So-net無料ブログ作成

深読み = 電光石火のシリア・ミサイル攻撃

深読み = 電光石火のシリア・ミサイル攻撃
軍事戦略はトランプの手を離れた?
安保政策研究会理事長 浅野勝人

アメリカの外交政策を陰で牛耳っているのは、国務省、国防省、各情報機関の首脳級経験者に極く一部の新旧国会議員を加えた数十人からなるエスタブリッシュメントとみられています。共和党主流派が中心ですが、民主党にまたがって構成されており、ソ連の怖さを知り尽くしている「反ロ路線」が共通項です。もちろん、今でも主要官庁に手足となる有能な現役を多数持っています。

大統領選挙では、反ロ強硬派のヒラリー劣勢が伝えられた折からトランプに対する警戒感を強め、とりわけトランプ側近のロシア接近情報に神経を尖らせていました。

イスラエル紙「イェディオト・アハロノト」は、テルアビブで開かれたアメリカとイスラエルの諜報機関の秘密会議の席上、(2017/1月)アメリカ側が「トランプ大統領がロシアとの不適切な関係を結ばないことが立証されるまで」という条件付きではありますが、「イスラエルの入手した機密情報をホワイトハウスと国家安全保障会議(NSC)に提供するのは中止してほしいと要請した」と報じました。イスラエル側も「対ロシア政策の変更に伴う、ロシアやイランへの機密情報の漏洩」に懸念を示し、双方からトランプ大統領のホワイトハウスに対して異例ともいえる不信感が表明された模様とのことです。(月刊誌・選択)

まもなく大統領側近の国家安全保障問題担当マイケル・フリン大統領補佐官がロシア要人から金品を受け取った廉(かど)で更迭されました。後任には共和党主流派の信任の厚い、ハーバート・マクマスター陸軍中将が送り込まれました。湾岸戦争の英雄、マクマスターはトランプとは一面識もない軍首脳の切れ者で、なんでも大統領執務室の隣室にオフィスが用意されたと伝えられています。まるでエスタブリッシュメントから送り込まれた外交・安保政策に関するトランプの監視役みたいです。

さらに4月5日、トランプ最側近のスティーブ・バノン首席戦略官兼上級顧問が外交・安保・軍事政策の最高決定機関、国家安全保障会議(NSC)の常任メンバーから外されました。
トランプは、1月、バノンをNSCの常任メンバーに加えた際、オバマ時代にはメンバーだった統合参謀本部議長(ジョセフ・ダンフォード前海兵隊総司令官)、国家情報長官を除外しましたが、右腕のバノン外しと入れ代わりにダンフォード議長とコーツ長官は復帰しました。どうやら軍官僚の経験がなく、軍事戦略知識に乏しいトランプ大統領は、この流れに乗らざるを得なかったものとみられます。

この状況から判断すると、アメリカの安保・軍事政策は、軍最高の実力者だったマティス国防長官とマクマスター大統領補佐官を軸とする戦闘実戦を体験してきた軍首脳陣が仕切る体制になったものとみて間違いないでしょう。

従って、シリア政府軍の化学兵器空爆に対するシャイラット空軍基地へのミサイル攻撃の手際のいい、且つ、自制の効いた決断(4/4日、化学兵器空爆。6日、ミサイル報復攻撃)はプロの判断と推測されます。
☆禁じ手の化学兵器を使って、サリンを撒き散らしたアザト政権に巡航ミサイルを60発叩き込んでも、同盟国の支持は得られる。むしろ評価される。
☆ロシアとイランに対する絶妙な警告の機会になる。
☆北朝鮮への牽制と厳格な北朝鮮対策を中国に促す効果がある。

おそらくトランプは、プロの判断を即刻承認し、攻撃の時期について、習近平との米中首脳会談の最中にぶっ放す政治ショーを提案して、大統領主導による攻撃決定を演出したデモンストレーションだったはずです。

余談ですが、私は、2006年6月、外務副大臣の折、第一次安倍内閣の方針に従ってダマスカスを訪れ、アサド大統領と70分間会談した経験があります。
シリアの政権は、イランと同じシーア派の仲間のアラウィ派です。アサド大統領はイランと手を組んで中東における反米・親ロの強固な基盤を築いてきました。日本からゴミ収集車を60台無償援助する機会にアサドと会って、パイプ作りのきっかけにするのが目的でした。
バッシャール・アサドは、ロンドンで眼科医をしていましたが、後継者のお兄さんが交通事故でなくなったため、呼び戻されて大統領になった人です。話しながら絶えず笑みがもれ、反米一辺倒の路線修正に触れても聞き耳を立ててくれました。眼科医らしい温和な人柄に好感が持てました。

今日、TVインタビューで視たアサド大統領の顔つきは、目が吊り上がって、サリンを無差別爆撃に使った醜悪な人相に映り、私には別人のように見えました。アサド家2代、半世紀に及ぶ独裁支配の強権体制の維持が人相を変えてしまったのでしょうか。

シリア・ミサイル攻撃に関連して、日本にとって重要な事柄はアメリカの北朝鮮に対するビヘイビアです。
私は、アメリカは北朝鮮には軽々な軍事行動はしない。むしろ極めて慎重に対応するとみています。
シロウト大統領と異なり、プロは戦闘の怖さと損傷の実態を熟知していますから、北朝鮮の中距離ミサイルを1基残らず瞬時に破壊できる情報管理と実戦体制が整わない限り、韓国、日本の安全確保が危ういことを承知しているからです。
その意味では、マティス~ダンフォード~マクマスター軍首脳ラインの見解で決まるSECは、総合的勝算を優先して無謀な行動は避け、安定的に機能すると私は安心感を持っています。


ただ「北」は、何をするかわからない無法者の坊ちゃんが相手です。
「シリアは核を持っていないからやられた。我々はシリアとは違う。さらに核攻撃能力を磨いて、アメリカを返り討ちにする」と談話を発表しています。
北朝鮮の狂気が収まるまでの期限付きで、造らず、持たずの非核2原則への転換が必要かもしれません。緊急事態の核の持ち込みに厳格に限定すれば、「日本の核武装警戒論」が根底に存在するアメリカ・エスタブリッシュメンの虎の尾を踏むことにはならないでしょう。(元内閣官房副長官)