のサインについて「秘書からサインを求められたときに現金を担保に融資を受けるのかなと頭の片隅にあった」という点だ。4億円もの額である。実際には頭の中央にあったに違いないが、片隅にあったというだけでも、天下国家集中論の“まやかし性”が垣間見えるのである。そもそもいくら小沢が政治資金が潤沢でも「政治資金収支報告書を提出する前に内容を確認したことは一度もない」などという発言が、政治団体代表として不自然きわまりないものであることは明白だ。
練りに練った法廷戦術であろうが、ほころびは見えるのだ。全部を秘書のせいにして監督責任はどうなる。政治的には当然これが求められる。野党が証人喚問を求め政治的、道義的責任を追及することで一致したのは当然だ。11日の被告人質問ではさらに核心部分に迫るだろう。「国家権力の乱用」発言にせよ「天下国家に集中」論にせよ、その根底には小沢の飽くなき復権への野望がみられる。4月の判決で無罪となれば一挙に復権して、9月の民主党代表選に臨む構えなのだろう。実現性はともかくとしてその構えがなければチルドレンを引っ張ってゆけない。
しかし一部議員らの離党を食い止められなかったこと自体が物語るように、小沢の力の低下は覆うべくもなくなってきた。菅直人との代表選で国会議員票の半数に近い200票を獲得した力などとっくに失せているのだ。有罪か無罪かの判断は、元秘書の石川知裕が報告書の虚偽記載について、「小沢被告の報告と了承を得た」と述べている供述調書が証拠採用されるかどうかにかかってきたようだ。もし有罪となればさらなるチルドレンの離反、総選挙での小沢グループの激減が目に見えている。また無罪でも、秘書3人の有罪判決が重くのしかかっているし、控訴も行われるだろう。小沢はもがいても絶対外れることのない「疑惑のトラバサミ」にはまっているのだ。
◎自民党は「政局亡者」の道を選択するな
◎自民党は「政局亡者」の道を選択するな
永田町には「政局亡者」が二人居る。自他共に許す亡者が言うまでもなく小沢一郎だが、もう1人は自民党総裁・谷垣禎一だ。すべての事象を政局に結びつけようとしている。谷垣は何が何でも消費税での3月解散に固執しているのだ。しかし自民党は野田の「2015年10%引き上げ」のいわば元祖だ。その元祖が“賛成だが反対”では、一般国民にはわけが分からない。野田が事実上問責2閣僚を更迭する以上、与野党協議に応ずるのが責任政党としてのスジだ。「2015年10%」が大局そのものであり、自民党は見誤ってはならない。
13日の改造で2閣僚を切る方針を固めた首相・野田佳彦は、あきらかに消費税のためには障害物をすべて除去する姿勢を示している。久しぶりに信ずるところに向かって、ひるまず、ぶれずにまい進する首相を見る思いだ。その野田が「政局より大局」として提唱するのが消費税をめぐる与野党協議であり、今週幹事長・輿石東が野党側に申し入れる。これまでのところ自民、公明両党は棒をのんだように協議に応ずる構えを見せていない。その理由は、虚偽のマニフェストで政権を取った民主党が、マニフェストに矛盾する消費増税を訴える資格はないし、聞く耳持たぬというものだ。
しかし、野田は2閣僚を明らかに更迭する方針であり、野党はまず国会審議には応ぜざるを得まい。問題は与野党協議だが、自公両党は消費増税をとっかかりに、解散・総選挙に追い込むのが基本戦略であり、応ずる構えを見せていない。しかし、一般国民は長年続く「政局」にはもううんざりしており、全国紙の論調も消費税の政局化を強く戒めている。2閣僚を交代させても与野党協議に応じない場合は、全国紙は一致して批判の矛先を自民党に向けるだろう。
一方で自民党内も元首相・森喜朗が「野田さんが言うからダメというのでは、自民党は公党として恥ずかしい」と真っ向から執行部の方針に反対を唱えている。前政調会長・石破茂も「自分の選挙とか自分の党がどうなるかとか言うことではなく、虚心坦懐に話し合いをしなければならないのだと思う」と与野党協議に前向きだ。執行部の姿勢は国民の共感を呼ばないとみる空気が強いのだ。たとえ消費税を廃案に追い込み解散・総選挙を“獲得”して、政権の座につくことが出来ても、次に消費税を処理するのは自民党に他ならない。民主党は反対に回り、またしても消費税をめぐる“10年戦争”が続く。しかし、ヨーロッパの金融危機は待ったなしで日本に襲いかかる。日本の消費増税にめどが立っていれば、極東に世界の金融危機を回避できる礎(いしずえ)が出来ることになると言っても過言ではない。歴代政権が延ばしにのばしてきた消費増税は、世界的な視点からも焦眉の急の課題となっているのだ。これが大局そのものなのだ。
これを総選挙で勝てそうだからと言って政争の具に使おうとしているのが“谷崎流”なのだ。そこには党利党略があって大局がない。輿石は、幹事長として申し入れる以上些細なことを協議しないという立場を表明しているが、これももっともだ。そもそも「暖簾(のれん)分け10%」が「元祖10%」と協議すると言っても、大枠は既に決まっているようなもので、細かい協議の必要はない。
それでは協議に入って何を話すかと言えば、法案の取り扱いと連動した解散・総選挙を話し合えば良いのだ。要するに自公両党は協議を通じて「話し合い解散」に引きづり込めば良いのだ。野田にしてみれば、消費税を廃案にしてしまっては、元も子もないのである。突っ張って無駄なエネルギーを使うより、消費税と引き替えに解散して、一か八かの勝負に出るしかない。このままでは民主党政権は野垂れ死にが目に見えている。消費税を成し遂げれば、有権者の大半は不満を政権側にぶつけるだろうが、マスコミや心ある有権者は野田を応援するだろう。
ここで妥協点を考えれば、例えばは「話し合い解散」は必ずしも通常国会末にこだわる必要はないのではないか。8月か9月の臨時国会冒頭解散で決着をつける手もあるのだ。8月か9月ならば先の総選挙後3年となり、民主党議員らも元は取った気分になるだろう。公党として首相として野党に確約して対処するのだ。自民党にしてみても、しゃにむに政局路線を突っ走れば確実にマスコミの総攻撃を受け、虻蜂取らずになる。ここはいきり立たずに落ち着いて与野党協議を、知恵を出して“活用”するくらいの寛容さが責任政党として必要なのだ。政局の泥沼化をやっている余裕など、もはやこの国にはない。
◎「小沢新党」では展望は開けない
◎「小沢新党」では展望は開けない
最近の小沢一郎の政治行動をみると「解散・総選挙恐怖症」の一語に尽きる。小沢にとっての総選挙は小沢グループの総崩れに他ならないからだ。しかし政局の流れは通常国会中の解散にあり、いくら小沢がもがいても抗し切れないものであろう。大震災以来10か月も放っておいた地元岩手を正月早々回ったのも、早期解散を意識した自分自身の選挙対策に他ならない。それでは新党を結成して総選挙を乗り切れるかというと、有権者はだれも沈む泥舟を“はやす”ことはあるまい。政局をろう断してきた小沢はここに来て袋小路に入ったのが実情だ。
小沢の解散・総選挙恐怖症はまず異常なまでの消費増税反対に象徴される。政局が読める者なら消費増税法案が必然的に政局の激動を呼び、首相・野田佳彦が解散に踏み切らざるを得なくなる核心であることが分かる。小沢にとって消費増税反対は解散反対に他ならないのだ。何故反対かと言えば、虚飾のマニフェストで獲得した民主党議席が総崩れとなるからだ。とりわけ「風」だけで当選した小沢チルドレンは目も当てられない惨状と化すだろう。これは小沢の力の論理が総崩れとなることを意味する。
小沢グループが「野党が野田内閣不信任案を提出すればこれに乗る動きが生ずる」とすごんでいるが、これは「小沢新党」を意味することになる。しかし展望は開けるか。今年70才になる「政局の小沢」が新党を作っても、有権者は「またか」と言うだけで、何の希望も見いださないだろう。どんな政策を打ち出しても、崩壊したマニフェスト作りの“主犯”の言動を信ずる者はいまい。小沢が大阪都構想の大阪市長・橋下徹に接近しているのも、橋下の起こす「風」に便乗しようとしているに過ぎない。他人頼みでしか、新党のエネルギーは出ないと踏んでいる証拠だ。
だからといって「新党ー政界再編」の動きが可能かというと、これも極めて難しい。野党は小沢が不信任に同調すれば歓迎するだろうが、自民党も公明党も「悪魔と手を組んで」まで政権を獲得しようとするだろうか。疑問だ。なぜなら不信任が可決されれば野田は間違いなく総辞職でなくて解散を選択する。小沢の一番恐れる事態となり得るのだ。選挙後、小沢新党は惨敗して相手にされなくなるだけだ。だから小沢の最近の行動は「新党」への流れにブレーキをかけるのに懸命なのであろう。
年末に急きょ3つの小沢グループを統合して106人の「新しい政策研究会」を作ったのも、離党者を増やさないよう“たが”をはめるのが主目的だ。それでも先の見えない連中が解散を恐れる余りに、理念も主義主張もなく政党交付金だけが目当ての「新党きづな」なるものを作った。人間の権力欲とは恐ろしいもので、「風」で当選したことが分からない議員が、代議士を2年半もやると、「まだやりたい」と、うろたえるのだ。小沢は連動を恐れて懸命の阻止行動に出たが、力及ばずといったところだ。要するに小沢はグループの数と結束力が低下する連鎖が起きることを警戒しているのだ。
これはとりもなおさず、「民主党あっての小沢」を意味する。民主党があるからこそ“内弁慶”が通用するのだ。民主党が分裂崩壊しては小沢の存在感は政界から喪失しかねない。小沢周辺は最近4月の政治資金規正法違反事件の判決に関して「無罪を獲得したら、9月の代表選に立候補する」という情報をしきりに流しているが、これこそ捕らぬ狸の皮算用だ。逆に有罪判決となれば一切の身動きが取れなくなることを忘れている。希望的観測で政治を引っ張るしかないのが実情なのであろう。
こうして「小沢政局」の実態は袋小路にあるが、小沢が106人を確保している現実は無視できない。新党は無理でも党内でぎりぎりのせめぎ合いをする数は一応ある。今後、消費税法案作成と提出をめぐって、盲目的な反対の動きを展開するだろう。ここに来て消費増税実現に向けて目の色を変えて突き進み始めた野田とは激突のコースをたどるだろう。野田は5日、野党に対して「政局より大局で」と訴えたが、これはまず最初に小沢に対して言うべき言葉だろう。
◎消費税政局で民主政権存亡の攻防へ
◎消費税政局で民主政権存亡の攻防へ
太筆書きで展望するなら今年の政局は、民主党政権が野党の攻勢と内乱で危急存亡の事態に直面するということだ。内閣不信任案可決なら首相・野田佳彦はおそらく解散・総選挙に踏み切らざるを得ないだろう。どうしても消費増税法案を通すなら話し合い解散しか手はない。しかし選挙に勝つ展望はゼロに等しい。政局は大展開して自民・公明両党を軸とした政権に復帰する公算が大きい。
4日の記者会見で野田は高揚感あるトーンで、チャーチルの言葉を引用して「ギブアップ」(屈服)しない姿勢を打ち出したが、状況をよく掌握していない。案の定、野党は総反発だ。ただでさえ激突含みなのに、簡単に与野党協議が動くとみる方が甘い。当面の展望を切り開くために野田は、月内にも内閣改造に踏み切らざるを得まい。防衛相・一川保夫と消費者相・山岡賢次に対する問責決議問題がペンディングになっているからだ。このままでは通常国会の日程協議にすら入れない。消費増税法案をめぐる与野党協議など不可能に近い。両相を事実上更迭することしか道はないのだ。改造して通常国会の開会にこぎ着けるしかない。更迭せずに中央突破なら、確実に行き詰まる。
しかし通常国会では、野田が「不退転の決意」で取り組むことを公言した消費増税が、野党の反対と与党内の造反で、激動要素として存在し続ける。いやしくも本質的には政党交付金目当てで民主党を離党して新党を作った議員らが4日、「新党きづな」を届け出たが、薄汚い上におこがましい。「きずな」は大震災からの復旧・復興を目指す神聖なる合い言葉だ。今後受け皿的に若干増えるかも知れないが、罰が当たって選挙で雲散霧消する。
こうした中で消費税政局は、野田政権に第一波と第二派の危機をもたらすだろう。第一波は3月末、それで打開しなければ第二波が6月末に襲来する。3月末危機は何故起こるかというと、野田が公約した消費税法案の同月提出が実現できるかどうかが焦点となるからだ。まず消費税に反対する小沢一郎グループが、法案作成の段階から攻勢を仕掛けるだろう。素案は暮れにまとまったが、法案がまとまらない可能性がある。野党はそこを見込んで消費税をめぐる与野党協議は、「民主党内をまとめるのが先決」として本腰を入れないだろう。まとまらなければ野田のリーダーシップがまともに問われる問題である。加えて野党は予算関連法案をめぐっても、その成立を引き延ばし政権を揺さぶるだろう。政権内部の動きと野党の動きが複雑に絡んで、野田を追い込む。これが3月危機だ。
何とか消費増税法案をまとめて、国会提出しても、成立させるのはラクダを針の穴に通すほどに難しい。まず、衆院が通るかというと小沢グループ100人余が造反すれば通らない。60人の反対で可決できないのである。よしんば衆院を通過させることが出来ても、参院はねじれており可決成立は不可能に近い。野党は解散に追い込むために早ければ3月危機の時点で、遅くとも6月末までには内閣不信任案を提出するだろう。同不信任案は小沢グループが離党覚悟で賛成に回れば可決される。たとえ不信任案が否決されても、参院に首相問責決議が出されれば可決となる公算が大きい。参院から首相が否定されても、法的には無視すればよいが、野田は無視できない状況に追い込まれるだろう。結局解散・総選挙となる公算が高い。
従って野田がまさに命がけで成立を図る消費増税法案は成立しないまま選挙突入となり得るが、これを回避する道はただ一つある。筆者が昨秋から指摘している話し合い解散である。どっちみち解散に追い込まれる状況に直面して、野田は消費増税実現を条件とする話し合い解散の誘惑に駆られる可能性が予見できるのだ。自民党にしてみても、政権交代を達成しても消費税の重荷を抱えていては政権は持たないという判断があろう。自民党幹部は「本当は野田に片づけさせるのが一番いい」と漏らしている。野田が消費税法案成立を条件に話し合い解散に応ずれば、後は国民の審判にすべてを委ねれば良いことになる。
総選挙になった場合は、民主党が大敗するだろう。小沢の言うように100議席を大きく割るかも知れない。よく現段階の世論調査で自民党が伸びていないことを理由に、民主党の大敗はないという見方があるが、通常の世論調査では総選挙の帰趨(すう)は判断出来ない。3年前の総選挙も、自民、民主は支持率が拮抗していたが、総選挙ぎりぎりになって、大きく民主党が自民党を上回って圧勝となった。浮動票が動いたのだ。今度の浮動票は、偽まんのマニフェスト政治の崩壊、2代にわたる失政首相に次いでの消費増税一筋首相を嫌気して、野党に動くだろう。前回は「今度だけは民主党に入れさせてもらう」という層が、民主党政権の体たらくで猛省を促されているのだ。自・公・みんなの各党が議席を伸ばす可能性が高い。大阪市長・橋下徹が政界に進出しようとしても、ノックを当選させたような「大阪のムード」は特殊であり全国的に波及しまい。したがって自公政権にみんなの党が加わるような政権形態が予想される。今年の政局を大きく俯瞰(ふかん)すれば政権交代ありの流れだろう。
◎「福祉なくして政局あり」の小沢の反消費税
◎「福祉なくして政局あり」の小沢の反消費税
基本的にはエゴの極みである政治家の言動にも幾ばくかは国家・国民への目線があるものだが、いまや消費税反対の中核となった民主党前代表・小沢一郎の姿勢だけは「質が悪い」の一言に尽きる。端的に言えば「福祉なくして政局あり」であり、政治姿勢としての国民不在がここに極まった。小沢に扇動されて深い思慮もなく消費税反対署名に乗り出す民主党議員らも度し難い。
2012年度税制改正大綱の決定を受け、民主党は週明けから消費増税を巡る論議を本格化する。首相・野田佳彦は増税素案を「年内めどに決定」と述べており、政権内の論議は本格化する方向だが、局面は緊迫の一途をたどる流れだ。何故かと言えば「消費増税小沢の乱」が待ち構えているからだ。
小沢は11月中旬から、観測気球的に消費税反対発言を繰り返したが、次第にエスカレートさせている。しまいには「今消費税を上げれば党は2つに割れる」とまで言ってすごんでいる。11日も「消費税などの増税は、少なくとも政権交代のときに我々が言っていたこととは違うので、強行するなら『それはちょっと違うのではないか』と言いたい」とのべ、公約を盾にした反対論をぶった。しかしこれは建前論であり、誰が見ても破たんしたマニフェストに固執するのはおかしい。小沢の狙いについては当初から、消費増税の実施が早期解散に直結し、小沢支持グループの雲散霧消につながることにあると指摘してきたが、この見方は今も微動だにしていないと思う。総選挙イコール小沢陣営の壊滅であり、小沢の政治家としての生命が危うくなる瀬戸際なのだ。
もともと小沢は消費税増税論者であったはずだ。忘れもしない1994年2月3日、当時の首相細川護煕がもの狂いでもしたかのように突然未明に記者会見して、消費税の税率を当時の3%から7%に引き上げて国民福祉税にするという構想を打ち出した。まさに「殿ご乱心」だが、振り付けたのは当時大蔵事務次官・斉藤次郎に理論付けさせた小沢に他ならない。
それが、民主党政権になると、政権交代狙いで消費増税などはかなぐり捨てて、2年前の選挙公約で消費増税を否定して、政権を奪取したのだ。しかし、財政の実情は小沢が増税を必要とみた94年とは比較にならないほど窮迫しており、現段階での反対論は、まさに根拠がない。小沢は口を開けば「党が割れる」「民主党員を無視し、ばかにすると必ず大きな鉄槌(てっつい)が下されると」と大げさだが、それではいかにして社会保障を維持するかについては全く語らない。要するに消費税を自らの政治権力維持の道具としてのみ使っているのだ。
小沢の唯我独尊路線を突き詰めれば、国家財政はギリシャ、イタリアのように破たんし、年金の縮小、医療制度の崩壊、福祉事業の後退は目に見えている。問題は一知半解の小沢チルドレンだけでなく、中間派を含めた一般民主党議員の中にも、小沢の扇動に乗って盲目的な反対論が台頭してきていることだ。小沢側近は200人は集まると言うが、200人と言えば昨年の代表選で小沢が獲得した数字に他ならない。しかしいくら民主党内でも消費税で小沢の手のひらで踊るような議員が200人にも達すれば、まさに責任政党としての立場の放棄に他ならない。
いずれにしてもこれまでは少しは愛嬌のあった小沢政治だが、今回ばかりは邪道へと踏み込んだ。問題は党の要の幹事長・輿石東が野田と小沢の間でどう動くかだが、野田がまとめようとする消費増税素案を、党ではまとめずに先送りして対応することを検討しているという。触らぬ神に祟りなし戦術だが、党内は収まっても野党の猛反発は必至だ。
野党は政府だけが素案を作って与野党協議に提示しようとすれば、確実に「味噌汁で顔を洗って、おとといおいで」とはねつけるだろう。このような政治情勢を見る場合は単純化した方がよい。正義か邪悪かの戦いで見るのだ。そうすれば小沢の邪悪ぶりが鮮明に浮かび上がってくるのだ。紆余曲折はあっても、最後には正義が勝つ。
【筆者より】旅行のため今年はこれで最終稿とします。新年5日から再開します。どうぞよいお年を。
◎石破旗揚げでポスト谷垣は“石石対決”の様相
◎石破旗揚げでポスト谷垣は“石石対決”の様相
民主党の場合は54才の首相・野田佳彦がつぶれれば49才の政調会長・前原誠司への流れであり、世代交代は定着する。自民党はどうかというとまだ古色蒼然たる派閥の長が幅を利かせているが、66才の総裁・谷垣禎一がづっこければ、いずれも野田と全く同年齢の石破茂か石原伸晃へと変わる流れだろう。「石石対決」がささやかれるゆえんである。民主党政権の体たらくから言って政権交代はあり得るから、自民党内の確執は首相の座を目指したものになり得る。
昔から永田町では「人が良いは馬鹿の代名詞」と言われる。谷垣を馬鹿と言ってはかわいそうだが、人が良いことは確かだ。これで政権を簒奪(さんだつ)出来るかどうかだが、それは野田を解散に追い込めるかどうかにかかっている。解散に追い込めれば、増税法案成立の前であろうと後であろうと「消費税選挙」となり、政権交代の可能性が強い。功労者である谷垣が官邸の椅子を仕留めるだろう。
しかし、追い込めない場合は来秋の総裁選挙で確実に交代となる。もはや古賀誠(71)、伊吹文明(73)、額賀福志郎(67)、町村信孝(67)の時代ではあるまい。町村だけは若干残っているような気もするが、後継は「石石対決」が軸となりそうだ。石破と石原のどっちが強いかだが、折から、石破は自らの政策集団を38人集めて旗揚げし、事実上総裁選への名乗りをあげた。38人という数は総裁選出馬条件の推薦人20人を軽くクリアしており、玄人から見ると足がかりをつかんだことになる。石原は有利な幹事長ポストを握っており、基本的には谷垣からの禅譲路線であるという。
10月の自民党人事でもっとも奇異に見えたのが「石破外し」だろう。マスコミへの好感度で政界トップクラスの論客を外して、辛気くさい政調会長に変えた結果、自民党の発進力と破壊力は半減した。これから民主党を追い詰めなければならないという肝心なときにやる人事ではない。石破本人は「政調会長職を続けて3年やったケースはない」というが、腹に据えかねていたことは確かだ。その証拠に政策集団旗揚げの動きが人事の直後から表面化した。石破は消費税にしても環太平洋経済連携協定(TPP)にしても、煮え切らない執行部に対して歯にきぬを着せない批判を展開しており、谷垣も煙たい存在だったのであろう。
これに対して幹事長に勝ち残った石原は、言うなれば“爺殺し”的だ。父親で“専制君主”の慎太郎への対応でなれているのか、長老に取り入るのがうまく、派閥の長らの覚えもめでたいのだ。しかし、その発言たるや場当たり的で優柔不断に見える。石破がTPPで明白に「推進」の立場をとったのにもかかわらず、石原は最初はAPECでの参加表明反対、その後「ステージからは動いた」と事実上の方向転換。重要ポイントでこれでは他は推して知るべしだが、9.11テロを「歴史の必然」、放射線測定を「市民に線量を計らせないようにしないといけない」、反原発を「集団ヒステリー」といった具合だ。何でもしゃべればいいと言うものでもない。一方、石破は理路整然としすぎていて、返って危うさを感ずるが、石原はテレビのタレントやコメンテーター的で、軽くてその場限りの発言が多い。
石破も石原も政治家2代目だが、石破が野人的な側面があるのに対して、石原は2代目的な優柔不断さが随所に現れている。石破は線が太く、石原は細い。そもそも政権を目指すなら戦い取る姿勢が不可欠だが、若いのに“禅譲狙い”が本当なら情けない。やるなら石破のように“旗揚げ”すべきだろう。長老の覚えがよくても、国家は担えない。こう見てくると「石石対決」は石破の方が勝ちそうな気もするが、政局は「不条理劇場」。まだまだ分からんのだ。総選挙で石破、石原がそれぞれ何人当選者を増やせるかにもかかっている。
◎野田は“3重苦”で「姑息のどつぼ」にはまった
◎野田は“3重苦”で「姑息のどつぼ」にはまった
根本的な解決をしないで一時しのぎをすることを「姑息」というが、最近の首相・野田佳彦は「姑息のどつぼ」にはまった感が濃厚だ。閣僚への問責決議、消費増税、普天間移設問題の“3重苦”を抱えて対応が本筋を外しているのだ。臨時国会終了後は自ら選んで“五里霧中”の海域に突入してゆくようでもある。
姑息の第1は、9日上提される問責決議への対応。同決議は、防衛相・一川保夫と消費者相・山岡賢次に対して行われるが、一川は確実に可決され、山岡も可決の方向だ。野田は両相を「襟を正して職責を果たしてもらう」と一応擁護の姿勢をみせている。しかし、一院の意志として閣僚の存在を否定したものが、例え法的拘束力がないにせよ、放置して済むものではあるまい。野田は昨年末の2閣僚問責可決後の経緯をつぶさに見て分かっているはずだ。
放置すれば「不退転の決意」で望むはずの消費増税をめぐる与野党協議が動かなくなる上に、通常国会も冒頭からの空転が避けられない。その前の日程協議にも野党は応じまい。一番よいのが2閣僚が自ら辞任してくれることだが、それもしそうもない。そこで姑息なる小幅改造説が野田周辺から台頭しているのだ。改造の形で「死に体2閣僚」を切るというのだ。改造なら自らの任命責任を直接的に問われないし、小沢一郎も黙認するだろうという思惑も見え隠れする。
その消費増税も、野田の発言は勇ましい。年末までに時期と上げ幅を決定しようとしている。その内容は2013年秋以降にまず税率を7~8%に引き上げ、15年以降に10%にする案が有力だ。これに対し、増税反対に凝り固まっている小沢が待ったをかけている。小沢は7日グループの会合で、出席者約40人を前に「財源が足りないから消費税率を上げるというのでは国民は納得しないし、次の選挙では支持されない」と真っ向から反対の意思を表明した。同グループは近く増税反対の署名活動を始める構えだ。
こうしたなかで出てきている構想が、消費増税法案に景気に配慮して凍結できる条項を盛る構想だ。野田が、消費増税法案に景気が悪ければ増税を中止できる「景気条項」を盛り込む方針を固めたというのだ。もともと 政府・与党が6月に決めた「社会保障・税一体改革成案」に増税の前提として「経済状況の好転」と明記されており、その線上にあるものだが、明らかに小沢ら反対派を意識した対応だろう。妥協をほのめかしつつ成立を図るという姑息な手段であり、いったん成立してしまえば、行け行けどんどんとなるのは目に見えている。
普天間移設問題も、オバマに公約した年内の環境評価書提示も、実態は手続き論であり、県知事がこれに応じて辺野古埋め立てを認めることはもはやあり得なくなった。それでも年内提示にこだわるのは、米議会もにらんだその場しのぎでしかない。度重なる民主党政権の失政で、沖縄は県ではなく「沖縄国」の様相を呈しだした。それももっとも勢力的な「首脳外交」を展開しなければ微動だにしない状況に陥っている。このままでは流れは「普天間固定」であろう。したがって事務手続きを行うこと自体が本質的解決につながらない時間稼ぎの姑息な手段となっているのだ。
野田はこれほどの重要懸案を抱えながら訪沖しようとしない。一川などを訪沖させても、現地を激高させる効果しかない。この自ら動かない傾向も野田政治の特色だ。小沢が消費税反対を述べるなら、小沢と会談して説得すべきだ。党員資格停止中の人間に首相が手も足も出ないのでは嘆かわしい。小沢の方から「野田君が会いたいというなら、別に僕は拒まない」と言われている始末だ。消費税をめぐっても与野党協議もさることながら、テーマが大きい。自民党総裁・谷垣禎一や公明党代表・山口那津男に党首会談を持ちかけて、堂々とイニシアチブを取るべきではないか。手練手管はすぐに見抜かれることを忘れない方がよい。
◎「致命的」と思わぬ一川の存在が「致命的」
◎「致命的」と思わぬ一川の存在が「致命的」
暗愚もここまで来ると「馬鹿に付ける薬はない」ということになる。防衛相・一川保夫が自らの責任について6日、「致命的なものは無い」と弁解したが、「致命的なものがないと思う発想が致命的」であることが分かっていない。自らの発言が及ぼす影響をこれほど理解していない閣僚は、はじめてお目にかかった。ただでさえ不可能な普天間移転など、かすみの彼方に飛び去ったと言わざるを得まい。
防衛省は閣僚も幹部も伝統的にまさに「失言のデパート」だ。背景には、保守対革新の安保論争や憲法9条論争があった。従って過去には理念・信条に根ざす発言が問題となるケースが多かった。93年の中西啓介の「半世紀前に出来た憲法に後生大事にしがみつくのはまずい」発言や、07年の久間章生の「原爆投下はソ連の参戦を防ぐためにしょうがない」発言がその典型であろう。しかし一川の場合は自らの「防衛素人」発言が物語るように余りに安っぽくて、まるで「失言の100円ショップ」だ。
沖縄防衛局長の発言は書くだけでもペンが穢れるから書かないが、一川の失言シリーズは、就任早々から始まった。まずは「安全保障の素人だが、それが本当のシビリアンコントロール」発言。次いで、国賓のブータン国王夫妻の宮中晩餐(ばんさん)会を欠席して、政治資金パーティーに出て「こっちの方が大事」。局長の暴言に関連して、「重荷を背負った」。普天間移設の原点にある米兵の少女暴行事件を「ランコウ事件」といった具合だ。
問題は政府・与党首脳が一川をかばうことに原因がある。首相・野田佳彦が「一川氏と一丸となって沖縄の理解を得る努力をする」と“過剰擁護”すれば、幹事長・輿石東は「辞める必要ない」と断定。これでは一川も「野田総理らから激励を受けた」とますます自信を持ってしまうのだ。「豚もおだてりゃ木に登る」となる。「致命的なものがない」発言もここから出た。
しかし、致命的なものはありすぎて困るのだ。まずルーピー鳩山が毀損した沖縄との関係にダメ押しの一撃を加えた。一川が陳謝に訪れても知事がわずか8分しか会談せず、名護市市長の稲嶺進からは、「担当閣僚の任にあるべきではない」と更迭論が出るほどである。沖縄はもはや感情的な反発で凝り固まっており、何を言っても聞く耳を持たなくなったと言ってよい。したがってもともとアメリカ向けのアリバイ作りに過ぎない環境評価書を、たとえ年内に沖縄県知事・仲井間弘多に提出できても、仲井間が受け取るかどうかが問題となる。受け取っても意見書は「ノー」となることが確実であろう。それにもかかわらず、辺野古埋め立を強行すればどうなるか。ピケを張った老人に死人でも出ればもう終わりだ。
要するに普天間移転は実現しない方向にむけて、一川の存在が決定的な材料となったのだ。一川が「もともと駄目だから致命的なものではない」と思っているとしたら度し難い。南スーダンへの自衛隊の派遣が決まったが、自衛隊員にしてみればこのようなトップの激励を受けて、命がけの任務に就くのではたまるまい。
すべては野田の“邪心”に根ざすことでもある。一川を守れるところまで守ったふりをすれば、消費増税でおかんむりの小沢一郎の覚えがよくなるという一点に尽きる。問責決議が成立した場合には、自らの手を汚さずに早晩辞任させることが出来ると踏んでいるのだ。ことはアメリカへのアリバイ作りだけでなく、小沢へのアリバイ作りとなっており、これではまっとうな御政道は成り立たない。
◎野田は対小沢の二正面作戦を避けた
◎野田は対小沢の二正面作戦を避けた
さすがの野田も、かつての大日本帝国のように中国戦線と太平洋戦線の二正面作戦ではたまらないとみたのであろう。野田は消費税増税と防衛相・一川秀夫更迭のうちまず消費税を正面に据えたのだ。閣僚更迭は後回しにしたのであるが、いずれにしても「引くも地獄進むも地獄の様相」を帯びる。一川と消費者相・山岡賢次は、当分“死に体”のままさらしておくしかないのだろう。
先週末からマスコミが一川の問責決議前の辞任説で突っ走っていたが、結果は間違った。政調会長・前原誠司が「少し勉強不足が過ぎる」言ったことなどがきっかけだが、野田の党内戦略から言えばもともと無理がある。野田はかねてから消費増税に関して年内に素案をまとめる方針を明らかにしていた。しかし小沢一郎が目の色を変えて反対しており、幹事長・輿石東も内心では消費増税反対とみた。野田は消費増税では、その小沢に対して真っ向から対決せざるを得ないのだ。5日に野田は、「不退転の決意」を表明した。消費税率10%への引き上げ時期や税率を明記した「素案」を年内をめどに取りまとめるよう政府・与党に指示したのだ。年末に向けてはこの超重要課題の処理で、閣僚更迭などやっていられないのだ。
一方で、いくら暗愚でも一川と、「疑惑がスーツを着て歩いているような大臣」(自民党・稲田朋美)山岡賢次は、よりによって小沢グループだ。とりわけ一川は輿石が推した人事であり、山岡は小沢が推挙している。その2閣僚を直ちに切ったら、間違いなく小沢は臨戦態勢に突入する。今のところは野田に寄り添っている輿石も離反するだろう。したがって、野田は問責決議が可決される前から一川を罷免しても何の得にもならないと判断したのだ。
それより、事態の成り行きに任せた方がよいとみたのだろう。折から自公両党は一川に加えて、山岡の問責決議案も国会最終日の9日に提出する態勢を整えた。提出されれば可決となる流れだ。通常、辞任をしなければ可決と同時に参院の審議はストップするが、野田は国会を延長をするつもりはないから、両相共におそらく辞任しないまま宙ぶらりんの状態で推移させるのだろう。それに現段階で辞任させれば野田の求心力ががたがたになりかねず、消費増税とりまとめにも影響する。
ここは何としてもしのいで、野田としては消費増税素案を年内にまとめ上げるために全力を傾注したいのだ。しかし過去5人の首相と閣僚は問責を受けて、いずれも“死に体”となり、結局は辞任に追い込まれている。とりわけ消費増税の素案がまとまれば、消費増税準備法案作成に向けて野党との交渉をテーブルにのせなければならない。したがって通常国会まで2閣僚を辞任させないまま推移させるわけにはいくまい。去年の仙谷由人、馬淵澄夫の例とそっくりの事態に陥るのだ。
前首相・菅直人と同様に小幅の内閣改造を断行するか、更迭・補充の形を取るかは別として、「暗愚と疑惑」の2人は切られる方向であろう。一川は精神的にぷつんと切れて、自ら辞任するかも知れない。はっきり言えば野田は小沢を意識して、“外圧”を活用して2閣僚を辞任させるわけだ。しかしドミノ倒しの2閣僚辞任となれば、政権に与える影響は大きい。菅の場合は、あわや3月危機で退陣か解散かという事態が待ち受けていたが、大震災が発生して九死に一生を得た経緯がある。野田の場合は、当然任命責任を追及されることになる。閣僚への問責可決で首相問責で追い込まれる“下地”が出来、次第に解散・総選挙を視野に入れざるを得なってくるだろう。
◎オフレコ破りには取材源が“逆襲”する
◎オフレコ破りには取材源が“逆襲”する
クビになった前沖縄防衛局の田中聡の発言は言語道断だが、これも表に出なければ「発言」にはならない。記事にしたのは琉球新報記者であるが、発言はオフレコを前提にしたものであり、結果的にはオフレコ破りとなる性格のものであった。この経緯を観察してあえて言わしてもらえば、筆者だったら絶対にオフレコを破って書くことはない。なぜなら記者の財産は取材先との信頼関係であり、それを破ることは自らの存在を否定し、国民にとって不可欠なより一層重要な情報へのアクセスを不可能にする可能性があるからだ。多数で懇談する場で得た情報を書くには出席者全員の同意が必要だ。
琉球新報が「『犯す前に言うか』田中防衛局長 辺野古評価書提出めぐり」と報じたのは先月29日。記事の末尾に「田中局長は非公式の懇談の席で発言したが、琉球新報社は発言内容を報じる公共性、公益性があると判断した」とオフレコを破った理由を説明している。確かに沖縄タイムズ紙との激しい競争がある中で、この記事を書けば、県民の感情を刺激して、大きな共感を買うことは間違いなく、あえてオフレコを破ってでも報道したくなるテーマであろう。報道すれば確実に政権を直撃する“英雄”にもなれるテーマである。表に出てしまえば公共性も公益性も確かにあるし、その場に居合わせた記者の感性が「県民として許しがたい暴言」と受け取ったであろうことも十分理解出来る。
しかし冒頭述べたように書いてはじめて「公共性、公益性」の論議が「始まる」のであり、琉球新報の理由づけはあえてオフレコを破る真意については語っていない。職業には「掟」と言うものが必ずある。例えは悪いが「指詰め」が象徴する暴力団のそれから、ホワイトハウス詰め記者団の紳士協定(a gentlemen's agreement)にいたるまで様々だ。ホワイトハウス詰め記者の場合も少数によるオフレコ懇談があるが、ウオーターゲート事件の激しい政局取材合戦の最中でもオフレコ破りがあったという例は皆無であった。防衛局長の懇談に出席していた朝日新聞の那覇総局長が3日付朝刊の〈記者有論〉で「いまこう書くのは大変気が重いが、たぶん記事にしなかったのではないかと告白せざるを得ない。酒の席で基地問題を男女関係に例え、政府が意のままに出来るかのように表現するケースは、防衛局長に限らず、時々聞いたことがあるからだ」と述べていることは注目される。出席者の大半がこうした考えであったことを物語るからだ。しかしこの種の発言はいったん外に出ると「正義」としてまかり通る。事実上解禁となり、他の記者も追いかけざるを得ない。
なぜオフレコは守らなければならないかだが、まず「小の虫を殺して大の虫を助ける」ということがある。政治記者の場合大の虫とは政局の動き、外交・内政とその帰趨、国会の展望など、国家の命運に関わる超重要課題を重要視する。酒の会などでの取材対象の失言は、その重要課題の「傍証」とはなるが、決定打とはならないケースが多く、オフレコを破ってまで書かない。その代わりより重要なニュースで勝負するのだ。オフレコなら本音を聞けるケースが大きいのだ。次に重要なことは、古い言葉だが、他社との“仁義”がある。1人だけ抜け駆けをして、他の仲間の記者を裏切ることはやるべきではないし、やれば絆は切れる。どうしても記事にしたいという問題が生ずることがあるが、その場合は幹事社にアピールする。幹事社は出席者全員に図った上で解禁かどうかを判断する。琉球新報の場合はこの手続きを踏むべきだった。
よく言われるオフレコ懇談会批判に「記者は書くために働いているのであり、聞いたことはすべて書くべきだ」と言うものがあるが、これは多様な情報収集の現場を知らない。ゴミ記事に至るまですべてを書いて、重要ニュースが欠落する羽目になれば、それこそ国民共通の知る権利は達成されないのであり、ジャーナリスト失格ではないか。独自取材ならもちろん書くか書かないは自由だが、多数の場を間違いなく“利用”して得た情報を、勝手に書くのは“仁義”に反するのだ。
新聞、通信社にはオフレコ懇談会や夜討ち朝駆けの内容を記者がメモにしてデスクに提出するのが通例だ。メモにした情報を政治部記者全員が掌握して、判断に誤りを来さないように期するためである。これには全く問題はない。しかし、最近はこのメモが政界などに出回っている。自民党前政審会長の山本一太が、自らのブログでこの傾向を分析している。山本によると「今の永田町には、マスコミ関係者との『オフレコ懇談』などというものは存在しない。懇談の相手が政府高官や党幹部なら、必ず『発言メモ』が本社に上がる」と実態を暴露している。
したがって山本は「この記者に言えば、あそこらへんには伝わるだろうなと考えながら、言葉を選ぶ」のだそうだ。しかし自分のオフレコ懇のメモが回ってくることもあるようで、あきれている。山本は「今後はやけに詳しい記者メモが出回った時は、このメモを作った記者の実名を書かせてもらう」と警告している。取材源からの警告は初めて見たが、山本が読者数トップクラスの自らのブログで叩けば、その記者は永田町から総スカンを食らう可能性がある。もっともメモを書いた本人が流布することはまずあるまい。今後取材源が泣き寝入りするどころかwebを武器に反撃に出るケースが想定されて面白い。山本は「信頼関係のあるプロフェッショナルから、情報が漏れたことは一度もない。そういう人じゃないと、ディープな意見交換なんて出来るわけがない」と強調している。まさにいつの時代も記者と取材源は信頼関係だけでもっているのだ。
◎野田Vs小沢がコリジョンコースに入った
◎野田Vs小沢がコリジョンコースに入った
このところ民主党元代表・小沢一郎による消費増税反対の発言が尋常ではない。1日は「鉄槌が下る」とまで言い切った。一方首相・野田佳彦は同日の記者会見で並々ならぬ決意を表明、「先頭に立つ」と宣言した。西部劇なら単線を遠くから二つの機関車が正面衝突のコースを走り始めたことを意味する。これを「コリジョンコース現象」という。おそらく激突して火花を散らすか、どちらかが急ブレーキを掛けるかのぎりぎり勝負となるだろう。
観察していると11月15日の小沢と幹事長・輿石東の会談がきっかけとなっているように見える。会談内容は分からないが、以後小沢は環太平洋経済連携協定(TPP)や消費増税で野田批判を繰り返し始めた。TPPでは「古くさい卑屈な言葉の使い分けを外交で演じたのは、日本にとって大変なマイナスだ」と正面切って批判。30日夜には「いま消費税率を上げれば党が二つに割れる。このまま衆院解散になれば、戻ってくるのは50人ぐらいだ」と脅しをかけた。そして1日に至って「政府から消費税の問題も含めいろいろアナウンスがある。皆さんを無視し、ばかにすると必ず大きな鉄槌(てっつい)が下されると非常に心配している。政権交代の原点に返り、初心を取り戻さなくてはいけない」とまで言って脅しをかけた。
せきを切ったように攻勢に出た小沢だが、輿石の方は消費税での発言を自ら封じてしまっている。しかし輿石はかねてからの消費増税反対論者である。1月の通常国会の代表質問では「『民主党は衆議院の任期中に消費税率を上げることはない』ということを一貫して主張してきており、果たしてそれが守られるのか、不安の声が聞かれるのも事実だ」と首相・菅直人を追及している。小沢・輿石会談はその後の動きを見ると「野田が消費税で目の色が変わっているのは困ったモンだ。痛めつけるか」くらいのことであったのだろう。小沢は「ボクがやるから君は黙っていてくれ」というところだ。輿石を温存して、いざというときの調停役または決め手に使おうということではないか。
しかし小沢の発言を分析すると、危険な側面がちらついているのが分かる。「50人しか戻れない」がその典型だ。当選した308人のうち50人しか戻れないとなれば、小沢チルドレンは全滅だ。「お前ら、野田を捨てておくと消費税解散に追い込まれて、大変なことになるぞ」と言外に煽っているのだ。その煽りが利いてきて、党内はTPPの比ではないほど反消費税の声が満ちてきた。小沢は床に油をまいて回っているのだ。しかし「党が割れる」とは言っても「割る」とは言っていない。時事通信によると側近の元参院議員・平野貞夫が29日の講演で、小沢が「党から出ると簡単に言うな」と周囲に語っていることを明らかにしたという。さらに小沢は平野に「国民の生活が第一ということが守れる政権を続けることだ。今の政権にそれができないなら、そうさせることだ。その意見を多数にすることが(新党結成より)優先される」と語ったという。これなら条件闘争であり、新党結成の動きではない。いくら何でも裁判闘争中の刑事被告人が新党を結成できるかということでもあろう。「新党、新党」とうるさい亀井静香との会談も牽制球であることになる。しかし、こればかりは激突の“弾み”があるからまだ断定は出来ない。
こうした小沢の動きについては野田は十分承知の上で1日の発言に至ったのだろう。何と「私が先頭に立ち、年内をめどに取りまとめるため政府内、与党内の議論を引っ張っていく」と発言したのだ。「先頭に立ち与党の論議を引っ張る」という“宣言”は、野田がはじめて投げ返した小沢に対する牽制球に他ならない。小沢の脅しに脅してぎりぎりのところで妥協を迫る政治手法には、あえて屈せずに無視して突っ張ったのだ。野田は側近に「私が一歩でも引いたら総崩れになる」と漏らし、ともすれば腰が引けている閣僚や側近らの奮起を促しているのだ。いずれにしてもコリジョンコースであることには変わりがない。年末までに素案がまとまるのか、それとも、あえなく野田が小沢に降伏するのか。民主党政権の正念場が到来しつつある。
◎党首討論で野田がなぜ勝ったか
◎党首討論で野田がなぜ勝ったか
大震災で嫌々お見合いしていた与野党が、ついに“破談”に立ち至った。それも首相・野田佳彦と自民党総裁・谷垣禎一の党首討論は軍鶏(シャモ)のけんかのように、不毛の蹴飛ばしあいに終始した。総じて、谷垣の追及に迫力を欠き、6.5対3.5で野田が勝った。勝敗を分けたのは、野田が焦点である環太平洋経済連携協定(TPP)参加と消費増税で世論の支持を背景に地歩を築いたにもかかわらず、正面切って反対と言い切れない谷垣が手続き論に終始した結果だ。
本来党首討論は大政党のリーダーらしく、じっくりと国政の在り方を双方向で議論する場であったはずだ。ところが谷垣は対話どころか内容に欠ける揚げ足取り質問に終始した。これでは一般議員の予算委の点数稼ぎ質問と変わらず、野田に作戦負けをした。無理もないTPPでは幹事長・石原伸晃が参加に前向きの姿勢を見せているように最終的には参加を是認するしか道はなく、消費税では参院選で10%への増税を公約しており、本質的な差異がないからだ。従って核心を突けず、勢い手続き論に傾斜せざるを得なかったのだ。 民主党がマニフェストに事実上消費税反対と書いて総選挙に勝って、今度は推進することがけしからんと言っても、消費税導入が必要であるという大局の認識では変わらない。結果として重箱の隅を突っつく追及となったのだ。早期解散・総選挙で政権奪回に持ち込みたいという焦りが、質問を上滑りさせたのだ。マニフェスト違反の政権の欺瞞(ぎまん)性は国民が審判すればよいことであり、消費税の是非とは本質的に違う。政権が自党と同じように消費税に前向きに転じたのであれば、これを是認する大人の寛容さが必要だ。
そうした自民党の抱える矛盾を野田は逆襲した。TPPに関しては野田は谷垣が当初は「交渉に参加することまで反対できない」と述べていたにもかかわらず、その1週間後にAPECでの参加表明に反対したことをとらえて「立ち位置を示せ」と迫った。消費税に関しても自民党の財政健全化法案に「超党派会議で政府の素案を検討するとある」と指摘、素案の段階での与野党協議を求めた。TPPに関して谷垣は、政府から情報が全然伝わってこないと反論したが、これは自業自得だ。外務省も経産省も何でも反対野党化した自民党に情報を渡すわけがないではないか。いまや官僚も自民党を「情報を渡しても安心な政党」とみなさなくなったに違いない。
最後に谷垣は「国民との信頼関係なくして国家の大事を成し遂げられるはずがない。だから信を問うて足腰を鍛え直して出てこなければならない」と取って付けたように解散・総選挙要求したが、野田に無視された。逆に野田は「同じ思いがあるのなら国民のために成案を得るようお互いに努力しよう」と呼びかけたが、確かにに「賛成だが反対」という谷垣の主張には無理がある。
党首討論の傾向は一貫して党首が言いっ放し、けなしっぱなしの風潮が定着してきたが、とりわけ今回はその傾向が目立った。背後に解散綱引きへの思惑があるのだが、これでは進歩がない。問題は質疑の時間が少なすぎることだ。谷垣の場合も持ち時間が40分では、相手を切ることに精一杯となり、じっくり本質をえぐるところに至るまい。すくなくとも3時間は時間を取って、怒鳴り散らすのではなく対話形式で問題の本質をえぐり出す形が必要だ。
結果的に党首討論を通じて鮮明になったのは国の命運を左右するTPPと消費増税において、民主、自民両党に大きな差異がないという点であろう。谷垣はそこを、手続き論で攻めようとするから無理がある。もし自民党が政権に復帰したらどうするのかを考えるべきだ。ここは潔く国家百年の大計を優先させて、対決と協調を是是非非で判断すべき時ではないか。谷垣は消費税を「素案でなく成案を閣議決定せよ」と言うが、素案の段階から与野党協議に応じて、自民党の主張を取り入れさせる方がまっとうな政治だ。民主党内で小沢一郎が邪悪な消費税反対論をぶち始めており、谷垣は野田のお手並み拝見といきたいところだろうが、むしろ逆に野田サイドに立ってはどうか。いずれにしてもTPPも消費税も総選挙の焦点になっても争点にはなりがたい。議論としては双方痛み分けなのだが、捨てておいても次の総選挙では消費増税が影響して、政権政党であるが故に民主党が有権者の腹いせにあって負けるのだ。谷垣はそこに理解が至らない。ドジョウに食われるようでは、討論後のドジョウ屋の酒もさぞや苦かったことだろう。
◎全国紙は「消費税で共同宣言」の渡辺提言に同調せよ
◎全国紙は「消費税で共同宣言」の渡辺提言に同調せよ
何と28日付の朝日新聞で読売会長・主筆渡辺恒雄の、矍鑠(かくしゃく)たるインタビューを読んで、いつもながら波長が全く同期しているのに気づいた。「清武の乱」が主要テーマだが、こんな話は雑魚が鯨に噛みついているようなものでどうでもいい。太筆書きの政論が絶妙なのだ。「野田佳彦首相はいいんじゃないかな。うちの社論に80%近い感じがする。正直だし、やる気がある」「若手なら小泉進次郎君がいいね。中堅では林芳正君や石破茂君もいい 」など全く筆者と同じだ。自民党幹事長・石原伸晃や総裁・谷垣禎一は名前すら出してもらえなかった。「政治が劣化し小型化している」もその通り。大阪市長・橋下徹如きに振り回されているのを見ればよく分かる。
白眉は経済危機へのとらえ方だ。「このままだと、1929年の世界恐慌の比じゃない。経済パニックになるかもしれない。僕は朝日や毎日など他の新聞も巻き込んで、新聞社が一緒になって共同提言をするべきだと思う」と、60年安保の時の「七社共同宣言」と同様の提言を唱えたのだ。60年安保は左翼の革命思想と結びついて、デモがちまたに溢れ、新聞はこれを煽り、革命寸前まで行った感があった。新聞の「流血事件は、その事の依ってきたる所以を別として、議会主義を危機に陥れる痛恨事であった。いかなる政治的難局に立とうと、暴力を用いて事を運ばんとすることは断じて許されるべきではない」とする七社宣言で、潮が引くように収まった。そして渡辺は小沢の名前こそ挙げなかったが「政局にとらわれている場合じゃない。政争を1年休戦して、経済政策を片っ端から法律にする。TPPも、税と社会保障も片付ける。災害復興もどんどんやる。がれきがいまだに片付かないなんて、こんなばかなことがあるか。国家じゃないよ。それらをまともにやろうと思えば、まず消費税を上げること。ここは、朝日新聞と一致しているんじゃないかな」と消費税増税で政治休戦の宣言を提唱したのだ。
ライバル紙を使ってナベツネ節の言わんとするところは、「清武」問題ごときではなく、まさにここだったのだ。折からナベツネの褒めた野田が消費税で突っ張り始めた。29日、消費税の税率や引き上げ時期をできるだけ具体的に記した大綱を、年内をめどに取りまとめるよう、近く指示する考えを示した。これは小沢の主張とは真っ向から対立する。消費税解散でグループ消滅を危惧する小沢は「強行すれば政権運営が不安定になり、党運営も厳しくなる。野党に攻撃の種も与える」と相変わらずの独善的な発言を繰り返している。なんとオオカミ老年・亀井静香とまでわざと会談してみせて「新党やるぞ」とばかりにすごんでいる。政治家は今こそ己を捨てるときなのに全く分かっていないで、また政局だ。
これに野田周辺はまともに乗せられて理念も何もない先延ばし論が出始めた。こういうときに小沢に秋波を送って妥協しようとするかしないかで政治家の大小が決まるが、「小」を露呈したのが財務相・安住淳、国家戦略相・古川元久、幹事長代行・樽床伸二だ。一番大事なポジションの安住が「国会が風雲急を告げてくると、年内といかなくなる事情もある」と逃げ出した。古川も「年内にここまで決まっていなければいけない、というものが具体的にあるわけではない」。樽床が「政府の考え方を尊重するが、党の結束と両立しないといけない」と言った具合だ。このままでは、野田の消費増税路線そのものが危ういと感じていたが、野田はここにきて踏みとどまった。国会答弁で「まもなく政府・与党の改革本部を設け、改めて方向性を提示したい。すでに社会保障については、政府・民主党内で議論が進んでいるが、税についても年内をめどに具体化し、今年度中に法案を提出する運びで考えている。大綱の内容には、なるべく具体的なものを入れ込んでいきたい」と路線に変わりがないことを明言したのだ。
野田は消費増税に失敗したら鳩山由紀夫、菅直人の両食言首相と全く同じことになると気づいているのであろう。そのぶれない姿勢があるからナベツネも評価するのだろう。今日の党首討論でもこの方針は明確にするだろう。小沢がかっとなって何をするか分からないが、ここまできたらガチンコ勝負も辞さない覚悟とみた。消費増税はまだとっかかりだ。ここでぶれたら一挙に政権基盤が液状化現象に突入する。消費税が出来ないとみれば海外のハゲタカ共が日本売りを浴びせかけることは目に見えている。ナベツネの言うようにここは各全国紙も野田を応援して「共同宣言」を出すべきだ。朝日の社長はどうした。自らの紙面で提唱されているのだゾ。毎日、日経、産経、東京も消費増税では異存ないはずだ。一番の頃合いを見計らって経済危機克服と消費増税と政治休戦の宣言を出せ。それにつけても渡辺は骨太で最後の言論人だ。長生きしてもらいたい。
◎橋下は「市政」を固めてから「国政」に物を言え
◎橋下は「市政」を固めてから「国政」に物を言え
内容も実現性も不明の「大阪都」構想なるものを国に突きつけて、「年内にやらなければ衆院選候補を擁立する」という。新大阪市長・橋下徹が国政の脇腹にドスを突きつけた形だ。反対の立場を取ってきたはずの民主、自民両党も毅然(きぜん)と反応するどころか、「おたおた」として、世論や利害得失を計算し始めている。官房長官・藤村修にいたっては、自分の選挙を意識してか“すり寄り”姿勢まで見せ始めた。しかし、「市長さんよ冗談ではない」と言いたい。国に性急な期限を切る前に、自分の頭のハエを追うのが先ではないか。都構想自体が自治体レベルをクリヤしていないでないか。市議会の議決など問題は山積しており、それを無視してまず先に国の対応を求める。これではだだっ子市長だ。
まるで総選挙で政権を握った鳩山由紀夫そっくりでもある。“民意、民意”と夏の蝉のように鳴き続けて外交・内政をろう断して、侮蔑と共に去った。そっくりな閣僚もいた。厚生官僚を真っ向から批判して厚労相となり、官僚から拍手ゼロで迎えられて、ほとんど何も出来ずに寂しく去った長妻昭だ。橋下の場合はもっと厳しい反応を受けるだろう。当選早々「政治に介入したり民意を無視した職員には去ってもらう」と、早くも市職員に対して人事権を振りかざして全面戦争を仕掛けている。目が据わった顔つきや発言ぶりから見るとまるでヒットラーだ。これでは真の政治は出来ない。
そもそも大阪都構想なるものが、府と市を再編して2重行政を避けること以外に何か内容があったかということだ。橋下は小泉純一郎の「郵政改革」と酷似したワンフレーズ・ポリティックで選挙を行い、勝利をおさめたが、具体論がない。政令指定都市である大阪市・堺市と大阪市周辺の市を廃止して20もの特別区を作ると言う。大阪市内だけでも11の特別区をつくって区議会も設置する。明らかに膨大な財源が必要となるがどこから出すのか。2重行政どころか「財源多重行政」にならないか。区割り自体もどうするのか。大阪と堺とは文化も伝統も違う。水と油の側面があり融合できるのか。
ハードルは枚挙にいとまがない。まず大阪市議会だ。維新の会は過半数がなく、他の政党は全党が都構想に反対している。橋下は議会が反対なら得意の「民意作戦」で、議会を解散するという。しかし解散するには有権者の3分の1の署名と、その後の住民投票で過半数を獲得しなければならない。筆者は選挙での「民意」は都構想だけに選択基準を合わせたとは思えない。なぜなら橋下が上記の区割りや財政問題などの具体論に踏み込まず、焦点をあえてぼかしたからだ。しかし2重行政が大阪の発展を阻害しているという主張には有権者が飛びついたのだろう。既成政党への批判票もあったに違いない。したがって都構想の内容が区割りを含めて明示された上での住民投票で過半数を得られるかは疑わしい。そしてその後の市議会選挙で過半数を取れるかどうかはもっと可能性が少ないのではないか。ビールのコマーシャルのように最初のうまさは持続しないのだ。また議会を解散しなくても都構想の実施には住民投票が必要だ。
橋下は自らこうした問題を処理したうえで、国に法改正を求めるのが本筋ではないのか。国の立場からすれば生煮えの都構想なるものを、みんなの党のようにあやかろうとして「はいはいそうですか」と受け入れられるわけがないではないか。今や政令指定都市は19に達しており、愛知県でも「中京都構想」なるものが存在する。大阪だけ認めれば全国で安易な「疑似都構想」が走り出して収拾がつかなくなる。それでも衆院選に維新の会を近畿圏で擁立するというならやるがよい。確かに藤村をはじめ幹事長代行・樽床伸二、国会対策委員長・平野博文ら大阪府内選出議員はあえない最期を遂げるかも知れないが、国政を左右できる議席数確保は無理だろう。橋下の言う「70議席」などは夢のまた夢だ。そのミニ政党でどうやって大阪都実現のための地方自治法改正案などを通せるのか。
民主党内は「地方分権の目指す方向と逆行する」とする反対論が強く、自民党も父親・石原慎太郎の影響下にある幹事長・石原伸晃が賛成しているほかは、慎重論が根強い。要するに選挙勝利の高揚感で、橋下はおごっているのだ。一週間休みを取ると言うが、頭を冷やせと言いたい。国政は一市長が振り回せるほど安易ではない。2重行政は府と市のトップを維新の会が占めたのだから、今こそ連携を密接にして解消へと動くべきではないか。まずその手腕が問われなければなるまい。出来るかどうか分からない派手な構想を振りかざして市政を停滞させる前に、維新の会の“実行力”で2重行政解消を実現するのが先決だ。それにしても全国紙は危うい「橋下政治」に発行部数を気にしてか、警鐘を鳴らさないのは問題だ。
◎カメ発「幽霊新党」が総スカン
◎カメ発「幽霊新党」が総スカン
真夏の幽霊ならゾクゾクと寒気がするが、真冬の幽霊ではもともと寒いからゾクッともしない。国民新党代表・亀井静香が「幽霊新党」を語って、政界から総スカンと侮蔑を受けている。政党助成金目当てのうさんくささが原因だ。
政治家にも器量の大小があって、器の小さい政治家が発言すると総じて永田町がむかつく問題が二つある。一つは「解散」。他の一つは「新党」だ。お前にだけは言われたくないという感情が先に立つのだ。よい例が鳩山邦夫の新党発言だ。鳩山は去年の3月、「私は政界再編の坂本龍馬をやりたい」と述べて、この指とまれと動いたが、誰もとまらず、いまは尾羽打ち枯らしつつある。今の政界で「新党」と発言すれば、永田町がピリピリと反応するのは小沢一郎一人くらいのものだろう。亀井が集めて第3極を目指せるなどという判断はおこがましいのだ。小泉進次郞が郵政での親の敵とばかりに「新党新党と言うが、言う人が新しくない」と言い切った通りだ。
にもかかわらず、亀井がひろげた大風呂敷に飛びついたのが産経新聞。なんと25日付朝刊トップで、でかでかと「亀井代表が新党構想、石原知事を党首」とやったのだ。筆者は瞬時に「カメに乗せられたな」と思ったが、その後の永田町の反応を見れば歴然。クソミソなのだ。まず、みんなの党代表の渡辺喜美が「政党助成金欲しさというのが露骨。助成金ありきの新党はすぐに飽きられ、必ず失敗する」と狙いを暴いた。名前を亀井に出された、たちあがれ日本代表・平沼赳夫は「彼の一人芝居だと思う。カリスマ性がないから石原慎太郎を呼んでこようとしている」と手厳しい。当の都知事・石原も「アイム クワイト オールド マン」と年をとりすぎていることを理由に拒絶の弁。大阪府知事・橋下徹は25日夜「新党に参加することはない」と断言。肝心の小沢グループも、小沢から若手に「乗らないように」とのお達しが届いていると言われている。
かくして産経の報道は一夜にしてつぶれたのだ。朝日の扱いを見れば政治記者の判断力が分かる。朝日は26日朝刊4面のベタ扱いだ。無視すれすれくらいの判断が正しいのだ。それにしても亀井の最近の発言は常軌を逸している。「消費増税なら連立離脱」「TPPやるなら覚悟がある」など、ざっと数えただけで4回「政権離脱」発言を繰り返し表明している。それでいて今度は新党発言。まるで「オオカミ老年」と化している。狙いと原因はどこにあるのだろうか。一つは前首相・菅直人と比べると首相・野田佳彦が御しにくい点だろう。消費増税にしても亀井の言うことなど全く聞かない。TPPも亀井の反対を押し切って事実上の参加表明だ。これでは亀井が「命」とする郵政改革法案の成立などとてもおぼつかない。野田にしてみれば、消費税やTPPに反対する国民新党は、連立相手としての存在価値がなくなってきており、むしろ自公を説得する方が大切なのだ。
加えて自民党筋は「菅の時は参院議員を自民党から10人引き抜くと言って、官房機密費をジャブジャブ使ったが、野田からは1銭も出なくなった」と解説する。たしかに亀井の一本釣りも6月に「雑魚」が1匹かかっただけで、後はなしのつぶてだ。亀井はその菅にも新党を働きかけたと言われている。しかしさすがに菅は名前が出されると悟って、その場で断ったようだ。
ようするにカメさんは自分の出番がない上に、国民新党も依然支持率がゼロと行き詰まった。野田もよいしょをしてくれないし、面倒を見ようという財界人もいない。切羽詰まって空想性虚言症的な「新党」説を流したのだ。しかし名前に上げた主要人物すべてが拒絶反応を示すようではお終いだ。だいたい根回しもなしにイチかパチかの新党構想など、政党党首たるものが軽々しく口にすべきものでもあるまい。こけにされた国民新党幹部の1人は「はらわたが煮えくりかえっている」のだそうだ。そのうちにカメは裏返しにされて、日干しになるのがオチだ。
◎解散への最大の武器は問責可決だろう
◎解散への最大の武器は問責可決だろう
案の定「話し合い解散」の石原伸晃発言に対して「幹事長失格」(伊吹文明)と厳しい反応が自民党内で生じた。「軽い」のだ。それはともかくとして、自民党は「解散」要求の掛け声だけは高いが、問題は嫌がる馬を水辺でいかにして水を飲ませるかにある。首相・野田佳彦は自殺行為に等しい「消費税解散」を避けるため、最後までじたばたするだろう。マスコミも自民党執行部もまだ解散への道筋を全く読めていないが、結局最大の武器は参院における問責決議可決しかあるまい。
まず今後の政局の鳥瞰図を描くと次のようになる。野田は焦点の消費税増税案を年内にまとめて、準備法案として来年3月末までに国会に提出する。一方、今臨時国会は終盤で一挙に対立が盛りあがり、おそらく消費者相・山岡賢次の問責決議案が可決されるだろう。山岡は辞任を拒否するが、可決されれば遅かれ早かれ辞任に追い込まれるだろう。これが野党による政権攻撃の突破口となる。通常国会では冒頭から解散をめぐって対決ムードとなる。来年度予算案は衆院を多数で通過し成立するが、問題は予算関連法案だ。野党は予算を裏打ちする特例公債法案を人質にとって、野田を追い詰めようとするだろう。昨年の菅直人政権への攻勢と同様の手順だろう。菅は3.11大震災があって生き延びたが、通常の場合は予算関連法案が通らなければ政権は退陣か解散かの、ぎりぎりの段階まで追い詰められる。しかもその最中に野田は消費増税準備法案を提出するのだ。これはまぎれもなく3月危機であろう。
ここで野党は解散・総選挙に直結する手段を講じなければならない。一番手っ取り早いのは内閣不信任案の可決だが、衆院においては圧倒的に与党が多く不可能だ。総選挙恐怖症の小沢一郎も今度は賛成に回ることはないだろう。成立させて解散を野田が選べば、小沢グループは壊滅する。小沢の言う「出撃しても戻れない特攻隊」となるからだ。不信任案が駄目となれば野党は問責決議を可決するしかあるまい。問責の材料は現段階でも山ほどある。野田が環太平洋経済連携協定(TPP)で“二枚舌”を使い、消費税では4年間導入しない公約を破って増税準備法案を提出したことを突くしかない。「法案は増税したことにならない」などという詭弁は通用しない。外交・内政にわたっての“二枚舌”をテーマとするのだ。
過去の例を見てもこれほど格好な問責のテーマはない。首相への問責決議が可決された例は二度あるが、福田康夫に対しては後期高齢者制度の廃止に応じないこと、麻生太郎に対しては解散引き延ばしと発言のぶれがテーマだ。全くいいかげんな材料である。だいたい後期高齢者制度など政権が変わっても、いまだそのままではないか。それに比べれば“二枚舌”ほど簡潔にして明確な材料はあるまい。問責決議は不信任可決と異なり法的拘束力はない。しかし過去に成立した5例のすべてが結果的に閣僚は辞職、首相は退陣につながっている。福田の場合は3か月間持ちこたえたが、結局ぷっつんと切れた。麻生太郎の場合は解散・総選挙での与党敗退により、2か月後に退陣した。首相は、「ぷっつん」か解散・総選挙に追い込まれるのだ。
問責の戦術としては3月下旬か4月に上提して一挙に解散に追い込むのがまず第1の手段だ。それでも野田はごねるだろうが問責さえ成立させれば主導権は野党にある。問題はマスコミが「参院の審議拒否はけしからん」と一週間後くらいから野党に矛先を向けるが、これに持ちこたえられるかどうかだ。自民党が死んだ気になってマスコミの攻撃から目をつむり、耳をふさいで、1,2か月間拒否し続ける度胸があるかということだ。続けられれば野田も音を上げる。解散を勝ち取るにはこれしかない。しかし固い契りがあるはずの公明党あたりが耐えられなくなって裏切る可能性もある。一方、野田が音を上げた場合に実現し得るのが、消費税、特例公債法案を成立させることを前提とした「話し合い解散」だ。これが実現する場合は6月の会期末となろう。通常国会ではこの3月危機と6月危機の二つのチャンスしかない。これを逃せば、その後の解散・総選挙の予想など「鬼が笑う」から出来ない。
◎消費税での政界再編は机上の空論
◎消費税での政界再編は机上の空論
どうも最近大政党の幹事長としては発言に重みがないのが自民党の石原伸晃だ。環太平洋経済連携協定(TPP)のAPECでの参加表明に反対して首相・野田佳彦の問責決議案上提に言及したかと思うと、180度軌道修正して「日本の農業が壊滅するから参加すべきではないという議論をしているステージからは動いた」と事実上の参加表明だ。おまけに野田が離党すれば政界再編だという。自民党の論客というが、話が場当たり的で支離滅裂だ。ではその政界再編が消費増税を軸にあり得るかというと、まず困難だろう。出て行くとすれば小沢一郎だが、“沈む泥舟”に果たして何人乗るだろうか。
石原の政界再編発言は「野田首相らが民主党を割ってでも消費税を10%にするんだと言い、私たちも割れるかもしれないが、自民党もそうやるんだと言えば、新しい政治体制ができるかもしれない」というものだ。しかし時局認識があさってを向いている。「野田が民主党を割る」ことはあり得ないのだ。野田は政権サイドで消費税を実行に移そうとしているのであり、割る場合にはこれに反対する勢力が割るしかないのだ。その勢力とはにわかに消費税反対で旗幟鮮明にした、小沢サイドでしかあり得ない。やる場合は「新生党」結成方式の踏襲だ。93年にすべてを「政局化」して、小沢らが宮沢改造内閣不信任決議案に賛成、自民党を離党して新生党を結成。非自民7党1会派による38年ぶりの政権交代を実現したのだ。
しかし、小沢が20年前の政局方程式にはたきを掛けて持ち出しても、果たして実現へのうねりが台頭するだろうか。筆者はしないとみる。やろうにも出来ないのだ。93年当時の小沢はまだはつらつとして新鮮味があった。しかし、現在は公判中で刑事被告人の身で、党員資格停止処分中でもある。度重なる政局の中心として満身創痍(そうい)なのだ。この傷だらけの“灰色度”の高い政治家が、「この指とまれ」と言っても、展望のない新党に勢いが出るだろうか。おまけに新党に政党交付金が払われる要件である、「年末までの新党結成」が間に合うわけがない。1人1億円はかかる新党結成費用を捻出できるか。いくら側近の輿石東が幹事長でも、小沢が幹事長時代に「組織対策費」としてジャブジャブ使った政党交付金も使えなくなった。と言うのも、前首相・菅直人がイタチの最後っ屁のように、組織対策費のような不透明な支出は、監査法人のチェックが入り認めないことを決めているからだ。
だから小沢は、離党しようにも出来ないのである。それではなぜ政局に直結する消費増税反対を唱えるかというと、発言が語るに落ちている。「追い込まれて最悪の状況で選挙になるのではと心配している。次の選挙で自分1人が戻ってもしかたがない。皆が戻らないと力を発揮できない」というのだ。詰まるところが、消費税選挙では小沢陣営の“壊滅的打撃”が予想されるからである。何も小沢は政界再編が可能とみて発言しているのではあるまい。グループを“落選”の脅しで、早期解散反対へとあおり始めたのだ。
石原のもう一つの誤算は「私たちも割れるかもしれない」であろう。消費税をめぐって自民党が割れるようなことが起きるとでも言うのであろうか。麻生内閣で改正所得税法の付則104条により消費税導入の路線を敷いたときにも、去年の参院選で10%への増税を公約としたときにも、党分裂の動きが生じたとは寡聞にして聞かない。最近TPPをめぐって執行部批判を強めている石破茂が党を割るだろうか。割らない。石破は「10%増税が嫌だというなら党を出て行くべきだ」と全く逆であり、ポスト谷垣へも意欲を見せている。石破は勉強会を来月1日にもを立ち上げるなど、ポスト谷垣をめぐって世代交代への動きも台頭させている。石破の対抗馬は石原で「石石対決」などとはやされるが、石原のこの体たらくでは勝負は戦う前からついている。いずれにしても小沢を軸とする古色蒼然たる政界再編論は言うまでもなく困難だ。ましてや野田が離党してまでの再編は、机上の空論でしかあり得ない。折から与野党は解散を軸に対決姿勢が強まる一方だ。政界再編とはほど遠い状態に向かいつつあるのだ。
◎野田の「消費増税でも二枚舌」はすぐにばれる
◎野田の「消費増税でも二枚舌」はすぐにばれる
松下政経塾というのは「詭弁」「強弁」を教えるところなのだろうか。首相・野田佳彦や政調会長・前原誠司らの発言を聞く度に国の外交・内政を「論争技術」で切り抜けようとしているとしか思えない。大学の弁論部が内容よりも話術での「論破」に傾斜しているのとそっくりだ。野田は環太平洋経済連携協定(TPP)での“二枚舌”に次いで、最大の焦点消費税増税でも、法案は作るが、そのあとの選挙結果次第で増税の実施はしないかもしれないという詭弁を弄した。誰がこれを信ずるか。法案成立の既成事実が出来れば増税確定以外の何物でもない。
野田政権の「詭弁」「強弁」のすべては民主党が09年の総選挙前の公約である政策集に「税率5%を維持」すると記して選挙に勝ち、首相・鳩山由紀夫が「4年間、消費税の増税を考えることは決してない」などと繰り返したことに端を発する。その後首相・菅直人が参院選前に消費税導入へと方針転換、6月に閣議決定にはいたらないが「2010年代半ばまでに消費税率を10%とする」方針を、一応決めている。これは明らかに衆院選の公約をそのままにして、なし崩しで消費増税に踏み込もうとする意図がうかがえることになる。
これを背景として見ると、野田の第1の詭弁は任期中の消費増税を否定しておきながら、増税法案だけは実施が選挙後だから任期中に作ってもよいという点に集約される。しかし法案を作るということは、誰が見ても増税への下地を確立したことに他ならない。ここに詭弁がある。第2の詭弁は、21日の答弁。選挙に敗北した場合には「当然、民意を踏まえた対応がある」と述べて、あたかも増税の実施は困難になるとの認識を示したことだ。しかし法案成立後の総選挙に敗北したからといって増税が実現しないということはあり得ない。なぜなら「経済状況を好転させることを前提として、段階的に消費税を含む税制の抜本的な改革を行うため、11年度までに必要な法制上の措置を講じる」という路線は、改正所得税法の付則104条で自公政権が敷いたものである。だから政権が変わってもせっかく成立した法案を次の政権でほごにすることはあり得ないからだ。民主党政権が“犠牲”になって成立させた消費税法案を、自公政権はありがたくちょうだいして実施に移すのだ。だいいち与野党が賛成では選挙の焦点にはなっても争点にはならない。いずれにしても消費増税は実現することを知りながらの野田発言であり、“二枚舌”が読めるのだ。その証拠には、財務副大臣・五十嵐文彦が21日「2013年10月以降に税率を1回目の引き上げをして7~8%にする。残りの2~3%は15年の4月か10月になる」とスケジュールまで述べているではないか。語るに落ちるのだ。
前原の詭弁はその付則第104条に関わる。民主党は麻生政権時代に付則に対する反対討論を行っているのだ。にもかかわらず付則を踏襲していることについて前原は「あのときは法案へのトータルパッケージの中で反対したのだ」と述べたが、英語でごまかしてはいけない。トータルパッケージなら付則まで含む反対でしかあり得ない。このように松下卒業生は早稲田雄弁会卒業生よりもっと、口から先に生まれてきた色彩が濃厚であるが、政治家の発言はその場しのぎでは済まされない。詭弁は遅かれ早かれ分析され、狙いが分かってしまうのだ。野党はこうした野田“二枚舌”政治に焦点を合わせて追及、解散・総選挙に追い込んで行くことになる。それにしても塾の創始者・松下幸之助が草葉の陰で「詭弁の大家」続出を嘆いているのではないか。
ところがマスコミの論調はどうかというと、端的に言えば「二枚舌でも消費増税の方がよい」だ。ポイントを突く社説は朝日と読売だけが書いているが、朝日は10日付で筆者のように「首相の説明は、明らかに強弁であり、おかしな言い分だ」と野田発言の虚飾性を指摘している。しかし「首相はまず率直にわびるべきだ。そして、ユーロ危機の深刻さを直視し、消費増税の必要性を丁寧に説明することだ」と結んでいる。つまり謝れば許すというのだ。一方読売にいたっては8日付で、逆に野党をしかっている。「確かに、消費税率を上げなくても財源を生み出せるとした民主党のマニフェストには欠陥がある」と批判しながらも、野党を「マニフェストを盾にとり、消費税の記述がない以上、衆院を解散すべきだと主張するのでは、与党に機動的な対応を取らせないと言うに等しい。これでは“マニフェスト至上主義”ではないか」というのだ。要するにマスコミは、野田の詭弁には目をつむるから、この機会を逃さず消費増税を実現せよというのだ。もっとも与野党がガチンコ対決になって、にっちもさっちもいかなくなった場合、マスコミは、法案を成立させた上での早期解散を主張する可能性が高いとみる。
◎「話し合い解散」には小沢の「待った」がかかる
◎「話し合い解散」には小沢の「待った」がかかる
10月25日の拙稿「解散は見えぬけれどもあるんだよ」で「消費税での話し合い解散」の可能性を指摘したが、一か月たってようやく浮上してきた。20日付読売新聞の「6月話し合い解散説」だ。消費税法案成立と引き換えの通常国会会期末での解散説を紹介している。首相・野田佳彦にとっては一つの落としどころだろう。しかし、これまで政局につながる発言を避けてきた民主党元代表・小沢一郎が19日「消費増税反対」の姿勢を鮮明にした。野田の「年内とりまとめ」の国際公約に、はやくも暗雲が垂れ込めたことになる。
今後の政局で早期解散のかぎを握るキーポイントは三つある。消費税をめぐる「野田と自民党と小沢」の動向だ。まず野田は「国民に信を問う時点は消費税法案が通ったあと、増税実施前となる」と述べている。これは、来年の通常国会で法案を成立させた後1年程度間を置いて、消費税を実施に移す2013年の解散を目指していると受け取れる。参院とのダブル選挙か都議選も含めたトリプル選挙を狙っていることになる。
しかしこの野田の立場を「詐欺だ」と述べるのが自民党前政調会長・石破茂だ。石破は「任期中には公約通り消費税を上げないが、任期中に法案は作るということは矛盾する」と言うのだ。たしかにマニフェストで任期中の消費増税を否定して先の総選挙に圧勝しておきながら、増税法案は任期中に作ってもよいというのでは詭弁も極まる。対米二枚舌そっくりだ。しかし自民党は、消費税そのものは民主党案が自民党案のコピーであるだけに反対できない。手続き論で反対するしかないのだ。野田政権が明確にマニフェストを否定するなら、手続き論として法案提出前に解散して国民の信を問うのがスジだと主張しているのだ。副総裁・大島理森も20日「民主党は、おととしの衆議院選挙で、『消費税率を上げる』とは、ひと言も言っていない。消費税率を上げたいのなら有権者の意見を聞いてから行うのが民主主義の政治だ」と述べ、法案の提出前に、衆議院の解散・総選挙を行うよう求めている。しかし自民党も手続き論だけでは消費増税の賛否の本質論と比べれば主張が弱い側面がある。
ここで小沢の出方だが、19日のインターネットテレビで「抜本改革を何もやらないで、ただ増税するのは反対だ。お金がないから消費税というのは国民に対しての背信行為だ」と言い切った。マニフェスト原理主義者の小沢らしい発言だが、発言の意図を探れば、選挙大敗で自らの政治基盤が喪失することを恐れていることに他ならない。小沢は16日夜には自らに近い衆院議員と会食した席で、「民主党衆院議員のうち、いま選挙をやったら50人戻ってこられるかどうかだろう」との見方を示している。もし民主党全体で50人しか当選しないなのら、“風”だけで当選させた小沢チルドレン100人あまりは当選ゼロとなる。小沢は野田が消費増税で突っ走った場合には、2代続いた首相による民主党政権への幻滅感に加えて、消費増税がマイナス効果をもたらし、壊滅的な敗北となると踏んでいるのであろう。自らの判決が4月に有罪と出れば、これに輪を掛けた敗北となる。小沢に近い筋は「小沢さんはぎりぎりまで選挙を引き延ばす考えだ」と漏らしている。
このように小沢が早くも現時点で消費税反対のポジションを鮮明にさせたのは、野田が消費税で早期解散に追い込まれる危険を予感した上でのことであろう。とりわけ野党との話し合い解散の“罠”にはまることへの警戒心が強いようだ。この小沢の意向は反主流の消費税反対論を勢いづかせる流れとなろう。環太平洋経済連携協定(TPP)への対応で“前さばき”に徹した野田は、消費税でも自分が前面に出ずに、最終局面だけ出て対応しようとするだろう。しかし、TPPと異なり消費増税は総選挙敗退に直結するという危機感が党内に大きく作用する。野田は前面に出ざるを得なくなるだろう。前面に出ればぼろぼろにされる。したがって年内に増税案がまとまるかは予断を許さない。たとえ年明けまでかかってまとめて、消費税法案を期限の3月末までに国会に提出できても、党内から造反が出れば成立は危うくなる。
そういう板挟みの苦境に野田が立ち至った場合に、自民党や公明党から「おいしい話」が持ちかけられる可能性があるのだ。「野田さん、解散するなら消費税は通すよ」という甘いささやきだ。“財務省からの出向首相”といわれる野田が、これに“くらくら”と幻惑されて乗る可能性は否定出来ない。そこが“話し合い解散”のポイントなのである。野田が信念の人ならば、「小沢の造反」を切って捨ててでも、国家100年の大計のため、話し合い解散に踏み切るのだが、いまのところは小沢への恐怖感が先行するばかりで、そこまで読めているかどうかも怪しい。すべては野田に身を挺する覚悟があるかどうかにかかっている。
◎超党派議連は中選挙区制導入で早期に結論を出せ
◎超党派議連は中選挙区制導入で早期に結論を出せ
今になって小選挙区比例代表制度を導入した政治家が反省したり謝ったりしている。元衆院議長・河野洋平が「小選挙区制に踏み切ったが今日の状況を見ると、それが正しかったか忸怩(じくじ)たるものがある。政治劣化の一因もそこにあるのではないか」と反省すれば、民主党最高顧問・渡部恒三が「小選挙区制導入に賛同したことは国民に申し訳ない」と陳謝。草葉の陰で旗振り役の後藤田正晴も「失敗した」と言っているに違いない。当初から導入に反対の論調を貫いてきた筆者に言わせれば「国の命運を左右する選挙制度で政治判断を間違うような政治家はいらない。どうしてくれる」ということになる。17日に中選挙区制復活を目指す超党派議員連盟が初会合を開いたが、よい傾向である。
最近の政治の劣化は選挙制度がもたらしていると思える事象が多い。まず劇場型扇動政治やマニフェスト政治がもたらすポピュリズムへの転落である。小泉純一郎の「ワンフレーズポリティックス」や、空想性虚言症形の民主党マニフェストが、政党に“追い風”を呼び、大量にチルドレンを登場させ、国の政治を左右する。政治家の資質の劣化が制度によって生じているのである。そのチルドレンは1人区制だから党が選ぶ。英国のように政党の選任が総じて重厚な政治家群像を生んでいる場合とことなり、単に女性であること、人気の出そうな容姿であること、国民的な人気があることなどに選考の基準が傾斜して、「どうして2位ではいけないの」といった愚問を発する議員が登場する。これでは外交・内政で官僚をリードし、説得出来る能力のある政治家は台頭できないし、育たない。
さらに重要な点は、制度によって日本丸の船体が激しく右傾左傾を繰り返すことだ。つまり先の総選挙のように民主党の得票率は、44.9%なのに3分の2に近い308議席を獲得できる制度は異常だ。民意が反映されにくい制度なのだ。得票が過半数に達していないのに鳩山由紀夫や菅直人のように、国民の完全負託が実現したと曲解して、独断専行型政治を断行する。日本のように価値観が多様化している国情においては、イエスかノーか型の政治はなじまない。それを選挙制度が無理強いする形となっているのだ。
さらに渡部が「党を選び人を選ぶという有権者の権利の半分が失われている」と述べているが、そのとおりだ。現行制度は党を選ぶだけで人を選んでいない。その証拠が小選挙区で落選した候補が比例代表で当選してくるという、本来選挙にはあってはならない事象を生じさせるのだ。かつては、中選挙区制度の弊害として、多数候補の擁立が政権党に派閥を生じさせ、その派閥が利権の構造をもたらし、汚職の根源となると指摘されたが、これは「浜の真砂は尽きるとも」が分かっていない論議であった。小沢一郎の「政治とカネ」、菅、野田佳彦と続く外国人献金、消費者相・山岡賢次のマルチ献金などの例を見れば選挙制度が原因とはとても言えまい。
戦前も小選挙区は数年で中選挙区に変わっている。昔から国情になじまないのだ。既に1996年の導入以来、これまで5回実施されたが、メリットより弊害が目立つ。中選挙区制復活論のきっかけとなった議員定数是正問題は、公明党などが抜本改革を求めて対立、行き詰まりを見せている。民主党幹事長・輿石東も17日「数をもって決めていくものではない。結論が出ないのに法案を出せるわけがない」と述べ、関連法案の今国会提出を見送る可能性を示した。いずれにしても区割りや周知期間が必要だから定数是正は次回総選挙には間に合うまい。
一方で 自民党総裁の谷垣禎一も制度の抜本改革について「中選挙区制にもう一回光を当てる必要がある」と復活への期待を表明している。この際、定数是正よりも現行選挙制度を中選挙区制に変える抜本改革にかじを切るべきだろう。一部に第9次選挙制度審議会を発足させるべきだとの意見があるが、第8次が現行欠陥制度を答申したのであり、学者の机上の空論はもう結構だ。まず超党派議連が政治家主導で早期に中選挙区制導入への道筋を付けるのが先決だ。
◎TPP反対では「自民党政権」は無理だ
◎TPP反対では「自民党政権」は無理だ
政権離脱からたった2年で野党ぼけが始まったのだろうか。環太平洋経済連携協定(TPP)をめぐる自民党の政権攻撃は、内閣不信任案や問責決議案の上程まで視野に入れ始めており、「暴走」の状況に陥る危険性を秘めている。党内は賛否が分かれたまま、執行部が独走の形で“何でも反対野党”路線を突っ走っているとしか思えない。総裁・谷垣禎一は、TPPが日米同盟深化に直結することを理解出来ずに、中国配慮の発言をするまでに至った。これでは保守層まで逃げる。「自民党よ、気は確かか」と言いたい。
2日間にわたる参院予算委の質疑を聞いて、自民党と他の野党の“度量”の違いをまざまざと見せつけられた。公明党にせよ、たちあがれ日本にせよユーモアを交えながらも急所を突くゆとりがあったが、山本一太をはじめ他の自民党質問者はまるで噛みつき犬やスピッツ状態で、本質を突かずにきゃんきゃんと吠えまくり、聞く者に不快感だけを残した。自民党の追及の手法は鳩山由紀夫、菅直人という希代の無責任政権に対しては効き目があった。しかし柳の下のドジョウは2匹までだ。「敵失」追及の手法ばかりにこだわっていて、政権の変化に気づかない。いちおうまともな「普通の政権」に立ち至った段階で、ばかの一つ覚えのような追及手法を繰り返しているように見える。これでは財界までが見放し始めたのも無理はない。
とりわけあきれ果てたのが谷垣のTPPに関する発言だ。なんと「米国と組み過ぎて中国やアジアをオミット(除外)する形になったら日本のためによくない」と宣うたのだ。しかし、そもそも自民党政権は歴代「米国と組み過ぎて」日本の繁栄を導いてきたのであり、まず日米同盟ありきではなかったか。その信条を変えるのか。また自民党の路線は自由貿易の拡大にあったはずだ。加えて大局を見れば中国の軍事重視の拡張路線には歯止めが必要であり、TPPは即ち同盟深化・対中けん制に直結するのだ。大局が分からない自民党執行部の姿勢は、小じゅうとのように重箱の隅を突いているにすぎない。自民党は、かねてからの同党の主張を野田政権が“抱きつきお化け”のように取り入れて推進し始めた結果、追及しあぐねているのだ。
米国の外交力をまざまざと見せつけられたのが、日本が参加の意思表示をした直後に、カナダとメキシコの参加を発表したことだ。これが逆だったら、また日本が参加表明していなかったら、日本の外交は目も当てられない結果となっていただろう。米国の日米同盟への配慮が優先したと受け止めるべきだろう。経団連会長・米倉弘昌会長が「もし参加表明しなかったら外交の孤立を招き、国際的な信頼が失われていた」と述べているが、米倉は歴代会長の中でももっとも大局観がある一人だ。自民党を「自民党が次の選挙で復権したら、今やっていることが足かせになったらもっと困るでしょう」と批判したのも当を得ている。
自民党のTPPへの対応の構造的欠陥は、執行部が党内の意見とりまとめをちゅうちょしたまま、政権批判を繰り返しているところにある。谷垣のリーダーシップの欠如を物語るものだ。少なくとも民主党内は侃侃諤諤(かんかんがくがく)の議論を展開した。自民党の問題は世論の動向を掌握していないことでもある。朝日も読売も世論調査ではダブルスコアで推進論が多い。それにもかかわらず衰退一方の農村票と旧態依然たる農協組織票を意識して、TPP反対に傾斜する。選挙戦術の方向も誤っているとしか思えない。自民党が復権する唯一の道は農村票ではない。都市部の浮動票をいかに取り込めるかにある。小泉純一郎の選挙を見習うべきだ。
それにもかかわらず、自民党執行部は谷垣も副総裁・大島理森も幹事長・石原伸晃も一致して臨時国会への内閣不信任案と問責決議上程に前向きの発言をしている。しかし党内には前政調会長・石破茂のように「外交は内閣の専権事項だ。交渉すらするなと言うのは議会としていかがなものか」と執行部を非難する声も公然と生じている。おそらく石破は不信任案にも反対だろうし、党内もまとまるまい。だからTPPだけで野田政権を一挙に追い込むのは無理があるのだ。野田は否定しているが仮に不信任案が成立して、野田が解散に踏み切った場合はどうなるか。国論を2分するTPP選挙となるが、少なくとも世論の支持がある民主党に有利で、自民党が勝てる選挙にはならないだろう。谷垣は当初は交渉への参加を認める発言をしていたのは周知の事実だ。迷いがあるなかで不信任だの問責だので暴走すれば、落とし穴に落ちるのは自民党だ。TPPの交渉参加は認めるしかない。解散に追い込むのなら消費税法案や「政治とカネ」など材料が出そろった来年春以降を狙うことだ。
◎野田は“二枚舌”だがことの本質ではない
◎野田は“二枚舌”だがことの本質ではない
参院予算委員会で「野田さんは人気ラーメン店の前に並んだのだ。食べるために並んだのであり、食べずに帰ることはあり得ない」と野党が追及していたが、もっともだ。ところが、首相・野田佳彦は世間体を考えてか、並んでも食べない場合があるなどと言い張る。その矛盾が露呈したのが野田発言をめぐるホワイトハウスの発表と野田の主張の食い違いだ。たしかに自民党の山本一太の言うように、まぎれもない“二枚舌外交”の露呈である。しかし事の本質はそこにはない。まず、すべてを交渉のテーブルに置くのは外交交渉の基本であるからだ。
野田が訪米する前から、筆者は国内の反対派向けの発言と外交の場での発言の食い違いが問題になると予想していたが、その通りとなった。繊維交渉で首相・佐藤栄作が直面した問題とそっくりだからだ。佐藤は国内の反対派を押さえるためニクソンに「前向きに検討」という極めて日本的な表現を使ったが、その後進展せず、ニクソンは「ジャップの裏切り」とまで口走った。日本国内では政治家が「前向きに」と言えば、やらないことの代名詞であることを佐藤は“利用”しようとして失敗したのだ。今回の場合ホワイトハウスのアーネスト報道官は、「すべての品目とサービス分野を貿易交渉のテーブルにのせるとの野田首相の発言をオバマ大統領は歓迎した」と発表した。これに対し、野田は予算委で「私の言ったことではない」という説明で切り抜けようとしている。しかし、野田は「おそらく昨年の閣議決定の基本方針に書かれたことを発表したのだろう」とも言及した。菅内閣の閣議決定には米側発表の通りのことが書かれている。
ここに野田の国内向けと国際向けの使い分けの矛盾が存在する。語るに落ちたのだ。確かに野田は自分の言葉では「すべてをテーブルに載せるとは、一言も言っていない」だろうが、会談で閣議決定に言及していることは確かだ。だからアーネストが「野田首相や政府関係者が公式に話した内容に基づく」と野田に限定しないで複数の発言を根拠にして、訂正を拒否したのだ。要するに、野田は明確に発言してしまえば、TPPへの参加表明と国内で受け止められるため、それを避けながらも閣議決定にだけは言及して「すべてをのせる」を浮き彫りにするという苦肉の策を使ったのだ。米側は日本の国内事情まで配慮した発表文は作らない。だから野田発言の文脈から類推して「すべてをのせる」と表現したのだろう。就任したばかりで、外交の素人の首相が陥りやすい対米交渉の落とし穴にはまったのだ。国内向けと国際向けの“二枚舌”は、総じてすぐにばれることを知らないのだ。
しかし、問題の本質はそこにはない。外交交渉の場でとりあえずすべての対象をテーブルにのせるのは、当然のことである。それを取捨選択するのが以後の「交渉」に他ならない。みんなの党幹事長・江田憲司が「反対派を考慮して言わなかったというような弱腰では、米国をはじめ参加国と国益を守る交渉はできない」と述べているのが正論であろう。コメにしても公的保険制度にしても例外品目として外すのが交渉力であろう。
自民党はこうした問題をとらえて、質問に立った山本が「あなたの問責決議案を含め厳しく対応していく。来年3月までに必ず内閣総辞職か衆院解散に追い込む」と発言したが、この姿勢は全くおかしい。自民党こそ“二枚舌”であるからだ。15日の経団連との会合で政調会長・茂木敏充は「TPPに反対と言うことではなく拙速ということだ」と説明したが、交渉参加に反対しておきながら、選挙その他で支持を期待する経団連には「反対ではない」では明らかに矛盾する。“二枚舌”もよいところだ。会長・米倉弘昌に「自民党が次の選挙で復権したら、今やっていることが足かせになったらもっと困るでしょう」と皮肉られて、総裁・谷垣禎一以下ぐうの音も出なかったようではどうしようもない。そもそも外交交渉マターを問責決議の対象にすることはいかがなものか。外交権は憲法73条で政府にあり、参院が交渉が始まっていない段階から問責決議で外交のフリーハンドを縛ることは得策とは思えない。憲法では、条約の締結は事前または事後に、国会の承認を経ることを必要とするとあるから、交渉が妥結し、条約化した段階で応諾を決めればよいではないか。ここは暖かい目でとは言わないが、厳しい目で交渉の成り行きを見守るときだ。
◎TPPで「対中対中包囲網」のオバマ戦略浮上
◎TPPで「対中対中包囲網」のオバマ戦略浮上
環太平洋経済連携協定(TPP)をめぐって姿を現した最大のポイントは、中国を意識した米国世界戦略のアジア・シフトであろう。「対中封じ込め」と、自国経済活性化を意識した一石二鳥のオバマ戦略の浮上である。日本は、主要国が雪崩を打ってTPPに参加するきっかけを作ったことになり、米国主導の形で地域の自由貿易化や経済ブロック化が進む流れへと重要な役割を果たしたことになる。しかし、あくまで米国にとっては日本の動きは世界戦略の中のワン・オフ・ゼムであろう。
何と言っても今回の会議の性格を著しく象徴したのが、共同記者会見の場における米通商代表部(USTR)代表・カークと中国の商務次官補・兪建華の激論だ。兪はまず、「日本の決定はニュースで知った。日本はこれまで繰り返し、中国、韓国、日本の3カ国間の自由貿易協定など、他の地域統合メカニズムについても促進すると言っている」と日本の動きをけん制した。次いで兪はTPPについて「いままで我々は参加について何の招待も受け取っていない。もし、招待を受ければ、真剣に検討するだろう。TPPは開かれたものであり、かつ透明であるべきだ」と不満を表明した。これに対し、カークは「中国の仲間に言いたい。TPPは閉ざされたクラブではない。だれでも歓迎するが、招待状を待つようなものではない」と厳しいしっぺ返しを食らわせたのである。
この「米中確執劇」が物語るものは、泥沼の中東や、やはり光明の見えない欧州経済危機を前にして、米国の外交・安保・経済上の世界戦略が躍進するアジア重視に大きく傾斜したことを物語る。オバマはまず首相・野田佳彦に圧力をかけて、何が何でも参加の方向へと誘った。日本が参加へ固まったと見るや、「日本も参加する」とカナダ、メキシコを説得したに違いない。環太平洋の主要国が雪崩を打った形となり、内政で問題を抱えるオバマ外交に取ってドラマチックなまでの成果となった。今後フィリピンをはじめパプアニューギニアまでもが参加の方向となり、明らかに「対中包囲網」を形成することになる。
米国がTPP推進に当たって中国に何の働きかけもしなかったことは確かだ。兪が日本の参加を「ニュースで知った」と述べていることがそれを物語る。15日付朝日新聞によると中国外務省幹部はTPP参加国がその目指す内容の概要で大筋合意したことについても「我々には何の連絡もない。どういうものかも分からない」と不満を漏らしているという。カークの「閉ざされたクラブではない」発言とは逆に「中国外し」による「対中包囲網」形成が着々と進んでいたことになる。やがてはGDPで米国をも追い越す勢いを見せる中国が、その露骨な軍事力増強と南シナ海や極東への勢力拡大を目の当たりにして、米国は強いけん制を現段階において実行しなければならないと判断するに至ったのだ。将来手に負えなくなる巨人を野放しすることになる危険を未然に防止する動きに出たのだ。オバマが記者会見で中国の「ルール破り」を厳しく指弾したのもその手始めであろう。
中国外交にとってはASEAN首脳会議は頂門の一針というか悪夢というか、手痛い打撃となった。しかしそうかと言ってTPP参加へと中国指導部がかじを切る流れには当分ならないだろう。来年の共産党大会での指導部交代を控えて、TPPへの加盟は共産党一党独裁をも揺るがしかねない危険性を帯びているからだ。自由貿易体制の確立はとりもなおさず、中国国内の諸制度改革へと波及する。だから中国はASEAN+3(日・中・韓)を主張して、主導権を握ろうとしてきたのだ。
こうしてオバマの目指すTPPは、純粋な自由貿易の側面に、政治・安全保障上の超大国の思惑が強く作用する流れとなった。世界史を眺めても古来通商網の整備は軍事力と密接に連結しており、オバマはその大網をアジアに掛けたことになる。総論ではオバマ戦略の勝利となったが、加盟国の利害が激突する各論に入ると、TPPも一筋縄ではいくまい。野田もオバマ戦略に組み入れられたが、これからが「外交力」を試される正念場だ。それにつけても野田は、バスに乗り遅れる寸前で、反対派を振り切ってよく飛び乗れたものだ。マスコミの世論調査はTPP参加賛成がいずれも反対を上回った。朝日「賛成」46%「反対」28%。読売「評価する」51%、「評価しない」35%。NHK「賛成」34%、「反対」21%だ。逆に野田の支持率だけは大幅にダウンしているが、すべては“逃げ”の説明不足に起因する。
◎野田、TPPと消費増税の二重苦に
◎野田、TPPと消費増税の二重苦に
民主党政権は過去2年間にわたる「混迷」から、野田の環太平洋経済連携協定(TPP)参加表明でようやくにして「普通の政権」に戻った。政権担当能力のない者が行った、はちゃめちゃ政治からは脱却した。しかし、交渉参加で露呈した野田の政治手法は誰がみても国会・国民無視の“逃げ”に徹しており、これでTPPより実質的には困難な消費税増税案を年末までの1か月半でまとめられるかに疑問符がつく。政策論議のTPPと異なり消費増税は「政局」になり得る要素を多分に秘めているからだ。
TPPは、首相・野田佳彦が間接的に「関係国との協議に入る」と言おうが何と言おうが、現実には交渉参加は決まったのであり、反対派は敗退したのだ。民主党内反対派もみんなの党以外の野党も負けたのだ。反対派の当面糊塗(こと)の発言の象徴が前農水相・山田正彦。往復びんたを食らったのに「ほっとしている」とは聞いてあきれる。「いわゆる事前協議ということでとどまってくれて本当によかった」とも宣もうたが、ハワイでの野田発言を聞けば事前協議とはほど遠い。オバマは「決断を歓迎」しているのであり、参加の正式意思表明と受け取っている。山田は自分が離党せずに済んでほっとしているのであり、反対運動が狸も参加した田舎芝居の側面があったことを物語るのだ。
問題の核心は交渉への「参加」にあるのではない。交渉そのものにある。端的に言えば、野田が「コメの関税撤廃」で譲歩すれば、それこそ与野党そろっての猛反対の竜巻が生じて、政権は吹き飛ぶだろう。加えて参加即締結とみるような反対論があるが、それほど国際社会は甘くはない。これから政権の「交渉力」そのものが試されるのだ。交渉力で言えば、ハワイで、野田はさっそく厳しい洗礼を受けた。前首相・菅直人ですらオブザーバーで招かれた、加盟国会合に招かれなかったのだ。まさに野田政権の交渉力に問題があることを冒頭から露呈した。
さらに交渉は長期化不可避であり、前回も書いたように野田政権で妥結が実現するかどうかも分からない。まず、交渉への参加が9か国の了承が必要であり、早くて来春となる。以後TPP加盟国は今後5回程度の交渉の上、来年末までの交渉妥結を予定している。この間米大統領選挙が来年11月に行われ、オバマが敗退すれば次の大統領がTPPを推進するかどうかも分からない。次の大統領が推進するとしても、日本のコメ、米国の砂糖など難問は山積しており、順調にいっても2013年の妥結だろう。妥結事項は条約化され、10か国の批准手続きが必要だ。おそらく発効は2014年以降になる。
この間日本の政局はというと、TPPが与野党対決の主軸として浮上したことは確かであろう。来年の通常国会での解散・総選挙を目指す自民、公明両党はTPPを奇貨として、追い込みを図るだろう。自公とも基本的には時期尚早論だが、交渉内容次第では批准段階にまで対決を持ち越す可能性がある。衆院で過半数確保出来れば、条約批准は成り立つが、確保出来るかどうかが焦点となる。これに加えて野田がこともあろうにカンヌのG20で国際公約とした消費増税が待ったなしの追い打ちをかける。年末までにまとめて消費税増税準備法案を3月までに国会提出しなければならない。野田にとって致命傷となり得るのは、カンヌの公約がTPPと全く同じで党内の論議を経ていないことだ。なぜなら6月の閣議合意事項は2015年までに引き上げるとするところを「2010年代半ば」とし、「経済状況の勘案」も織り込まれた上での玉虫色決定であるのだ。それも財務相・野田の主導で決まったもので、正式な閣議決定には至っていない。
要するに小沢一郎を中心とする原理主義的な消費税反対をそらすための窮余の一策であったのであり、政権内に存在する消費増税派と反対派の深層海流はいつ浮上して激突してもおかしくない状況になる。それが待ったなしで年末までに発生するのであり、政権は時限爆弾を抱えて秒読みに入ったことになる。もっとも野田のTPPへの姿勢がまがりなりにも当初からぶれなかったことだけは、“逃げ”の政治手法とは別に評価されてしかるべきだろう。民主党政権は鳩山由紀夫と菅直人で失った“信用”をようやくにして回復しつつある。全く信用出来なかった政権が、やや息を吹き返した形にはなった。一方で自公両党は共産党と十把一絡げの何でも反対政党に成り下がった。自民党総裁・谷垣禎一が「『アメリカのオバマ大統領の再選戦略に協力してくれ』というだけの話であれば、非常に危険だ」と批判の矛先をあらぬ方向に誘導しようとしているが、見当違いもも甚だしい。自民党は衰退著しい農村部の票が目当てだろうが、TPP支持層は都市部の浮動層に多く存在、これが離反することが分かっていない。小泉純一郎が総選挙に勝ったのも都市部の浮動票を掘り起こしたからだ。自民党は大戦略を間違った。自公がTPP絶対反対を貫けば、確実に票を減らす。野田も消費税で民主党票を減らすから、どちらが歩留まりがいいかの戦いともなる。野田は帰国直後からTPPと消費税の二重苦の国会論議に巻き込まれる。
◎野田は決断一日延期でも求心力が陰る
◎野田は決断一日延期でも求心力が陰る
こういうときは、やらなかったらどうなるかを深く考えることだ。そうすれば「退くが地獄」の状況がよく分かる。環太平洋経済連携協定(TPP)参加の決断を首相・野田佳彦が一日延ばしただけで、野党も民主党内反対派も鬼の首を取ったかのように喜ぶのは浅慮の致すところだろう。野田はやらざるを得ないのだ。
まず野田が「やるのをやめた」と言ったらどうなるか。おれがおれがの鳩山由紀夫と菅直人が「オレオレ詐欺」なら、野田は「やるやる詐欺」になる。鳩山が普天間移設を「最低でも県外」と言いながら、「学べば学ぶほど海兵隊の抑止力が分かった」と撤回したのと同じだ。マスコミは全国紙全紙が10日付の朝刊で同日の決断を断定的に報じたが、官邸取材が最長不倒距離12年の筆者は手に取るように事情が分かる。官房長官・藤村修はじめ側近が裏で「やる」と断定しているから書いたのだ。野田自身も10日朝の国会答弁で「高いレベルの経済連携と農業再生の両立を図る」と踏み込んでいる。確証があるから断定的に書けるのだ。
「やるやる詐欺」の場合の第1のマイナスは、この推進論を取ってきたマスコミを完全に敵に回すことになる。次に経団連など財界も確実に離反する。おそらく米国に対しては外交ルートを通じて、「やるやる」の方針が非公式に伝わっているだろうから、日米関係に大打撃となる。ホワイトハウスは報道官を通じて「深い失望の念」を表明する。次いで13日に予定していたオバマとの首脳会談は5分間でそそくさと終わる事になる。逆に中国、韓国、ロシアは「それみたことか」とばかりに、欣喜雀躍する。そして野田が得るものはこれらの反応を報道するマスコミのとげとげしい論調である。野田に一縷(る)の望みを抱いていたマスコミは、野田を完全に見放す。鳩菅への対応とそっくりの報道となり、民主党政権は早期解散へと追い込まれる。「政局」になってしまうのだ。
こうした自明の理を野田は分かっていないはずはない。それでは何故一日延ばしたかというと、反対派への慰撫工作と閣僚から反対の声が出る危険があり、これも説得する必要があるからだ。反対派頭目の山田正彦の離党扇動に乗って半可通の一年生議員らが飛び跳ねる可能性は否定出来ない。離党者をできるだけ少なくとどめるためにも幹事長・輿石東としては一晩でも時間がほしいところだろう。また閣内でも農水相・鹿野道彦や反対の国民新党から出ている金融相・自見庄三郎らが反対の動きに出れば、更迭して差し替える必要が出るかも知れない。これも政局になりかねない。少しでも説得して最終確認する時間が必要なのだ。したがってワンクッション置く必要があったのだ。
ただ、予定していた決意表明の記者会見を一日でも延期したことは、野田のリーダーシップが揺らぐものと受け止められるだけに、政権にとっては手痛い打撃となる。そもそも野田は、TPPで自らが前面に出て国民をはじめ党内や閣内への説得をしたことはただの一度もない。経済連携プロジェクトチーム(PT)への出席もなく、閣僚会議などでの説明もない。かねてから指摘されているように安全運転の度が過ぎるというより、ここまで来ると政治手法そのものが“逃げ”を基本としているように映る。求心力への打撃となったことは否めないのだ。
民主党内反対派は気勢を上げているが、山田も本当に阻止できるとは思っていまい。相変わらず離党ばかりを口の端にのせているが
こちらの方もこれだけ煽った以上「辞め辞め詐欺」にならないように、野田が決断したら本当に離党して、政治信条を果たさなければなるまい。一方で野党の対応も醜態だ。自民党も「拙速な判断」とTPP決断に反対しておきながら、副総裁・大島理森が「『逃げるな、総理大臣』と申し上げたい」と言うのは論理矛盾ではないか。何でも反対すればよいというものでもあるまい。この場面において野党で一番男を上げたのが、自民党の小泉進次郞だ。「自民党は拙速だというが、私は遅すぎると思っている」と発言したのだ。執行部に対しても「早期解散をいうのなら、遅すぎると何でいわないのか」と批判した。おそらく父親・小泉純一郎のアドバイスがあるのだろうが、この判断は正しい。同じ一年生議員でもバブルで当選して、今になってうろたえている民主党の有象無象とは異なる。将来が楽しみだ。
◎TPP参加は対中、対露けん制の側面
◎TPP参加は対中、対露けん制の側面
民主党の環太平洋経済連携協定(TPP)に関するプロジェクトチーム(PT)の避けて通れない“儀式”が終わり、首相・野田佳彦が交渉参加を10日決断する。PTの結論は「『時期尚早・表明すべきではない』『表明すべき』との賛否両論があったが、前者の立場に立つ発言が多かった。政府には慎重に判断することを提言する」というのだから、事実上の両論併記だ。野田は“慎重なる判断”で交渉参加を決めればよいことでもある。野田は当初から一貫してぶれずに推進への前向き姿勢を明らかにしてきたが、その背景にあるものは何か。明らかに日米同盟の重視と対中、対ロシアけん制の保守政治回帰がある。民主党政権がはじめて行う本筋の外交・安保上の決断でもあるのだ。
日米関係は首相・鳩山由紀夫が普天間移設問題で「毀損」させ、それを首相・菅直人が「放置」して2年が経過した。この間、中国は尖閣列島での漁船衝突事件や南沙諸島への進出が象徴する拡大主義、国際経済秩序の無視などまさに野放図に勢力拡大を図りつつある。中東のくびきから離れつつある米国はアジアに目を転じ、自国の経済をアジアの活力導入で立て直すべくTPPに参加、これを強化するため日本への参加を求めた。2代にわたる無能な政権が放置した日米同盟関係は、ここに来て軍事的側面のみならず経済的側面からも立て直さざるを得ない状況に至ったのだ。時々思い出したように語られるが、日米安保条約は第2条で「自由主義を護持し、日米両国が諸分野において協力することを定める」と経済協力がうたわれており、経済条約の側面もあるのだ。こうした背景をもとに、TPPはアジアの安全保障と経済秩序を日米主導に引き戻すという意味合いを濃厚にしているのだ。
このような動きを反映するかのように、首相周辺もTPPにおける外交・安保上の重要性に言及し始めた。首相補佐官の長島昭久は講演でTPPへの参加について「中国とどう向き合っていくかが最大の戦略課題だ。中国から見て『なかなか手ごわい』と思わせる戦略的な環境を整えていく」と遠慮のない対中けん制をしている。さらに長島は「アジアを米国と中国だけに仕切らせない。アジア太平洋の秩序は日本と米国で作っていく積極的な視点が必要だ。アジア太平洋全域を私たちの庭として手に入れ、経済秩序と安全秩序を作っていく」と強調した。外交・安保上の2年の空白はロシアの北方領土不法占拠の恒久化、爆撃機の列島一周など露骨な軍事挑発をも招いており、対露けん制の意味合いも色濃い。外交・安保上の「縮みの2年間」からようやく脱却できるチャンスとなり得るのだ。また20年にわたる経済の低迷も、これを契機にダイナミックな離脱へと動かさなければなるまい。
おそらく中国もロシアも、日本国内のTPP論議を固唾をのんで見守っているに違いない。まず中国の反応が早かった。全く滞っていた日中韓3か国による経済連携協定(EPA)の共同研究に前向き姿勢に転じたのだ。近く結論が出て、来年から交渉の運びとなる方向だ。野田は国会答弁で「TPPからFTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)への道筋もある」と中国、韓国の参加した自由貿易圏構想への発展も視野に入れていることを明らかにした。しかし、TPPの交渉自体がまだこれからであり、その先の展望が立つ段階ではあるまい。日本が参加表明すれば反対する国はないと思われる。TPP交渉に参加している9カ国の経済規模は名目GDPで世界の27%程度。日本が加われば、36%と一挙に拡大する。日本の参加の是非はTPPが成功するかどうかの鍵を握っていることでもあるのだ。しかし、加盟9か国すべての承認手続きが必要となる。特に米国は通商交渉権を議会が持っており、手続き完了が来年以降になる可能性が強い。
従って野田が参加を決断して、加盟が承認されても交渉が長引けば、交渉妥結が野田政権でなくなっている可能性も否定出来ない。しかし怨念の権力闘争と異なり、TPPはいわば政策論争だ。野田が交渉参加に踏み切れば、きな臭い動きも生じる可能性は否定出来ないが、時間と共に沈静化するだろう。離党発煙を繰り返す前農水相・山田正彦と抱き合い心中する向きが多いとは考えられない。落ち目の国民新党代表・亀井静香程度がいくら旗を振っても、新党などはとても無理だ。逆に野田が参加の決断をしなければ、普天間問題での首相・鳩山由紀夫のはちゃめちゃな公約撤回と全く同じ形態となり、内閣は吹き飛ぶ。それにつけても、自民党のTPPに対するいいかげんさは目に余るものがある。総裁・谷垣禎一は賛成も反対も言うに言えず「時期尚早論」を述べているが、物事には潮時というものがある。党としての見解を打ち出せないが故に、政権を批判するのでは、かっての何でも反対の社会党と変わりがないではないか。とても政権復帰など言える対応ではない。
◎「マルチ山岡」が政権の“アリの一穴”に
◎「マルチ山岡」が政権の“アリの一穴”に
どんな名優も及ばないような悪役ぶりを衆院予算委員会で演じるのが「マルチ山岡」こと国家公安委員長・山岡賢次(消費者担当相)だ。自民党・平沢勝栄の質問が自分に回ると、憎々しげな風貌をあらわにして「ようやく発言のチャンスを与えていただいた」と、自信に満ちた様子で答弁に及んだ。ところが山岡が秘書に「マルチで稼げ」と指示した新事実が暴露されると、一転してして顔色が変わり、平沢に秘書名を教えよと懇願。どうみてもマルチ疑惑は浮き彫りにされた。問責決議可決へ向けての環境が整備される流れとなった。
予算委の野党質問は自民党新政調会長・茂木敏充らのかったるい追及を見ていて、欠伸が止まらなかった。追及材料が山積しているにもかかわらず、茂木はピントを外して重箱の隅を突きまくり、前政調会長・石破茂に比べると格段に追及力、破壊力の欠如が見られた。総裁・谷垣禎一の人事の失敗を露呈させるものだろう。ところが平沢の質問に移ると目が覚めた。さすがに「閣僚の資質の欠陥」を調査するチームを設置し、対策を練ってきただけあって、山岡が真っ青になるところまで追い詰めた。白眉は平成16年の秘書への指示。平沢によると山岡は「事務所経費が大変なのでマルチで稼いでくれ」と指示したというのだ。平沢は元秘書に会って話を聞いたものだという。
山岡の反応は、うろたえたと言ってもよいものであった。最初は「名誉毀損だ」と居丈高に反応した。これには驚いた。国体委員長経験者たる者が憲法51条にある国会議員の免責特権も知らないということになる。国会議員は国会で行った演説、討論の責任を院外では問われないのだ。平沢が二の矢を継いで、山岡と事務所関係者らの証人喚問を求めると、急に薄気味悪いくらいの低姿勢になって、平沢に「長い付き合いだ、友情をもって誰が言ったかを教えてほしい」と懇願。テレビで中継されている場を、まるで料亭の一室と間違えているような答弁に、平沢の方が戸惑った。
さらにマルチ企業で講演した問題では山岡は「何の会でどんな趣旨かは知らなかった」と述べたが、これはすぐにうそがばれる答弁だ。ネットには講演の映像が流布されており、始めから終わりまで「マルチの勧め」で一貫しているからだ。また週刊新潮を名誉毀損で訴えて、その後請求放棄して事実上の敗訴になった問題について追及されると、「国対委員長で多忙なため関わっていられなかった」と弁明。すかさず平沢に「国体委員長がマルチの会で演説する時間があっても、裁判所に行く時間がないのか」とどめを刺されて、「ケースバイケース」などと苦しい答弁に終始した。
この山岡追及の位置づけは野田の「適材適所で人材を配置した」という発言と、あまりにもずれていることを浮かび上がらせるものであり、政権にとっては痛手だ。「ネズミ小僧を火付け盗賊改め方に任命したようなものだ」(自民党幹部)はいささかきついが、似ていなくもない。与野党は復興のための所得増税を25年間とすることで一致、第3次補正予算案の成立にめどがつき、大震災が取り持つ“疑似協調路線”は終わりを告げた。今後は早期解散に向けての対決が基調となるが、山岡問題は政権の“アリの一穴”となり得る。その「一穴」を拡大するために、自民党は山岡と秘書らの証人喚問でさらにマルチ疑惑を露呈させたうえで、参院での問責決議可決を戦略に描く。
過去に問責決議が可決された首相、閣僚は5人いるが、いずれも遅かれ早かれ辞任または配置転換となっている。昨年末官房長官・仙谷由人と国交相・馬淵澄夫への問責決議が可決された際も、首相・菅直人は結局改造して二人を閣僚から外した。問責は法的拘束力がないが参院がねじれで動かなくなるのである。おそらく臨時国会会期末での問責を想定しているのだろうが、可決しても山岡が辞任しなければ、かえって野党に有利となる。問題を通常国会冒頭まで引きずることが可能となるからだ。通常国会での辞任となれば自公両党が狙う早期国会解散への足場ができることになる。
◎TPP「反対派3大将」よ、勝負は負けだ
◎TPP「反対派3大将」よ、勝負は負けだ
「盲(めくら)千人目明き千人」とは、広辞苑によると世の中には道理の分かる人も分からない人もそれぞれに多いことを言う。世の中はそれでよい。しかし国をリードする国会議員がそうであってはならない。環太平洋経済連携協定(TPP)をめぐる与野党を巻き込んだ議論は病膏肓に入る状況であるが、総じて大局観のないのが反対派。将来を見据えているのが推進派だ。農協の鉢巻きを締めるとなぜか馬鹿に見える反対派の「3大将」と、今回は利口に見える賛成派の「5賢人」の主張を分析してみたい。
まず「3大将筆頭」が国民新党代表・亀井静香。ひたすらことを政局化する発言で首相・野田佳彦を脅迫しており、手法が古い。8日の野田との会談を控えて「民主党政権が、あっという間に倒れることになっていいのかと申し上げたい」とすごんでいるが、遠吠えの脅しでなく本当に連立政権を離脱してはどうか。政権の枠内にいることだけでメリットを享受しているミニ政党に、その度胸があるのか。どうもこの政党は、かっての民社党のような“条件闘争”の臭いがして嫌な気分になる。
「次席大将」が自民党の加藤紘一。この人物は外交官の出身だけあって、スマートさが売り物だったが、農協の鉢巻き姿を見てがっかりした。「TPP交渉は入ったら抜け出せなくなる地獄だ」「全体としても、農林政策の面からも反対だ最後の最後まで反対で、超党派で頑張りたい」とひたすら感情論を展開している。外交ではそれなりの大局観を持っているのだが、何故だろうか。現在72歳で、おそらくもう一度選挙をやりたいのだろう。それには地元山形県の農協票が欠けては落選必至だ。国家より自分が大事と見える。「加藤の乱」以来の見当違いだ。
「顔だけ大将」が前農水相・山田正彦。なぜ「顔だけ」かというと、顔が大きいだけでもっているからだ。山田は、野田がTPPに参加するなら「離党する」とすごんでいるが、よく見ると怖くなくてジブリのアニメみたいで可愛い。離党と言っても衆参議員の多数を巻き込んだ大きな動きには発展しそうもない。山田は民主党の反対署名が212人にのぼったと発表したはずだが、7日の慎重派の緊急集会には、与野党合計でたったの140人しか参加していない。署名のいいかげんさが分かる。参院に首相問責決議を出すことをほのめかしているが、そうなれば即政局だ。その覚悟、統率力はないとみる。キーマン小沢一郎は動くまい。
対照的なのが「5賢人」だ。今度だけは賢く見える。まず民主党幹事長・輿石東で、最初からぶれない。「これがあれば日本の農業が再生するというものがあれば、半世紀以上、日本の農政はもう少しなんとかなった。そんなにきちっとしたことができるはずもない」と農協を切って捨てている。たしかにTPP論議は衰退きわまりない農業と国が抱き合い心中するかどうかの瀬戸際を意味する。できることはできる。できないものはできないとはっきり言うのが政治家に求められる姿勢だ。だいいち国が滅んでは農業も助けられないではないか。これが一番大事な大局観だ。
その点自民党前政調会長・石破茂、民主党前幹事長・岡田克也もはっきりしている。石破は「メリットもデメリットもあるが、参加しない選択はあり得ない。気に入らなければ国会で承認しなければいい」と述べる。岡田は「TPPは日本がこれからどう生きていくかという問題だ。アジアの豊かさをわが豊かさにするのが日本の基本戦略」と主張する。いずれもすっきりと胃の腑に納まる論理だ。貿易立国で生き抜くには参加しない選択はあり得ないのだ。「日本人の精神のありようや気概の持ち方として、そんな内向きでいいのか」と述べる政調会長代行・仙谷由人も最初から全くぶれていないし、発言内容ももっともだ。外相・玄葉光一郎も度胸がある。何と地元の福島県で農協関係者を前にして「何もしなければ日本は縮む」と推進論をぶったのだ。加藤と違って信条のために身を捨てている。
要するにテコ入れを何度繰り返しても日本の農業は衰退の一途をたどり、耕作放棄面積は拡大し、農業人口の高齢化はとどまるところを知らない。関税自由化が問題になる度に莫大(ばくだい)な税金を湯水のようにつぎ込んだが、その場しのぎでしかなかったことを物語る。実質9割が兼業農家の現実は「TPP反対」と絶対矛盾する。農政は抜本改革に直面しているのであり、そのための財源捻出のためにも、躍進するアジアの力をてこに自由貿易の恩恵を受けて、経済を復活させるしか日本の生きる道はないのだ。国会議員たる者が、己の利害を超越して自明の理を分かるか分からないかの問題なのである。マスコミの論調も定まった。1日付社説で読売が「TPP参加へ結論を出す時だ」と書いたが、今度は朝日が8日、ぶち抜きの大社説で「交渉参加で日本を前へ」と論じた。「参加しない限り、新たなルールに日本の主張を反映できない。TPPに主体的に関わることが、日本を前に進める道だ」と断定した。タイミングといい内容といい、近ごろにない社説の傑作だ。勝負は推進派の勝ちなのだ。




































