◎全国紙は「消費税で共同宣言」の渡辺提言に同調せよ
◎全国紙は「消費税で共同宣言」の渡辺提言に同調せよ
何と28日付の朝日新聞で読売会長・主筆渡辺恒雄の、矍鑠(かくしゃく)たるインタビューを読んで、いつもながら波長が全く同期しているのに気づいた。「清武の乱」が主要テーマだが、こんな話は雑魚が鯨に噛みついているようなものでどうでもいい。太筆書きの政論が絶妙なのだ。「野田佳彦首相はいいんじゃないかな。うちの社論に80%近い感じがする。正直だし、やる気がある」「若手なら小泉進次郎君がいいね。中堅では林芳正君や石破茂君もいい 」など全く筆者と同じだ。自民党幹事長・石原伸晃や総裁・谷垣禎一は名前すら出してもらえなかった。「政治が劣化し小型化している」もその通り。大阪市長・橋下徹如きに振り回されているのを見ればよく分かる。
白眉は経済危機へのとらえ方だ。「このままだと、1929年の世界恐慌の比じゃない。経済パニックになるかもしれない。僕は朝日や毎日など他の新聞も巻き込んで、新聞社が一緒になって共同提言をするべきだと思う」と、60年安保の時の「七社共同宣言」と同様の提言を唱えたのだ。60年安保は左翼の革命思想と結びついて、デモがちまたに溢れ、新聞はこれを煽り、革命寸前まで行った感があった。新聞の「流血事件は、その事の依ってきたる所以を別として、議会主義を危機に陥れる痛恨事であった。いかなる政治的難局に立とうと、暴力を用いて事を運ばんとすることは断じて許されるべきではない」とする七社宣言で、潮が引くように収まった。そして渡辺は小沢の名前こそ挙げなかったが「政局にとらわれている場合じゃない。政争を1年休戦して、経済政策を片っ端から法律にする。TPPも、税と社会保障も片付ける。災害復興もどんどんやる。がれきがいまだに片付かないなんて、こんなばかなことがあるか。国家じゃないよ。それらをまともにやろうと思えば、まず消費税を上げること。ここは、朝日新聞と一致しているんじゃないかな」と消費税増税で政治休戦の宣言を提唱したのだ。
ライバル紙を使ってナベツネ節の言わんとするところは、「清武」問題ごときではなく、まさにここだったのだ。折からナベツネの褒めた野田が消費税で突っ張り始めた。29日、消費税の税率や引き上げ時期をできるだけ具体的に記した大綱を、年内をめどに取りまとめるよう、近く指示する考えを示した。これは小沢の主張とは真っ向から対立する。消費税解散でグループ消滅を危惧する小沢は「強行すれば政権運営が不安定になり、党運営も厳しくなる。野党に攻撃の種も与える」と相変わらずの独善的な発言を繰り返している。なんとオオカミ老年・亀井静香とまでわざと会談してみせて「新党やるぞ」とばかりにすごんでいる。政治家は今こそ己を捨てるときなのに全く分かっていないで、また政局だ。
これに野田周辺はまともに乗せられて理念も何もない先延ばし論が出始めた。こういうときに小沢に秋波を送って妥協しようとするかしないかで政治家の大小が決まるが、「小」を露呈したのが財務相・安住淳、国家戦略相・古川元久、幹事長代行・樽床伸二だ。一番大事なポジションの安住が「国会が風雲急を告げてくると、年内といかなくなる事情もある」と逃げ出した。古川も「年内にここまで決まっていなければいけない、というものが具体的にあるわけではない」。樽床が「政府の考え方を尊重するが、党の結束と両立しないといけない」と言った具合だ。このままでは、野田の消費増税路線そのものが危ういと感じていたが、野田はここにきて踏みとどまった。国会答弁で「まもなく政府・与党の改革本部を設け、改めて方向性を提示したい。すでに社会保障については、政府・民主党内で議論が進んでいるが、税についても年内をめどに具体化し、今年度中に法案を提出する運びで考えている。大綱の内容には、なるべく具体的なものを入れ込んでいきたい」と路線に変わりがないことを明言したのだ。
野田は消費増税に失敗したら鳩山由紀夫、菅直人の両食言首相と全く同じことになると気づいているのであろう。そのぶれない姿勢があるからナベツネも評価するのだろう。今日の党首討論でもこの方針は明確にするだろう。小沢がかっとなって何をするか分からないが、ここまできたらガチンコ勝負も辞さない覚悟とみた。消費増税はまだとっかかりだ。ここでぶれたら一挙に政権基盤が液状化現象に突入する。消費税が出来ないとみれば海外のハゲタカ共が日本売りを浴びせかけることは目に見えている。ナベツネの言うようにここは各全国紙も野田を応援して「共同宣言」を出すべきだ。朝日の社長はどうした。自らの紙面で提唱されているのだゾ。毎日、日経、産経、東京も消費増税では異存ないはずだ。一番の頃合いを見計らって経済危機克服と消費増税と政治休戦の宣言を出せ。それにつけても渡辺は骨太で最後の言論人だ。長生きしてもらいたい。
◎橋下は「市政」を固めてから「国政」に物を言え
◎橋下は「市政」を固めてから「国政」に物を言え
内容も実現性も不明の「大阪都」構想なるものを国に突きつけて、「年内にやらなければ衆院選候補を擁立する」という。新大阪市長・橋下徹が国政の脇腹にドスを突きつけた形だ。反対の立場を取ってきたはずの民主、自民両党も毅然(きぜん)と反応するどころか、「おたおた」として、世論や利害得失を計算し始めている。官房長官・藤村修にいたっては、自分の選挙を意識してか“すり寄り”姿勢まで見せ始めた。しかし、「市長さんよ冗談ではない」と言いたい。国に性急な期限を切る前に、自分の頭のハエを追うのが先ではないか。都構想自体が自治体レベルをクリヤしていないでないか。市議会の議決など問題は山積しており、それを無視してまず先に国の対応を求める。これではだだっ子市長だ。
まるで総選挙で政権を握った鳩山由紀夫そっくりでもある。“民意、民意”と夏の蝉のように鳴き続けて外交・内政をろう断して、侮蔑と共に去った。そっくりな閣僚もいた。厚生官僚を真っ向から批判して厚労相となり、官僚から拍手ゼロで迎えられて、ほとんど何も出来ずに寂しく去った長妻昭だ。橋下の場合はもっと厳しい反応を受けるだろう。当選早々「政治に介入したり民意を無視した職員には去ってもらう」と、早くも市職員に対して人事権を振りかざして全面戦争を仕掛けている。目が据わった顔つきや発言ぶりから見るとまるでヒットラーだ。これでは真の政治は出来ない。
そもそも大阪都構想なるものが、府と市を再編して2重行政を避けること以外に何か内容があったかということだ。橋下は小泉純一郎の「郵政改革」と酷似したワンフレーズ・ポリティックで選挙を行い、勝利をおさめたが、具体論がない。政令指定都市である大阪市・堺市と大阪市周辺の市を廃止して20もの特別区を作ると言う。大阪市内だけでも11の特別区をつくって区議会も設置する。明らかに膨大な財源が必要となるがどこから出すのか。2重行政どころか「財源多重行政」にならないか。区割り自体もどうするのか。大阪と堺とは文化も伝統も違う。水と油の側面があり融合できるのか。
ハードルは枚挙にいとまがない。まず大阪市議会だ。維新の会は過半数がなく、他の政党は全党が都構想に反対している。橋下は議会が反対なら得意の「民意作戦」で、議会を解散するという。しかし解散するには有権者の3分の1の署名と、その後の住民投票で過半数を獲得しなければならない。筆者は選挙での「民意」は都構想だけに選択基準を合わせたとは思えない。なぜなら橋下が上記の区割りや財政問題などの具体論に踏み込まず、焦点をあえてぼかしたからだ。しかし2重行政が大阪の発展を阻害しているという主張には有権者が飛びついたのだろう。既成政党への批判票もあったに違いない。したがって都構想の内容が区割りを含めて明示された上での住民投票で過半数を得られるかは疑わしい。そしてその後の市議会選挙で過半数を取れるかどうかはもっと可能性が少ないのではないか。ビールのコマーシャルのように最初のうまさは持続しないのだ。また議会を解散しなくても都構想の実施には住民投票が必要だ。
橋下は自らこうした問題を処理したうえで、国に法改正を求めるのが本筋ではないのか。国の立場からすれば生煮えの都構想なるものを、みんなの党のようにあやかろうとして「はいはいそうですか」と受け入れられるわけがないではないか。今や政令指定都市は19に達しており、愛知県でも「中京都構想」なるものが存在する。大阪だけ認めれば全国で安易な「疑似都構想」が走り出して収拾がつかなくなる。それでも衆院選に維新の会を近畿圏で擁立するというならやるがよい。確かに藤村をはじめ幹事長代行・樽床伸二、国会対策委員長・平野博文ら大阪府内選出議員はあえない最期を遂げるかも知れないが、国政を左右できる議席数確保は無理だろう。橋下の言う「70議席」などは夢のまた夢だ。そのミニ政党でどうやって大阪都実現のための地方自治法改正案などを通せるのか。
民主党内は「地方分権の目指す方向と逆行する」とする反対論が強く、自民党も父親・石原慎太郎の影響下にある幹事長・石原伸晃が賛成しているほかは、慎重論が根強い。要するに選挙勝利の高揚感で、橋下はおごっているのだ。一週間休みを取ると言うが、頭を冷やせと言いたい。国政は一市長が振り回せるほど安易ではない。2重行政は府と市のトップを維新の会が占めたのだから、今こそ連携を密接にして解消へと動くべきではないか。まずその手腕が問われなければなるまい。出来るかどうか分からない派手な構想を振りかざして市政を停滞させる前に、維新の会の“実行力”で2重行政解消を実現するのが先決だ。それにしても全国紙は危うい「橋下政治」に発行部数を気にしてか、警鐘を鳴らさないのは問題だ。
◎カメ発「幽霊新党」が総スカン
◎カメ発「幽霊新党」が総スカン
真夏の幽霊ならゾクゾクと寒気がするが、真冬の幽霊ではもともと寒いからゾクッともしない。国民新党代表・亀井静香が「幽霊新党」を語って、政界から総スカンと侮蔑を受けている。政党助成金目当てのうさんくささが原因だ。
政治家にも器量の大小があって、器の小さい政治家が発言すると総じて永田町がむかつく問題が二つある。一つは「解散」。他の一つは「新党」だ。お前にだけは言われたくないという感情が先に立つのだ。よい例が鳩山邦夫の新党発言だ。鳩山は去年の3月、「私は政界再編の坂本龍馬をやりたい」と述べて、この指とまれと動いたが、誰もとまらず、いまは尾羽打ち枯らしつつある。今の政界で「新党」と発言すれば、永田町がピリピリと反応するのは小沢一郎一人くらいのものだろう。亀井が集めて第3極を目指せるなどという判断はおこがましいのだ。小泉進次郞が郵政での親の敵とばかりに「新党新党と言うが、言う人が新しくない」と言い切った通りだ。
にもかかわらず、亀井がひろげた大風呂敷に飛びついたのが産経新聞。なんと25日付朝刊トップで、でかでかと「亀井代表が新党構想、石原知事を党首」とやったのだ。筆者は瞬時に「カメに乗せられたな」と思ったが、その後の永田町の反応を見れば歴然。クソミソなのだ。まず、みんなの党代表の渡辺喜美が「政党助成金欲しさというのが露骨。助成金ありきの新党はすぐに飽きられ、必ず失敗する」と狙いを暴いた。名前を亀井に出された、たちあがれ日本代表・平沼赳夫は「彼の一人芝居だと思う。カリスマ性がないから石原慎太郎を呼んでこようとしている」と手厳しい。当の都知事・石原も「アイム クワイト オールド マン」と年をとりすぎていることを理由に拒絶の弁。大阪府知事・橋下徹は25日夜「新党に参加することはない」と断言。肝心の小沢グループも、小沢から若手に「乗らないように」とのお達しが届いていると言われている。
かくして産経の報道は一夜にしてつぶれたのだ。朝日の扱いを見れば政治記者の判断力が分かる。朝日は26日朝刊4面のベタ扱いだ。無視すれすれくらいの判断が正しいのだ。それにしても亀井の最近の発言は常軌を逸している。「消費増税なら連立離脱」「TPPやるなら覚悟がある」など、ざっと数えただけで4回「政権離脱」発言を繰り返し表明している。それでいて今度は新党発言。まるで「オオカミ老年」と化している。狙いと原因はどこにあるのだろうか。一つは前首相・菅直人と比べると首相・野田佳彦が御しにくい点だろう。消費増税にしても亀井の言うことなど全く聞かない。TPPも亀井の反対を押し切って事実上の参加表明だ。これでは亀井が「命」とする郵政改革法案の成立などとてもおぼつかない。野田にしてみれば、消費税やTPPに反対する国民新党は、連立相手としての存在価値がなくなってきており、むしろ自公を説得する方が大切なのだ。
加えて自民党筋は「菅の時は参院議員を自民党から10人引き抜くと言って、官房機密費をジャブジャブ使ったが、野田からは1銭も出なくなった」と解説する。たしかに亀井の一本釣りも6月に「雑魚」が1匹かかっただけで、後はなしのつぶてだ。亀井はその菅にも新党を働きかけたと言われている。しかしさすがに菅は名前が出されると悟って、その場で断ったようだ。
ようするにカメさんは自分の出番がない上に、国民新党も依然支持率がゼロと行き詰まった。野田もよいしょをしてくれないし、面倒を見ようという財界人もいない。切羽詰まって空想性虚言症的な「新党」説を流したのだ。しかし名前に上げた主要人物すべてが拒絶反応を示すようではお終いだ。だいたい根回しもなしにイチかパチかの新党構想など、政党党首たるものが軽々しく口にすべきものでもあるまい。こけにされた国民新党幹部の1人は「はらわたが煮えくりかえっている」のだそうだ。そのうちにカメは裏返しにされて、日干しになるのがオチだ。
◎解散への最大の武器は問責可決だろう
◎解散への最大の武器は問責可決だろう
案の定「話し合い解散」の石原伸晃発言に対して「幹事長失格」(伊吹文明)と厳しい反応が自民党内で生じた。「軽い」のだ。それはともかくとして、自民党は「解散」要求の掛け声だけは高いが、問題は嫌がる馬を水辺でいかにして水を飲ませるかにある。首相・野田佳彦は自殺行為に等しい「消費税解散」を避けるため、最後までじたばたするだろう。マスコミも自民党執行部もまだ解散への道筋を全く読めていないが、結局最大の武器は参院における問責決議可決しかあるまい。
まず今後の政局の鳥瞰図を描くと次のようになる。野田は焦点の消費税増税案を年内にまとめて、準備法案として来年3月末までに国会に提出する。一方、今臨時国会は終盤で一挙に対立が盛りあがり、おそらく消費者相・山岡賢次の問責決議案が可決されるだろう。山岡は辞任を拒否するが、可決されれば遅かれ早かれ辞任に追い込まれるだろう。これが野党による政権攻撃の突破口となる。通常国会では冒頭から解散をめぐって対決ムードとなる。来年度予算案は衆院を多数で通過し成立するが、問題は予算関連法案だ。野党は予算を裏打ちする特例公債法案を人質にとって、野田を追い詰めようとするだろう。昨年の菅直人政権への攻勢と同様の手順だろう。菅は3.11大震災があって生き延びたが、通常の場合は予算関連法案が通らなければ政権は退陣か解散かの、ぎりぎりの段階まで追い詰められる。しかもその最中に野田は消費増税準備法案を提出するのだ。これはまぎれもなく3月危機であろう。
ここで野党は解散・総選挙に直結する手段を講じなければならない。一番手っ取り早いのは内閣不信任案の可決だが、衆院においては圧倒的に与党が多く不可能だ。総選挙恐怖症の小沢一郎も今度は賛成に回ることはないだろう。成立させて解散を野田が選べば、小沢グループは壊滅する。小沢の言う「出撃しても戻れない特攻隊」となるからだ。不信任案が駄目となれば野党は問責決議を可決するしかあるまい。問責の材料は現段階でも山ほどある。野田が環太平洋経済連携協定(TPP)で“二枚舌”を使い、消費税では4年間導入しない公約を破って増税準備法案を提出したことを突くしかない。「法案は増税したことにならない」などという詭弁は通用しない。外交・内政にわたっての“二枚舌”をテーマとするのだ。
過去の例を見てもこれほど格好な問責のテーマはない。首相への問責決議が可決された例は二度あるが、福田康夫に対しては後期高齢者制度の廃止に応じないこと、麻生太郎に対しては解散引き延ばしと発言のぶれがテーマだ。全くいいかげんな材料である。だいたい後期高齢者制度など政権が変わっても、いまだそのままではないか。それに比べれば“二枚舌”ほど簡潔にして明確な材料はあるまい。問責決議は不信任可決と異なり法的拘束力はない。しかし過去に成立した5例のすべてが結果的に閣僚は辞職、首相は退陣につながっている。福田の場合は3か月間持ちこたえたが、結局ぷっつんと切れた。麻生太郎の場合は解散・総選挙での与党敗退により、2か月後に退陣した。首相は、「ぷっつん」か解散・総選挙に追い込まれるのだ。
問責の戦術としては3月下旬か4月に上提して一挙に解散に追い込むのがまず第1の手段だ。それでも野田はごねるだろうが問責さえ成立させれば主導権は野党にある。問題はマスコミが「参院の審議拒否はけしからん」と一週間後くらいから野党に矛先を向けるが、これに持ちこたえられるかどうかだ。自民党が死んだ気になってマスコミの攻撃から目をつむり、耳をふさいで、1,2か月間拒否し続ける度胸があるかということだ。続けられれば野田も音を上げる。解散を勝ち取るにはこれしかない。しかし固い契りがあるはずの公明党あたりが耐えられなくなって裏切る可能性もある。一方、野田が音を上げた場合に実現し得るのが、消費税、特例公債法案を成立させることを前提とした「話し合い解散」だ。これが実現する場合は6月の会期末となろう。通常国会ではこの3月危機と6月危機の二つのチャンスしかない。これを逃せば、その後の解散・総選挙の予想など「鬼が笑う」から出来ない。
◎消費税での政界再編は机上の空論
◎消費税での政界再編は机上の空論
どうも最近大政党の幹事長としては発言に重みがないのが自民党の石原伸晃だ。環太平洋経済連携協定(TPP)のAPECでの参加表明に反対して首相・野田佳彦の問責決議案上提に言及したかと思うと、180度軌道修正して「日本の農業が壊滅するから参加すべきではないという議論をしているステージからは動いた」と事実上の参加表明だ。おまけに野田が離党すれば政界再編だという。自民党の論客というが、話が場当たり的で支離滅裂だ。ではその政界再編が消費増税を軸にあり得るかというと、まず困難だろう。出て行くとすれば小沢一郎だが、“沈む泥舟”に果たして何人乗るだろうか。
石原の政界再編発言は「野田首相らが民主党を割ってでも消費税を10%にするんだと言い、私たちも割れるかもしれないが、自民党もそうやるんだと言えば、新しい政治体制ができるかもしれない」というものだ。しかし時局認識があさってを向いている。「野田が民主党を割る」ことはあり得ないのだ。野田は政権サイドで消費税を実行に移そうとしているのであり、割る場合にはこれに反対する勢力が割るしかないのだ。その勢力とはにわかに消費税反対で旗幟鮮明にした、小沢サイドでしかあり得ない。やる場合は「新生党」結成方式の踏襲だ。93年にすべてを「政局化」して、小沢らが宮沢改造内閣不信任決議案に賛成、自民党を離党して新生党を結成。非自民7党1会派による38年ぶりの政権交代を実現したのだ。
しかし、小沢が20年前の政局方程式にはたきを掛けて持ち出しても、果たして実現へのうねりが台頭するだろうか。筆者はしないとみる。やろうにも出来ないのだ。93年当時の小沢はまだはつらつとして新鮮味があった。しかし、現在は公判中で刑事被告人の身で、党員資格停止処分中でもある。度重なる政局の中心として満身創痍(そうい)なのだ。この傷だらけの“灰色度”の高い政治家が、「この指とまれ」と言っても、展望のない新党に勢いが出るだろうか。おまけに新党に政党交付金が払われる要件である、「年末までの新党結成」が間に合うわけがない。1人1億円はかかる新党結成費用を捻出できるか。いくら側近の輿石東が幹事長でも、小沢が幹事長時代に「組織対策費」としてジャブジャブ使った政党交付金も使えなくなった。と言うのも、前首相・菅直人がイタチの最後っ屁のように、組織対策費のような不透明な支出は、監査法人のチェックが入り認めないことを決めているからだ。
だから小沢は、離党しようにも出来ないのである。それではなぜ政局に直結する消費増税反対を唱えるかというと、発言が語るに落ちている。「追い込まれて最悪の状況で選挙になるのではと心配している。次の選挙で自分1人が戻ってもしかたがない。皆が戻らないと力を発揮できない」というのだ。詰まるところが、消費税選挙では小沢陣営の“壊滅的打撃”が予想されるからである。何も小沢は政界再編が可能とみて発言しているのではあるまい。グループを“落選”の脅しで、早期解散反対へとあおり始めたのだ。
石原のもう一つの誤算は「私たちも割れるかもしれない」であろう。消費税をめぐって自民党が割れるようなことが起きるとでも言うのであろうか。麻生内閣で改正所得税法の付則104条により消費税導入の路線を敷いたときにも、去年の参院選で10%への増税を公約としたときにも、党分裂の動きが生じたとは寡聞にして聞かない。最近TPPをめぐって執行部批判を強めている石破茂が党を割るだろうか。割らない。石破は「10%増税が嫌だというなら党を出て行くべきだ」と全く逆であり、ポスト谷垣へも意欲を見せている。石破は勉強会を来月1日にもを立ち上げるなど、ポスト谷垣をめぐって世代交代への動きも台頭させている。石破の対抗馬は石原で「石石対決」などとはやされるが、石原のこの体たらくでは勝負は戦う前からついている。いずれにしても小沢を軸とする古色蒼然たる政界再編論は言うまでもなく困難だ。ましてや野田が離党してまでの再編は、机上の空論でしかあり得ない。折から与野党は解散を軸に対決姿勢が強まる一方だ。政界再編とはほど遠い状態に向かいつつあるのだ。
◎野田の「消費増税でも二枚舌」はすぐにばれる
◎野田の「消費増税でも二枚舌」はすぐにばれる
松下政経塾というのは「詭弁」「強弁」を教えるところなのだろうか。首相・野田佳彦や政調会長・前原誠司らの発言を聞く度に国の外交・内政を「論争技術」で切り抜けようとしているとしか思えない。大学の弁論部が内容よりも話術での「論破」に傾斜しているのとそっくりだ。野田は環太平洋経済連携協定(TPP)での“二枚舌”に次いで、最大の焦点消費税増税でも、法案は作るが、そのあとの選挙結果次第で増税の実施はしないかもしれないという詭弁を弄した。誰がこれを信ずるか。法案成立の既成事実が出来れば増税確定以外の何物でもない。
野田政権の「詭弁」「強弁」のすべては民主党が09年の総選挙前の公約である政策集に「税率5%を維持」すると記して選挙に勝ち、首相・鳩山由紀夫が「4年間、消費税の増税を考えることは決してない」などと繰り返したことに端を発する。その後首相・菅直人が参院選前に消費税導入へと方針転換、6月に閣議決定にはいたらないが「2010年代半ばまでに消費税率を10%とする」方針を、一応決めている。これは明らかに衆院選の公約をそのままにして、なし崩しで消費増税に踏み込もうとする意図がうかがえることになる。
これを背景として見ると、野田の第1の詭弁は任期中の消費増税を否定しておきながら、増税法案だけは実施が選挙後だから任期中に作ってもよいという点に集約される。しかし法案を作るということは、誰が見ても増税への下地を確立したことに他ならない。ここに詭弁がある。第2の詭弁は、21日の答弁。選挙に敗北した場合には「当然、民意を踏まえた対応がある」と述べて、あたかも増税の実施は困難になるとの認識を示したことだ。しかし法案成立後の総選挙に敗北したからといって増税が実現しないということはあり得ない。なぜなら「経済状況を好転させることを前提として、段階的に消費税を含む税制の抜本的な改革を行うため、11年度までに必要な法制上の措置を講じる」という路線は、改正所得税法の付則104条で自公政権が敷いたものである。だから政権が変わってもせっかく成立した法案を次の政権でほごにすることはあり得ないからだ。民主党政権が“犠牲”になって成立させた消費税法案を、自公政権はありがたくちょうだいして実施に移すのだ。だいいち与野党が賛成では選挙の焦点にはなっても争点にはならない。いずれにしても消費増税は実現することを知りながらの野田発言であり、“二枚舌”が読めるのだ。その証拠には、財務副大臣・五十嵐文彦が21日「2013年10月以降に税率を1回目の引き上げをして7~8%にする。残りの2~3%は15年の4月か10月になる」とスケジュールまで述べているではないか。語るに落ちるのだ。
前原の詭弁はその付則第104条に関わる。民主党は麻生政権時代に付則に対する反対討論を行っているのだ。にもかかわらず付則を踏襲していることについて前原は「あのときは法案へのトータルパッケージの中で反対したのだ」と述べたが、英語でごまかしてはいけない。トータルパッケージなら付則まで含む反対でしかあり得ない。このように松下卒業生は早稲田雄弁会卒業生よりもっと、口から先に生まれてきた色彩が濃厚であるが、政治家の発言はその場しのぎでは済まされない。詭弁は遅かれ早かれ分析され、狙いが分かってしまうのだ。野党はこうした野田“二枚舌”政治に焦点を合わせて追及、解散・総選挙に追い込んで行くことになる。それにしても塾の創始者・松下幸之助が草葉の陰で「詭弁の大家」続出を嘆いているのではないか。
ところがマスコミの論調はどうかというと、端的に言えば「二枚舌でも消費増税の方がよい」だ。ポイントを突く社説は朝日と読売だけが書いているが、朝日は10日付で筆者のように「首相の説明は、明らかに強弁であり、おかしな言い分だ」と野田発言の虚飾性を指摘している。しかし「首相はまず率直にわびるべきだ。そして、ユーロ危機の深刻さを直視し、消費増税の必要性を丁寧に説明することだ」と結んでいる。つまり謝れば許すというのだ。一方読売にいたっては8日付で、逆に野党をしかっている。「確かに、消費税率を上げなくても財源を生み出せるとした民主党のマニフェストには欠陥がある」と批判しながらも、野党を「マニフェストを盾にとり、消費税の記述がない以上、衆院を解散すべきだと主張するのでは、与党に機動的な対応を取らせないと言うに等しい。これでは“マニフェスト至上主義”ではないか」というのだ。要するにマスコミは、野田の詭弁には目をつむるから、この機会を逃さず消費増税を実現せよというのだ。もっとも与野党がガチンコ対決になって、にっちもさっちもいかなくなった場合、マスコミは、法案を成立させた上での早期解散を主張する可能性が高いとみる。
◎「話し合い解散」には小沢の「待った」がかかる
◎「話し合い解散」には小沢の「待った」がかかる
10月25日の拙稿「解散は見えぬけれどもあるんだよ」で「消費税での話し合い解散」の可能性を指摘したが、一か月たってようやく浮上してきた。20日付読売新聞の「6月話し合い解散説」だ。消費税法案成立と引き換えの通常国会会期末での解散説を紹介している。首相・野田佳彦にとっては一つの落としどころだろう。しかし、これまで政局につながる発言を避けてきた民主党元代表・小沢一郎が19日「消費増税反対」の姿勢を鮮明にした。野田の「年内とりまとめ」の国際公約に、はやくも暗雲が垂れ込めたことになる。
今後の政局で早期解散のかぎを握るキーポイントは三つある。消費税をめぐる「野田と自民党と小沢」の動向だ。まず野田は「国民に信を問う時点は消費税法案が通ったあと、増税実施前となる」と述べている。これは、来年の通常国会で法案を成立させた後1年程度間を置いて、消費税を実施に移す2013年の解散を目指していると受け取れる。参院とのダブル選挙か都議選も含めたトリプル選挙を狙っていることになる。
しかしこの野田の立場を「詐欺だ」と述べるのが自民党前政調会長・石破茂だ。石破は「任期中には公約通り消費税を上げないが、任期中に法案は作るということは矛盾する」と言うのだ。たしかにマニフェストで任期中の消費増税を否定して先の総選挙に圧勝しておきながら、増税法案は任期中に作ってもよいというのでは詭弁も極まる。対米二枚舌そっくりだ。しかし自民党は、消費税そのものは民主党案が自民党案のコピーであるだけに反対できない。手続き論で反対するしかないのだ。野田政権が明確にマニフェストを否定するなら、手続き論として法案提出前に解散して国民の信を問うのがスジだと主張しているのだ。副総裁・大島理森も20日「民主党は、おととしの衆議院選挙で、『消費税率を上げる』とは、ひと言も言っていない。消費税率を上げたいのなら有権者の意見を聞いてから行うのが民主主義の政治だ」と述べ、法案の提出前に、衆議院の解散・総選挙を行うよう求めている。しかし自民党も手続き論だけでは消費増税の賛否の本質論と比べれば主張が弱い側面がある。
ここで小沢の出方だが、19日のインターネットテレビで「抜本改革を何もやらないで、ただ増税するのは反対だ。お金がないから消費税というのは国民に対しての背信行為だ」と言い切った。マニフェスト原理主義者の小沢らしい発言だが、発言の意図を探れば、選挙大敗で自らの政治基盤が喪失することを恐れていることに他ならない。小沢は16日夜には自らに近い衆院議員と会食した席で、「民主党衆院議員のうち、いま選挙をやったら50人戻ってこられるかどうかだろう」との見方を示している。もし民主党全体で50人しか当選しないなのら、“風”だけで当選させた小沢チルドレン100人あまりは当選ゼロとなる。小沢は野田が消費増税で突っ走った場合には、2代続いた首相による民主党政権への幻滅感に加えて、消費増税がマイナス効果をもたらし、壊滅的な敗北となると踏んでいるのであろう。自らの判決が4月に有罪と出れば、これに輪を掛けた敗北となる。小沢に近い筋は「小沢さんはぎりぎりまで選挙を引き延ばす考えだ」と漏らしている。
このように小沢が早くも現時点で消費税反対のポジションを鮮明にさせたのは、野田が消費税で早期解散に追い込まれる危険を予感した上でのことであろう。とりわけ野党との話し合い解散の“罠”にはまることへの警戒心が強いようだ。この小沢の意向は反主流の消費税反対論を勢いづかせる流れとなろう。環太平洋経済連携協定(TPP)への対応で“前さばき”に徹した野田は、消費税でも自分が前面に出ずに、最終局面だけ出て対応しようとするだろう。しかし、TPPと異なり消費増税は総選挙敗退に直結するという危機感が党内に大きく作用する。野田は前面に出ざるを得なくなるだろう。前面に出ればぼろぼろにされる。したがって年内に増税案がまとまるかは予断を許さない。たとえ年明けまでかかってまとめて、消費税法案を期限の3月末までに国会に提出できても、党内から造反が出れば成立は危うくなる。
そういう板挟みの苦境に野田が立ち至った場合に、自民党や公明党から「おいしい話」が持ちかけられる可能性があるのだ。「野田さん、解散するなら消費税は通すよ」という甘いささやきだ。“財務省からの出向首相”といわれる野田が、これに“くらくら”と幻惑されて乗る可能性は否定出来ない。そこが“話し合い解散”のポイントなのである。野田が信念の人ならば、「小沢の造反」を切って捨ててでも、国家100年の大計のため、話し合い解散に踏み切るのだが、いまのところは小沢への恐怖感が先行するばかりで、そこまで読めているかどうかも怪しい。すべては野田に身を挺する覚悟があるかどうかにかかっている。
◎超党派議連は中選挙区制導入で早期に結論を出せ
◎超党派議連は中選挙区制導入で早期に結論を出せ
今になって小選挙区比例代表制度を導入した政治家が反省したり謝ったりしている。元衆院議長・河野洋平が「小選挙区制に踏み切ったが今日の状況を見ると、それが正しかったか忸怩(じくじ)たるものがある。政治劣化の一因もそこにあるのではないか」と反省すれば、民主党最高顧問・渡部恒三が「小選挙区制導入に賛同したことは国民に申し訳ない」と陳謝。草葉の陰で旗振り役の後藤田正晴も「失敗した」と言っているに違いない。当初から導入に反対の論調を貫いてきた筆者に言わせれば「国の命運を左右する選挙制度で政治判断を間違うような政治家はいらない。どうしてくれる」ということになる。17日に中選挙区制復活を目指す超党派議員連盟が初会合を開いたが、よい傾向である。
最近の政治の劣化は選挙制度がもたらしていると思える事象が多い。まず劇場型扇動政治やマニフェスト政治がもたらすポピュリズムへの転落である。小泉純一郎の「ワンフレーズポリティックス」や、空想性虚言症形の民主党マニフェストが、政党に“追い風”を呼び、大量にチルドレンを登場させ、国の政治を左右する。政治家の資質の劣化が制度によって生じているのである。そのチルドレンは1人区制だから党が選ぶ。英国のように政党の選任が総じて重厚な政治家群像を生んでいる場合とことなり、単に女性であること、人気の出そうな容姿であること、国民的な人気があることなどに選考の基準が傾斜して、「どうして2位ではいけないの」といった愚問を発する議員が登場する。これでは外交・内政で官僚をリードし、説得出来る能力のある政治家は台頭できないし、育たない。
さらに重要な点は、制度によって日本丸の船体が激しく右傾左傾を繰り返すことだ。つまり先の総選挙のように民主党の得票率は、44.9%なのに3分の2に近い308議席を獲得できる制度は異常だ。民意が反映されにくい制度なのだ。得票が過半数に達していないのに鳩山由紀夫や菅直人のように、国民の完全負託が実現したと曲解して、独断専行型政治を断行する。日本のように価値観が多様化している国情においては、イエスかノーか型の政治はなじまない。それを選挙制度が無理強いする形となっているのだ。
さらに渡部が「党を選び人を選ぶという有権者の権利の半分が失われている」と述べているが、そのとおりだ。現行制度は党を選ぶだけで人を選んでいない。その証拠が小選挙区で落選した候補が比例代表で当選してくるという、本来選挙にはあってはならない事象を生じさせるのだ。かつては、中選挙区制度の弊害として、多数候補の擁立が政権党に派閥を生じさせ、その派閥が利権の構造をもたらし、汚職の根源となると指摘されたが、これは「浜の真砂は尽きるとも」が分かっていない論議であった。小沢一郎の「政治とカネ」、菅、野田佳彦と続く外国人献金、消費者相・山岡賢次のマルチ献金などの例を見れば選挙制度が原因とはとても言えまい。
戦前も小選挙区は数年で中選挙区に変わっている。昔から国情になじまないのだ。既に1996年の導入以来、これまで5回実施されたが、メリットより弊害が目立つ。中選挙区制復活論のきっかけとなった議員定数是正問題は、公明党などが抜本改革を求めて対立、行き詰まりを見せている。民主党幹事長・輿石東も17日「数をもって決めていくものではない。結論が出ないのに法案を出せるわけがない」と述べ、関連法案の今国会提出を見送る可能性を示した。いずれにしても区割りや周知期間が必要だから定数是正は次回総選挙には間に合うまい。
一方で 自民党総裁の谷垣禎一も制度の抜本改革について「中選挙区制にもう一回光を当てる必要がある」と復活への期待を表明している。この際、定数是正よりも現行選挙制度を中選挙区制に変える抜本改革にかじを切るべきだろう。一部に第9次選挙制度審議会を発足させるべきだとの意見があるが、第8次が現行欠陥制度を答申したのであり、学者の机上の空論はもう結構だ。まず超党派議連が政治家主導で早期に中選挙区制導入への道筋を付けるのが先決だ。
◎TPP反対では「自民党政権」は無理だ
◎TPP反対では「自民党政権」は無理だ
政権離脱からたった2年で野党ぼけが始まったのだろうか。環太平洋経済連携協定(TPP)をめぐる自民党の政権攻撃は、内閣不信任案や問責決議案の上程まで視野に入れ始めており、「暴走」の状況に陥る危険性を秘めている。党内は賛否が分かれたまま、執行部が独走の形で“何でも反対野党”路線を突っ走っているとしか思えない。総裁・谷垣禎一は、TPPが日米同盟深化に直結することを理解出来ずに、中国配慮の発言をするまでに至った。これでは保守層まで逃げる。「自民党よ、気は確かか」と言いたい。
2日間にわたる参院予算委の質疑を聞いて、自民党と他の野党の“度量”の違いをまざまざと見せつけられた。公明党にせよ、たちあがれ日本にせよユーモアを交えながらも急所を突くゆとりがあったが、山本一太をはじめ他の自民党質問者はまるで噛みつき犬やスピッツ状態で、本質を突かずにきゃんきゃんと吠えまくり、聞く者に不快感だけを残した。自民党の追及の手法は鳩山由紀夫、菅直人という希代の無責任政権に対しては効き目があった。しかし柳の下のドジョウは2匹までだ。「敵失」追及の手法ばかりにこだわっていて、政権の変化に気づかない。いちおうまともな「普通の政権」に立ち至った段階で、ばかの一つ覚えのような追及手法を繰り返しているように見える。これでは財界までが見放し始めたのも無理はない。
とりわけあきれ果てたのが谷垣のTPPに関する発言だ。なんと「米国と組み過ぎて中国やアジアをオミット(除外)する形になったら日本のためによくない」と宣うたのだ。しかし、そもそも自民党政権は歴代「米国と組み過ぎて」日本の繁栄を導いてきたのであり、まず日米同盟ありきではなかったか。その信条を変えるのか。また自民党の路線は自由貿易の拡大にあったはずだ。加えて大局を見れば中国の軍事重視の拡張路線には歯止めが必要であり、TPPは即ち同盟深化・対中けん制に直結するのだ。大局が分からない自民党執行部の姿勢は、小じゅうとのように重箱の隅を突いているにすぎない。自民党は、かねてからの同党の主張を野田政権が“抱きつきお化け”のように取り入れて推進し始めた結果、追及しあぐねているのだ。
米国の外交力をまざまざと見せつけられたのが、日本が参加の意思表示をした直後に、カナダとメキシコの参加を発表したことだ。これが逆だったら、また日本が参加表明していなかったら、日本の外交は目も当てられない結果となっていただろう。米国の日米同盟への配慮が優先したと受け止めるべきだろう。経団連会長・米倉弘昌会長が「もし参加表明しなかったら外交の孤立を招き、国際的な信頼が失われていた」と述べているが、米倉は歴代会長の中でももっとも大局観がある一人だ。自民党を「自民党が次の選挙で復権したら、今やっていることが足かせになったらもっと困るでしょう」と批判したのも当を得ている。
自民党のTPPへの対応の構造的欠陥は、執行部が党内の意見とりまとめをちゅうちょしたまま、政権批判を繰り返しているところにある。谷垣のリーダーシップの欠如を物語るものだ。少なくとも民主党内は侃侃諤諤(かんかんがくがく)の議論を展開した。自民党の問題は世論の動向を掌握していないことでもある。朝日も読売も世論調査ではダブルスコアで推進論が多い。それにもかかわらず衰退一方の農村票と旧態依然たる農協組織票を意識して、TPP反対に傾斜する。選挙戦術の方向も誤っているとしか思えない。自民党が復権する唯一の道は農村票ではない。都市部の浮動票をいかに取り込めるかにある。小泉純一郎の選挙を見習うべきだ。
それにもかかわらず、自民党執行部は谷垣も副総裁・大島理森も幹事長・石原伸晃も一致して臨時国会への内閣不信任案と問責決議上程に前向きの発言をしている。しかし党内には前政調会長・石破茂のように「外交は内閣の専権事項だ。交渉すらするなと言うのは議会としていかがなものか」と執行部を非難する声も公然と生じている。おそらく石破は不信任案にも反対だろうし、党内もまとまるまい。だからTPPだけで野田政権を一挙に追い込むのは無理があるのだ。野田は否定しているが仮に不信任案が成立して、野田が解散に踏み切った場合はどうなるか。国論を2分するTPP選挙となるが、少なくとも世論の支持がある民主党に有利で、自民党が勝てる選挙にはならないだろう。谷垣は当初は交渉への参加を認める発言をしていたのは周知の事実だ。迷いがあるなかで不信任だの問責だので暴走すれば、落とし穴に落ちるのは自民党だ。TPPの交渉参加は認めるしかない。解散に追い込むのなら消費税法案や「政治とカネ」など材料が出そろった来年春以降を狙うことだ。
◎野田は“二枚舌”だがことの本質ではない
◎野田は“二枚舌”だがことの本質ではない
参院予算委員会で「野田さんは人気ラーメン店の前に並んだのだ。食べるために並んだのであり、食べずに帰ることはあり得ない」と野党が追及していたが、もっともだ。ところが、首相・野田佳彦は世間体を考えてか、並んでも食べない場合があるなどと言い張る。その矛盾が露呈したのが野田発言をめぐるホワイトハウスの発表と野田の主張の食い違いだ。たしかに自民党の山本一太の言うように、まぎれもない“二枚舌外交”の露呈である。しかし事の本質はそこにはない。まず、すべてを交渉のテーブルに置くのは外交交渉の基本であるからだ。
野田が訪米する前から、筆者は国内の反対派向けの発言と外交の場での発言の食い違いが問題になると予想していたが、その通りとなった。繊維交渉で首相・佐藤栄作が直面した問題とそっくりだからだ。佐藤は国内の反対派を押さえるためニクソンに「前向きに検討」という極めて日本的な表現を使ったが、その後進展せず、ニクソンは「ジャップの裏切り」とまで口走った。日本国内では政治家が「前向きに」と言えば、やらないことの代名詞であることを佐藤は“利用”しようとして失敗したのだ。今回の場合ホワイトハウスのアーネスト報道官は、「すべての品目とサービス分野を貿易交渉のテーブルにのせるとの野田首相の発言をオバマ大統領は歓迎した」と発表した。これに対し、野田は予算委で「私の言ったことではない」という説明で切り抜けようとしている。しかし、野田は「おそらく昨年の閣議決定の基本方針に書かれたことを発表したのだろう」とも言及した。菅内閣の閣議決定には米側発表の通りのことが書かれている。
ここに野田の国内向けと国際向けの使い分けの矛盾が存在する。語るに落ちたのだ。確かに野田は自分の言葉では「すべてをテーブルに載せるとは、一言も言っていない」だろうが、会談で閣議決定に言及していることは確かだ。だからアーネストが「野田首相や政府関係者が公式に話した内容に基づく」と野田に限定しないで複数の発言を根拠にして、訂正を拒否したのだ。要するに、野田は明確に発言してしまえば、TPPへの参加表明と国内で受け止められるため、それを避けながらも閣議決定にだけは言及して「すべてをのせる」を浮き彫りにするという苦肉の策を使ったのだ。米側は日本の国内事情まで配慮した発表文は作らない。だから野田発言の文脈から類推して「すべてをのせる」と表現したのだろう。就任したばかりで、外交の素人の首相が陥りやすい対米交渉の落とし穴にはまったのだ。国内向けと国際向けの“二枚舌”は、総じてすぐにばれることを知らないのだ。
しかし、問題の本質はそこにはない。外交交渉の場でとりあえずすべての対象をテーブルにのせるのは、当然のことである。それを取捨選択するのが以後の「交渉」に他ならない。みんなの党幹事長・江田憲司が「反対派を考慮して言わなかったというような弱腰では、米国をはじめ参加国と国益を守る交渉はできない」と述べているのが正論であろう。コメにしても公的保険制度にしても例外品目として外すのが交渉力であろう。
自民党はこうした問題をとらえて、質問に立った山本が「あなたの問責決議案を含め厳しく対応していく。来年3月までに必ず内閣総辞職か衆院解散に追い込む」と発言したが、この姿勢は全くおかしい。自民党こそ“二枚舌”であるからだ。15日の経団連との会合で政調会長・茂木敏充は「TPPに反対と言うことではなく拙速ということだ」と説明したが、交渉参加に反対しておきながら、選挙その他で支持を期待する経団連には「反対ではない」では明らかに矛盾する。“二枚舌”もよいところだ。会長・米倉弘昌に「自民党が次の選挙で復権したら、今やっていることが足かせになったらもっと困るでしょう」と皮肉られて、総裁・谷垣禎一以下ぐうの音も出なかったようではどうしようもない。そもそも外交交渉マターを問責決議の対象にすることはいかがなものか。外交権は憲法73条で政府にあり、参院が交渉が始まっていない段階から問責決議で外交のフリーハンドを縛ることは得策とは思えない。憲法では、条約の締結は事前または事後に、国会の承認を経ることを必要とするとあるから、交渉が妥結し、条約化した段階で応諾を決めればよいではないか。ここは暖かい目でとは言わないが、厳しい目で交渉の成り行きを見守るときだ。
◎TPPで「対中対中包囲網」のオバマ戦略浮上
◎TPPで「対中対中包囲網」のオバマ戦略浮上
環太平洋経済連携協定(TPP)をめぐって姿を現した最大のポイントは、中国を意識した米国世界戦略のアジア・シフトであろう。「対中封じ込め」と、自国経済活性化を意識した一石二鳥のオバマ戦略の浮上である。日本は、主要国が雪崩を打ってTPPに参加するきっかけを作ったことになり、米国主導の形で地域の自由貿易化や経済ブロック化が進む流れへと重要な役割を果たしたことになる。しかし、あくまで米国にとっては日本の動きは世界戦略の中のワン・オフ・ゼムであろう。
何と言っても今回の会議の性格を著しく象徴したのが、共同記者会見の場における米通商代表部(USTR)代表・カークと中国の商務次官補・兪建華の激論だ。兪はまず、「日本の決定はニュースで知った。日本はこれまで繰り返し、中国、韓国、日本の3カ国間の自由貿易協定など、他の地域統合メカニズムについても促進すると言っている」と日本の動きをけん制した。次いで兪はTPPについて「いままで我々は参加について何の招待も受け取っていない。もし、招待を受ければ、真剣に検討するだろう。TPPは開かれたものであり、かつ透明であるべきだ」と不満を表明した。これに対し、カークは「中国の仲間に言いたい。TPPは閉ざされたクラブではない。だれでも歓迎するが、招待状を待つようなものではない」と厳しいしっぺ返しを食らわせたのである。
この「米中確執劇」が物語るものは、泥沼の中東や、やはり光明の見えない欧州経済危機を前にして、米国の外交・安保・経済上の世界戦略が躍進するアジア重視に大きく傾斜したことを物語る。オバマはまず首相・野田佳彦に圧力をかけて、何が何でも参加の方向へと誘った。日本が参加へ固まったと見るや、「日本も参加する」とカナダ、メキシコを説得したに違いない。環太平洋の主要国が雪崩を打った形となり、内政で問題を抱えるオバマ外交に取ってドラマチックなまでの成果となった。今後フィリピンをはじめパプアニューギニアまでもが参加の方向となり、明らかに「対中包囲網」を形成することになる。
米国がTPP推進に当たって中国に何の働きかけもしなかったことは確かだ。兪が日本の参加を「ニュースで知った」と述べていることがそれを物語る。15日付朝日新聞によると中国外務省幹部はTPP参加国がその目指す内容の概要で大筋合意したことについても「我々には何の連絡もない。どういうものかも分からない」と不満を漏らしているという。カークの「閉ざされたクラブではない」発言とは逆に「中国外し」による「対中包囲網」形成が着々と進んでいたことになる。やがてはGDPで米国をも追い越す勢いを見せる中国が、その露骨な軍事力増強と南シナ海や極東への勢力拡大を目の当たりにして、米国は強いけん制を現段階において実行しなければならないと判断するに至ったのだ。将来手に負えなくなる巨人を野放しすることになる危険を未然に防止する動きに出たのだ。オバマが記者会見で中国の「ルール破り」を厳しく指弾したのもその手始めであろう。
中国外交にとってはASEAN首脳会議は頂門の一針というか悪夢というか、手痛い打撃となった。しかしそうかと言ってTPP参加へと中国指導部がかじを切る流れには当分ならないだろう。来年の共産党大会での指導部交代を控えて、TPPへの加盟は共産党一党独裁をも揺るがしかねない危険性を帯びているからだ。自由貿易体制の確立はとりもなおさず、中国国内の諸制度改革へと波及する。だから中国はASEAN+3(日・中・韓)を主張して、主導権を握ろうとしてきたのだ。
こうしてオバマの目指すTPPは、純粋な自由貿易の側面に、政治・安全保障上の超大国の思惑が強く作用する流れとなった。世界史を眺めても古来通商網の整備は軍事力と密接に連結しており、オバマはその大網をアジアに掛けたことになる。総論ではオバマ戦略の勝利となったが、加盟国の利害が激突する各論に入ると、TPPも一筋縄ではいくまい。野田もオバマ戦略に組み入れられたが、これからが「外交力」を試される正念場だ。それにつけても野田は、バスに乗り遅れる寸前で、反対派を振り切ってよく飛び乗れたものだ。マスコミの世論調査はTPP参加賛成がいずれも反対を上回った。朝日「賛成」46%「反対」28%。読売「評価する」51%、「評価しない」35%。NHK「賛成」34%、「反対」21%だ。逆に野田の支持率だけは大幅にダウンしているが、すべては“逃げ”の説明不足に起因する。
◎野田、TPPと消費増税の二重苦に
◎野田、TPPと消費増税の二重苦に
民主党政権は過去2年間にわたる「混迷」から、野田の環太平洋経済連携協定(TPP)参加表明でようやくにして「普通の政権」に戻った。政権担当能力のない者が行った、はちゃめちゃ政治からは脱却した。しかし、交渉参加で露呈した野田の政治手法は誰がみても国会・国民無視の“逃げ”に徹しており、これでTPPより実質的には困難な消費税増税案を年末までの1か月半でまとめられるかに疑問符がつく。政策論議のTPPと異なり消費増税は「政局」になり得る要素を多分に秘めているからだ。
TPPは、首相・野田佳彦が間接的に「関係国との協議に入る」と言おうが何と言おうが、現実には交渉参加は決まったのであり、反対派は敗退したのだ。民主党内反対派もみんなの党以外の野党も負けたのだ。反対派の当面糊塗(こと)の発言の象徴が前農水相・山田正彦。往復びんたを食らったのに「ほっとしている」とは聞いてあきれる。「いわゆる事前協議ということでとどまってくれて本当によかった」とも宣もうたが、ハワイでの野田発言を聞けば事前協議とはほど遠い。オバマは「決断を歓迎」しているのであり、参加の正式意思表明と受け取っている。山田は自分が離党せずに済んでほっとしているのであり、反対運動が狸も参加した田舎芝居の側面があったことを物語るのだ。
問題の核心は交渉への「参加」にあるのではない。交渉そのものにある。端的に言えば、野田が「コメの関税撤廃」で譲歩すれば、それこそ与野党そろっての猛反対の竜巻が生じて、政権は吹き飛ぶだろう。加えて参加即締結とみるような反対論があるが、それほど国際社会は甘くはない。これから政権の「交渉力」そのものが試されるのだ。交渉力で言えば、ハワイで、野田はさっそく厳しい洗礼を受けた。前首相・菅直人ですらオブザーバーで招かれた、加盟国会合に招かれなかったのだ。まさに野田政権の交渉力に問題があることを冒頭から露呈した。
さらに交渉は長期化不可避であり、前回も書いたように野田政権で妥結が実現するかどうかも分からない。まず、交渉への参加が9か国の了承が必要であり、早くて来春となる。以後TPP加盟国は今後5回程度の交渉の上、来年末までの交渉妥結を予定している。この間米大統領選挙が来年11月に行われ、オバマが敗退すれば次の大統領がTPPを推進するかどうかも分からない。次の大統領が推進するとしても、日本のコメ、米国の砂糖など難問は山積しており、順調にいっても2013年の妥結だろう。妥結事項は条約化され、10か国の批准手続きが必要だ。おそらく発効は2014年以降になる。
この間日本の政局はというと、TPPが与野党対決の主軸として浮上したことは確かであろう。来年の通常国会での解散・総選挙を目指す自民、公明両党はTPPを奇貨として、追い込みを図るだろう。自公とも基本的には時期尚早論だが、交渉内容次第では批准段階にまで対決を持ち越す可能性がある。衆院で過半数確保出来れば、条約批准は成り立つが、確保出来るかどうかが焦点となる。これに加えて野田がこともあろうにカンヌのG20で国際公約とした消費増税が待ったなしの追い打ちをかける。年末までにまとめて消費税増税準備法案を3月までに国会提出しなければならない。野田にとって致命傷となり得るのは、カンヌの公約がTPPと全く同じで党内の論議を経ていないことだ。なぜなら6月の閣議合意事項は2015年までに引き上げるとするところを「2010年代半ば」とし、「経済状況の勘案」も織り込まれた上での玉虫色決定であるのだ。それも財務相・野田の主導で決まったもので、正式な閣議決定には至っていない。
要するに小沢一郎を中心とする原理主義的な消費税反対をそらすための窮余の一策であったのであり、政権内に存在する消費増税派と反対派の深層海流はいつ浮上して激突してもおかしくない状況になる。それが待ったなしで年末までに発生するのであり、政権は時限爆弾を抱えて秒読みに入ったことになる。もっとも野田のTPPへの姿勢がまがりなりにも当初からぶれなかったことだけは、“逃げ”の政治手法とは別に評価されてしかるべきだろう。民主党政権は鳩山由紀夫と菅直人で失った“信用”をようやくにして回復しつつある。全く信用出来なかった政権が、やや息を吹き返した形にはなった。一方で自公両党は共産党と十把一絡げの何でも反対政党に成り下がった。自民党総裁・谷垣禎一が「『アメリカのオバマ大統領の再選戦略に協力してくれ』というだけの話であれば、非常に危険だ」と批判の矛先をあらぬ方向に誘導しようとしているが、見当違いもも甚だしい。自民党は衰退著しい農村部の票が目当てだろうが、TPP支持層は都市部の浮動層に多く存在、これが離反することが分かっていない。小泉純一郎が総選挙に勝ったのも都市部の浮動票を掘り起こしたからだ。自民党は大戦略を間違った。自公がTPP絶対反対を貫けば、確実に票を減らす。野田も消費税で民主党票を減らすから、どちらが歩留まりがいいかの戦いともなる。野田は帰国直後からTPPと消費税の二重苦の国会論議に巻き込まれる。
◎野田は決断一日延期でも求心力が陰る
◎野田は決断一日延期でも求心力が陰る
こういうときは、やらなかったらどうなるかを深く考えることだ。そうすれば「退くが地獄」の状況がよく分かる。環太平洋経済連携協定(TPP)参加の決断を首相・野田佳彦が一日延ばしただけで、野党も民主党内反対派も鬼の首を取ったかのように喜ぶのは浅慮の致すところだろう。野田はやらざるを得ないのだ。
まず野田が「やるのをやめた」と言ったらどうなるか。おれがおれがの鳩山由紀夫と菅直人が「オレオレ詐欺」なら、野田は「やるやる詐欺」になる。鳩山が普天間移設を「最低でも県外」と言いながら、「学べば学ぶほど海兵隊の抑止力が分かった」と撤回したのと同じだ。マスコミは全国紙全紙が10日付の朝刊で同日の決断を断定的に報じたが、官邸取材が最長不倒距離12年の筆者は手に取るように事情が分かる。官房長官・藤村修はじめ側近が裏で「やる」と断定しているから書いたのだ。野田自身も10日朝の国会答弁で「高いレベルの経済連携と農業再生の両立を図る」と踏み込んでいる。確証があるから断定的に書けるのだ。
「やるやる詐欺」の場合の第1のマイナスは、この推進論を取ってきたマスコミを完全に敵に回すことになる。次に経団連など財界も確実に離反する。おそらく米国に対しては外交ルートを通じて、「やるやる」の方針が非公式に伝わっているだろうから、日米関係に大打撃となる。ホワイトハウスは報道官を通じて「深い失望の念」を表明する。次いで13日に予定していたオバマとの首脳会談は5分間でそそくさと終わる事になる。逆に中国、韓国、ロシアは「それみたことか」とばかりに、欣喜雀躍する。そして野田が得るものはこれらの反応を報道するマスコミのとげとげしい論調である。野田に一縷(る)の望みを抱いていたマスコミは、野田を完全に見放す。鳩菅への対応とそっくりの報道となり、民主党政権は早期解散へと追い込まれる。「政局」になってしまうのだ。
こうした自明の理を野田は分かっていないはずはない。それでは何故一日延ばしたかというと、反対派への慰撫工作と閣僚から反対の声が出る危険があり、これも説得する必要があるからだ。反対派頭目の山田正彦の離党扇動に乗って半可通の一年生議員らが飛び跳ねる可能性は否定出来ない。離党者をできるだけ少なくとどめるためにも幹事長・輿石東としては一晩でも時間がほしいところだろう。また閣内でも農水相・鹿野道彦や反対の国民新党から出ている金融相・自見庄三郎らが反対の動きに出れば、更迭して差し替える必要が出るかも知れない。これも政局になりかねない。少しでも説得して最終確認する時間が必要なのだ。したがってワンクッション置く必要があったのだ。
ただ、予定していた決意表明の記者会見を一日でも延期したことは、野田のリーダーシップが揺らぐものと受け止められるだけに、政権にとっては手痛い打撃となる。そもそも野田は、TPPで自らが前面に出て国民をはじめ党内や閣内への説得をしたことはただの一度もない。経済連携プロジェクトチーム(PT)への出席もなく、閣僚会議などでの説明もない。かねてから指摘されているように安全運転の度が過ぎるというより、ここまで来ると政治手法そのものが“逃げ”を基本としているように映る。求心力への打撃となったことは否めないのだ。
民主党内反対派は気勢を上げているが、山田も本当に阻止できるとは思っていまい。相変わらず離党ばかりを口の端にのせているが
こちらの方もこれだけ煽った以上「辞め辞め詐欺」にならないように、野田が決断したら本当に離党して、政治信条を果たさなければなるまい。一方で野党の対応も醜態だ。自民党も「拙速な判断」とTPP決断に反対しておきながら、副総裁・大島理森が「『逃げるな、総理大臣』と申し上げたい」と言うのは論理矛盾ではないか。何でも反対すればよいというものでもあるまい。この場面において野党で一番男を上げたのが、自民党の小泉進次郞だ。「自民党は拙速だというが、私は遅すぎると思っている」と発言したのだ。執行部に対しても「早期解散をいうのなら、遅すぎると何でいわないのか」と批判した。おそらく父親・小泉純一郎のアドバイスがあるのだろうが、この判断は正しい。同じ一年生議員でもバブルで当選して、今になってうろたえている民主党の有象無象とは異なる。将来が楽しみだ。
◎TPP参加は対中、対露けん制の側面
◎TPP参加は対中、対露けん制の側面
民主党の環太平洋経済連携協定(TPP)に関するプロジェクトチーム(PT)の避けて通れない“儀式”が終わり、首相・野田佳彦が交渉参加を10日決断する。PTの結論は「『時期尚早・表明すべきではない』『表明すべき』との賛否両論があったが、前者の立場に立つ発言が多かった。政府には慎重に判断することを提言する」というのだから、事実上の両論併記だ。野田は“慎重なる判断”で交渉参加を決めればよいことでもある。野田は当初から一貫してぶれずに推進への前向き姿勢を明らかにしてきたが、その背景にあるものは何か。明らかに日米同盟の重視と対中、対ロシアけん制の保守政治回帰がある。民主党政権がはじめて行う本筋の外交・安保上の決断でもあるのだ。
日米関係は首相・鳩山由紀夫が普天間移設問題で「毀損」させ、それを首相・菅直人が「放置」して2年が経過した。この間、中国は尖閣列島での漁船衝突事件や南沙諸島への進出が象徴する拡大主義、国際経済秩序の無視などまさに野放図に勢力拡大を図りつつある。中東のくびきから離れつつある米国はアジアに目を転じ、自国の経済をアジアの活力導入で立て直すべくTPPに参加、これを強化するため日本への参加を求めた。2代にわたる無能な政権が放置した日米同盟関係は、ここに来て軍事的側面のみならず経済的側面からも立て直さざるを得ない状況に至ったのだ。時々思い出したように語られるが、日米安保条約は第2条で「自由主義を護持し、日米両国が諸分野において協力することを定める」と経済協力がうたわれており、経済条約の側面もあるのだ。こうした背景をもとに、TPPはアジアの安全保障と経済秩序を日米主導に引き戻すという意味合いを濃厚にしているのだ。
このような動きを反映するかのように、首相周辺もTPPにおける外交・安保上の重要性に言及し始めた。首相補佐官の長島昭久は講演でTPPへの参加について「中国とどう向き合っていくかが最大の戦略課題だ。中国から見て『なかなか手ごわい』と思わせる戦略的な環境を整えていく」と遠慮のない対中けん制をしている。さらに長島は「アジアを米国と中国だけに仕切らせない。アジア太平洋の秩序は日本と米国で作っていく積極的な視点が必要だ。アジア太平洋全域を私たちの庭として手に入れ、経済秩序と安全秩序を作っていく」と強調した。外交・安保上の2年の空白はロシアの北方領土不法占拠の恒久化、爆撃機の列島一周など露骨な軍事挑発をも招いており、対露けん制の意味合いも色濃い。外交・安保上の「縮みの2年間」からようやく脱却できるチャンスとなり得るのだ。また20年にわたる経済の低迷も、これを契機にダイナミックな離脱へと動かさなければなるまい。
おそらく中国もロシアも、日本国内のTPP論議を固唾をのんで見守っているに違いない。まず中国の反応が早かった。全く滞っていた日中韓3か国による経済連携協定(EPA)の共同研究に前向き姿勢に転じたのだ。近く結論が出て、来年から交渉の運びとなる方向だ。野田は国会答弁で「TPPからFTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)への道筋もある」と中国、韓国の参加した自由貿易圏構想への発展も視野に入れていることを明らかにした。しかし、TPPの交渉自体がまだこれからであり、その先の展望が立つ段階ではあるまい。日本が参加表明すれば反対する国はないと思われる。TPP交渉に参加している9カ国の経済規模は名目GDPで世界の27%程度。日本が加われば、36%と一挙に拡大する。日本の参加の是非はTPPが成功するかどうかの鍵を握っていることでもあるのだ。しかし、加盟9か国すべての承認手続きが必要となる。特に米国は通商交渉権を議会が持っており、手続き完了が来年以降になる可能性が強い。
従って野田が参加を決断して、加盟が承認されても交渉が長引けば、交渉妥結が野田政権でなくなっている可能性も否定出来ない。しかし怨念の権力闘争と異なり、TPPはいわば政策論争だ。野田が交渉参加に踏み切れば、きな臭い動きも生じる可能性は否定出来ないが、時間と共に沈静化するだろう。離党発煙を繰り返す前農水相・山田正彦と抱き合い心中する向きが多いとは考えられない。落ち目の国民新党代表・亀井静香程度がいくら旗を振っても、新党などはとても無理だ。逆に野田が参加の決断をしなければ、普天間問題での首相・鳩山由紀夫のはちゃめちゃな公約撤回と全く同じ形態となり、内閣は吹き飛ぶ。それにつけても、自民党のTPPに対するいいかげんさは目に余るものがある。総裁・谷垣禎一は賛成も反対も言うに言えず「時期尚早論」を述べているが、物事には潮時というものがある。党としての見解を打ち出せないが故に、政権を批判するのでは、かっての何でも反対の社会党と変わりがないではないか。とても政権復帰など言える対応ではない。
◎「マルチ山岡」が政権の“アリの一穴”に
◎「マルチ山岡」が政権の“アリの一穴”に
どんな名優も及ばないような悪役ぶりを衆院予算委員会で演じるのが「マルチ山岡」こと国家公安委員長・山岡賢次(消費者担当相)だ。自民党・平沢勝栄の質問が自分に回ると、憎々しげな風貌をあらわにして「ようやく発言のチャンスを与えていただいた」と、自信に満ちた様子で答弁に及んだ。ところが山岡が秘書に「マルチで稼げ」と指示した新事実が暴露されると、一転してして顔色が変わり、平沢に秘書名を教えよと懇願。どうみてもマルチ疑惑は浮き彫りにされた。問責決議可決へ向けての環境が整備される流れとなった。
予算委の野党質問は自民党新政調会長・茂木敏充らのかったるい追及を見ていて、欠伸が止まらなかった。追及材料が山積しているにもかかわらず、茂木はピントを外して重箱の隅を突きまくり、前政調会長・石破茂に比べると格段に追及力、破壊力の欠如が見られた。総裁・谷垣禎一の人事の失敗を露呈させるものだろう。ところが平沢の質問に移ると目が覚めた。さすがに「閣僚の資質の欠陥」を調査するチームを設置し、対策を練ってきただけあって、山岡が真っ青になるところまで追い詰めた。白眉は平成16年の秘書への指示。平沢によると山岡は「事務所経費が大変なのでマルチで稼いでくれ」と指示したというのだ。平沢は元秘書に会って話を聞いたものだという。
山岡の反応は、うろたえたと言ってもよいものであった。最初は「名誉毀損だ」と居丈高に反応した。これには驚いた。国体委員長経験者たる者が憲法51条にある国会議員の免責特権も知らないということになる。国会議員は国会で行った演説、討論の責任を院外では問われないのだ。平沢が二の矢を継いで、山岡と事務所関係者らの証人喚問を求めると、急に薄気味悪いくらいの低姿勢になって、平沢に「長い付き合いだ、友情をもって誰が言ったかを教えてほしい」と懇願。テレビで中継されている場を、まるで料亭の一室と間違えているような答弁に、平沢の方が戸惑った。
さらにマルチ企業で講演した問題では山岡は「何の会でどんな趣旨かは知らなかった」と述べたが、これはすぐにうそがばれる答弁だ。ネットには講演の映像が流布されており、始めから終わりまで「マルチの勧め」で一貫しているからだ。また週刊新潮を名誉毀損で訴えて、その後請求放棄して事実上の敗訴になった問題について追及されると、「国対委員長で多忙なため関わっていられなかった」と弁明。すかさず平沢に「国体委員長がマルチの会で演説する時間があっても、裁判所に行く時間がないのか」とどめを刺されて、「ケースバイケース」などと苦しい答弁に終始した。
この山岡追及の位置づけは野田の「適材適所で人材を配置した」という発言と、あまりにもずれていることを浮かび上がらせるものであり、政権にとっては痛手だ。「ネズミ小僧を火付け盗賊改め方に任命したようなものだ」(自民党幹部)はいささかきついが、似ていなくもない。与野党は復興のための所得増税を25年間とすることで一致、第3次補正予算案の成立にめどがつき、大震災が取り持つ“疑似協調路線”は終わりを告げた。今後は早期解散に向けての対決が基調となるが、山岡問題は政権の“アリの一穴”となり得る。その「一穴」を拡大するために、自民党は山岡と秘書らの証人喚問でさらにマルチ疑惑を露呈させたうえで、参院での問責決議可決を戦略に描く。
過去に問責決議が可決された首相、閣僚は5人いるが、いずれも遅かれ早かれ辞任または配置転換となっている。昨年末官房長官・仙谷由人と国交相・馬淵澄夫への問責決議が可決された際も、首相・菅直人は結局改造して二人を閣僚から外した。問責は法的拘束力がないが参院がねじれで動かなくなるのである。おそらく臨時国会会期末での問責を想定しているのだろうが、可決しても山岡が辞任しなければ、かえって野党に有利となる。問題を通常国会冒頭まで引きずることが可能となるからだ。通常国会での辞任となれば自公両党が狙う早期国会解散への足場ができることになる。
◎TPP「反対派3大将」よ、勝負は負けだ
◎TPP「反対派3大将」よ、勝負は負けだ
「盲(めくら)千人目明き千人」とは、広辞苑によると世の中には道理の分かる人も分からない人もそれぞれに多いことを言う。世の中はそれでよい。しかし国をリードする国会議員がそうであってはならない。環太平洋経済連携協定(TPP)をめぐる与野党を巻き込んだ議論は病膏肓に入る状況であるが、総じて大局観のないのが反対派。将来を見据えているのが推進派だ。農協の鉢巻きを締めるとなぜか馬鹿に見える反対派の「3大将」と、今回は利口に見える賛成派の「5賢人」の主張を分析してみたい。
まず「3大将筆頭」が国民新党代表・亀井静香。ひたすらことを政局化する発言で首相・野田佳彦を脅迫しており、手法が古い。8日の野田との会談を控えて「民主党政権が、あっという間に倒れることになっていいのかと申し上げたい」とすごんでいるが、遠吠えの脅しでなく本当に連立政権を離脱してはどうか。政権の枠内にいることだけでメリットを享受しているミニ政党に、その度胸があるのか。どうもこの政党は、かっての民社党のような“条件闘争”の臭いがして嫌な気分になる。
「次席大将」が自民党の加藤紘一。この人物は外交官の出身だけあって、スマートさが売り物だったが、農協の鉢巻き姿を見てがっかりした。「TPP交渉は入ったら抜け出せなくなる地獄だ」「全体としても、農林政策の面からも反対だ最後の最後まで反対で、超党派で頑張りたい」とひたすら感情論を展開している。外交ではそれなりの大局観を持っているのだが、何故だろうか。現在72歳で、おそらくもう一度選挙をやりたいのだろう。それには地元山形県の農協票が欠けては落選必至だ。国家より自分が大事と見える。「加藤の乱」以来の見当違いだ。
「顔だけ大将」が前農水相・山田正彦。なぜ「顔だけ」かというと、顔が大きいだけでもっているからだ。山田は、野田がTPPに参加するなら「離党する」とすごんでいるが、よく見ると怖くなくてジブリのアニメみたいで可愛い。離党と言っても衆参議員の多数を巻き込んだ大きな動きには発展しそうもない。山田は民主党の反対署名が212人にのぼったと発表したはずだが、7日の慎重派の緊急集会には、与野党合計でたったの140人しか参加していない。署名のいいかげんさが分かる。参院に首相問責決議を出すことをほのめかしているが、そうなれば即政局だ。その覚悟、統率力はないとみる。キーマン小沢一郎は動くまい。
対照的なのが「5賢人」だ。今度だけは賢く見える。まず民主党幹事長・輿石東で、最初からぶれない。「これがあれば日本の農業が再生するというものがあれば、半世紀以上、日本の農政はもう少しなんとかなった。そんなにきちっとしたことができるはずもない」と農協を切って捨てている。たしかにTPP論議は衰退きわまりない農業と国が抱き合い心中するかどうかの瀬戸際を意味する。できることはできる。できないものはできないとはっきり言うのが政治家に求められる姿勢だ。だいいち国が滅んでは農業も助けられないではないか。これが一番大事な大局観だ。
その点自民党前政調会長・石破茂、民主党前幹事長・岡田克也もはっきりしている。石破は「メリットもデメリットもあるが、参加しない選択はあり得ない。気に入らなければ国会で承認しなければいい」と述べる。岡田は「TPPは日本がこれからどう生きていくかという問題だ。アジアの豊かさをわが豊かさにするのが日本の基本戦略」と主張する。いずれもすっきりと胃の腑に納まる論理だ。貿易立国で生き抜くには参加しない選択はあり得ないのだ。「日本人の精神のありようや気概の持ち方として、そんな内向きでいいのか」と述べる政調会長代行・仙谷由人も最初から全くぶれていないし、発言内容ももっともだ。外相・玄葉光一郎も度胸がある。何と地元の福島県で農協関係者を前にして「何もしなければ日本は縮む」と推進論をぶったのだ。加藤と違って信条のために身を捨てている。
要するにテコ入れを何度繰り返しても日本の農業は衰退の一途をたどり、耕作放棄面積は拡大し、農業人口の高齢化はとどまるところを知らない。関税自由化が問題になる度に莫大(ばくだい)な税金を湯水のようにつぎ込んだが、その場しのぎでしかなかったことを物語る。実質9割が兼業農家の現実は「TPP反対」と絶対矛盾する。農政は抜本改革に直面しているのであり、そのための財源捻出のためにも、躍進するアジアの力をてこに自由貿易の恩恵を受けて、経済を復活させるしか日本の生きる道はないのだ。国会議員たる者が、己の利害を超越して自明の理を分かるか分からないかの問題なのである。マスコミの論調も定まった。1日付社説で読売が「TPP参加へ結論を出す時だ」と書いたが、今度は朝日が8日、ぶち抜きの大社説で「交渉参加で日本を前へ」と論じた。「参加しない限り、新たなルールに日本の主張を反映できない。TPPに主体的に関わることが、日本を前に進める道だ」と断定した。タイミングといい内容といい、近ごろにない社説の傑作だ。勝負は推進派の勝ちなのだ。
◎限界に達した野田の安全運転路線
◎限界に達した野田の安全運転路線
物事には程度というものがある。首相・野田佳彦の「安全運転」路線なるものも、まさに「過ぎたるは猶(なお)及ばざるがごとし」であろう。安全重視のあまりに国内で発言しなかった消費税増税という超重要政治決断を国際舞台で表明、国際公約を先行させてしまってはいけない。税金を払うのは各国首脳でなく、日本の国民であることを忘れてもらっては困る。せっかくの“決断”も日本で表明しないから、国内からは批判され、主要20カ国・地域(G20)首脳会議首脳らからは無視されるという醜態である。7日からの予算委員会答弁で集中攻撃を浴びるのは必至だ。
確かに「野田さんちのドジョウ君、近ごろ少し変よ」と言いたくなることが頻発している。ひとつは前首相・鳩山由紀夫への陳謝問題だ。話の展開はまず、外相・玄葉光一郎が普天間移設で「最低でも県外」とした鳩山発言を「あの時点でああいった発言をしたのは誤りだった」と批判した。これに関して、野田は先月27日の会合で鳩山に「間違いであり申し訳なかった」と陳謝したのだ。鳩山内閣が吹き飛んだ事件であり、この発言で普天間移移設が事実上不可能になったのである。まさに覆水盆に返らずで、ざんきに絶えない舌禍事件であるのに、これを擁護したことになる。玄葉が辞任してもおかしくない野田の対応だ。党内融和も度が過ぎている好例であり、当然予算委における追及の対象となる。
もう一つはG20で「2010年代半ばまでに段階的に消費税率を10%まで引き上げる。増税を実現するための法案を2011年度内に提出する」と発言した問題である。野田は国内的には6月に閣議で決まった周知の政策であるという認識で、発言したのだろうが、所信表明演説でも触れなかった消費増税をまず各国首脳に公約するメリットが果たしてあるのだろうか。誰が見ても首相としてはまず、国内や国民に報告してから、国際公約にすべきではないか。野田の狙いはおそらく、ギリシャと違って日本は財政再建路線を歩む方針を明示することにより、各国の危惧を和らげたいというところにあったに違いない。前幹事長・岡田克也だけが「日本への財政懸念にびしっとメッセージを送った」と賛辞を送っているが、各国の反応はと言うとほとんど無視だ。野田自身が会議後、あっけらかんと「どこからも何のコメントもありませんでした」と述べているように、各国首脳の関心はギリシャ危機に集中して、とても野田発言にまで至らなかったのであろう。
この結果朝日新聞が「首相、国内では沈黙、消費増税突然の国際公約化」と批判、民放テレビは皆これに習って批判の大合唱だ。野田が“変”なのは、自らの雄弁を代表選挙に際しての票稼ぎに使って以来、所信表明でも本会議答弁でも記者団への対応でも、いっさい封じてしまったことにある。官僚の作文の「棒読み首相」と化したのだ。前自民党政調会長・石破茂が「国民への説得という、首相の一番やるべき仕事を放棄して、大事な問題は外国でばんばん表明している」と政治手法を批判しているとおりだ。公明党代表・山口那津男も「独りよがりで物事を進めようとする本質が見えてきた」と対決姿勢を強めた。
しかしこの超安全運転が通用するのは先週までだ。今日7日からは、答弁書棒読みが利かない予算委の質疑に入る。野党は、このあまりにも防御に徹した首相の政治姿勢を突くだろう。加えて超ど級テーマの環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加、消費増税、普天間移設問題の「3大地雷原」へと誘導を図るだろう。とりわけTPPは12日からの東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議をタイムリミットとしており、決断を避けて通れない。自民党の加藤紘一が農協票を意識してか「TPP交渉は入ったら抜け出せなくなる地獄だ」と述べているが、筆者に言わせれば「退けば貿易立国日本の地獄」だ。
野田は「いずれにしても私の政治判断となる」と覚悟のほどを見せている。民主党政権始まって以来最大の首相“決断”マターだ。流れは民主党が9日に提言をとりまとめ、10日に野田が参加を決断して記者会見で説明、ASEANで正式表明する段取りであろう。こうして「逃げドジョウ」は、滑り止めつきの軍手で取っ捕まる方向となってきているのである。しかし、野党も自民党総裁・谷垣禎一が最初は「交渉参加」論であったにも関わらず、「参加時期尚早」論に変わっており、反対の国会決議まで唱えるようになった。どうも谷垣は「反対のための反対」野党に、自民党をおとしめているように見える。TPPはまかり間違うと政局化し、反対派の離党に端を発して政党の分離・再統合という政界再編への導火線にもなりかねない要素をはらみだした。
◎待たれる読売の電子新聞化
◎待たれる読売の電子新聞化
文化の日だからたまには政局を離れて高尚な「Webと新聞」の話しをするとしよう。新聞の電子新聞化が日本でも進んでいるが、天下の大新聞だけがいまだにその動きを見せない。朝日と日経が先行して地歩を固めつつあるのに、読売だけが、のほほんと宅配と駅売りの旧態依然たる手法に頼っているのだ。筆者はネット人口は増加の一途をたどり、将来は圧倒的多数がネットで新聞を読む時代が迫っているとみる。読売だけが参加しなければその貴重な論調が欠落したまま、「Web界」の論調に朝日が決定的な力を発揮する構造が築き上げられることになるのだ。ネット社会においても多様な言論活動が必要であり、その意味からも読売の参入は不可欠である。 若者の活字離れが叫ばれているが、実は若者は活字離れをしていない。逆にWeb上の活字へと“民族移動”しているに過ぎない。その例を挙げると、新聞だけでなく出版のWeb進出の遅れはいかんともしがたい状況にあり、アマゾンがようやく本格参入しだした段階だ。このため若者の間では待ちきれずに「自炊」が流行し始めている。筆者も半年前から「自炊」に熱中している。「自炊」とは本を裁断機で裁断して高速スキャナーで読み込み、iPadで読むことを言う。最近の傑作は「坂の上の雲」をまた読もうと、全6巻の文庫本をiPadに移したが、一挙に画面が大きくなって読みやすい。古本屋で50~60円の文庫本だ。もったいないと思う人種は時代遅れだ。書斎の本をいかに減らすかの時代なのだ。アメリカ並みに出版がWebと同時に行われれば問題のない話しだが、日本では過度期的に「自炊」なのだ。自炊をしては本の山を片づけるのだ。
新聞についてもWebで読む癖がついてしまった。紙面ではどうも頭に入りにくい。時々読売に関しては「新聞自炊」をやっている。よくWebでは新聞の持つ一覧性がないと言うが、日経、産経は紙面をそのまま、朝日はニュースに強弱を付けた横書きで提供している。全く不便は感じない。昔読売新聞のご老体が「新聞はトイレで読めるがパソコンはトイレにない」と宣うていたが、iPadはトイレで読むための道具でもある。またWebでは情報の収集の仕方が、トップ見出しの記事から読むとは限らない。逆に読者はまずテーマを設定して、検索にかけてから読むという傾向がある。いわば逆引き広辞苑の発想である。例えばTPPと検索に打ち込んで、ずらりと並ぶ記事・論調を選択して読むのである。これに読売が欠けるのはいかにも残念ではないだろうか。
もちろん今の読売のサイトを見れば、社説までは無料で見られる。しかし、特集記事や解説記事はサイトには載らない。本記も全文は乗らないケースが多い。読売は全国一の発行部数を維持してきたが、ここに来て17年ぶりに1千万部を切った。朝日も部数を減らしたが、逆に電子新聞は5月18日の創刊以来10月29日の5か月で5万部を突破した。日経は電子新聞の有料部数が2010年創刊以来14万部に達している。朝日の電子新聞購読者の中には本紙代3800円に1000円上乗せするだけで読めるから、ダブって購読する向きも多いようだ。朝日の場合、iPhoneに特化した電子新聞も読めるから、電車の中だろうが新聞を持ち歩く必要がない。新聞が付いてくるのだ。
読売はとっくに電子新聞の研究には着手していると聞く。94年には新聞制作システムの画像・記事データを利用し、衛星回線経由での電子新聞プロトタイプのデモを行っている。技術的なノウハウは蓄積してあるに違いない。このまま「紙」に頼っていては経営的にも発展性があるまい。そのうちに若年層が電子新聞へと移行し、高齢者ばかりが読者層となって「爺婆新聞」と言われかねないのだ。社説や解説、特集など読売の論調が朝日に対峙していることは、読者の判断力を多様化し、我が国民主主義の育成にどれほど役立っているかは計り知れない。例えば原発再稼働推進の論調が朝日の否定的な論調と対峙していれば、読者は選択肢が増える。言うまでもなく販売店対策が重要なポイントとしてあるのだろうが、ことは採算性の問題だけではあるまい。Webというこの大きな情報伝達の構造の中に入ることに意義があるのだ。読売が朝日に席巻されるまま拱手傍観していては、日本社会のためにはならない。「ネット言論界」のためにもならない。知恵を出せば電子新聞と販売店は共存できる。朝日、日経、産経が可能で、読売が不可能であるということはあるまい。経営陣は早期に電子新聞発刊に踏み切るべきだ。
◎自公早期解散戦略で足並み一致
◎自公早期解散戦略で足並み一致
第3次補正予算案の衆院通過のめどが立ち、大震災が仲立ちとなった民主・自民・公明の3党協調路線は一転して対立段階へと突入する流れとなった。代表質問でも自民党総裁・谷垣禎一が早期解散を要求したのに引き続き、公明党幹事長代行・斉藤鉄夫が首相・野田佳彦を厳しく批判して解散を求め、自公の足並みが政局対応で完全にそろった。自公は来年の通常国会における消費税率引き上げ準備法案の提出段階での解散を要求。これに対して野田は税率引き上げ実施前の13年8月の任期満了選挙を想定、解散綱引きが展開する状況となった。
1日までの本会議の論戦で目立ったのは、普段は温厚な斉藤の追及の激しさだった。野田が一人称の主語を使わず、「私たち」とか「各党共に」などと複数を主語にすることを指摘、「自分が主体となることを避けている。政治家として違和感を覚える」とまで言いきった。「心からの憤りを感ずる」とも述べ「消費税法案を提出した段階で信を問うのが筋だ」と主張する斉藤の口ぶりからは、明らかに公明党が早期の衆院解散・総選挙路線にかじを切り、戦闘モードに入ったことを物語る。もちろん幹部の意見は統一されている。代表・山口那津男も「首相が代わってもう3人目。マニフェストも消しては書き直し、消しては書き直し。海図があってなきが如しの船長に本当に日本の行く末を任せておけるのか。目標を示し、国民に信を問うて出直すべきだという声が起こるのも当然だ」と早期解散を求めている。幹事長・井上義久も「消費増税を法律で担保するなら、そのこと自体で信を問うべきだ」と主張している。
一方で谷垣も代表質問で「マニフェストの破たんと国民の信を受けないままの首相たらい回しによって、この政権は正統性が欠如している。解散・総選挙で国民との再契約を行うべきだ」と、公明党と同一歩調だ。両党党首らは先月26日夜の会合で、完全に意気投合し、「早期解散達成」の“攻守同盟”が出来上がったといわれている。自公が早期解散で一致した背景には、自民党側には、落選組からの早期解散の突き上げが強く、もたもたしていると谷垣自身の責任まで問われかねない状況にあること。公明党側には、野田に衆参ダブル選挙に持ち込まれれば、小政党にとって不利に働くという危機感がある。おまけに13年は都議会選挙もあり、トリプル選挙となれば、支持団体の創価学会が3重の股裂きに遭って、効率的な選挙が出来なくなる。自公両党の選挙協力もトリプル選挙では困難となるのだ。長年の選挙協力で出来上がった自公関係を軸に党勢の回復を図りたい思惑が両党にある。
両党の戦略は、まず第1に今国会では早期に第3次補正予算案を片づけ、解散・総選挙へのフリーハンドを確保したい点にある。早くも10日の衆院通過で民主党と一致したのもそれが理由だ。補正予算成立後は消費者担当相・山岡賢次のマルチ献金問題などを追及、参院で問責決議案を可決して政権を追い込む方針だ。山岡が居座っても、緊張感を通常国会に継続することが出来ることが重要なポイントだ。自公は消費税法案提出前後の解散を要求しているが、野田は「税率引き上げを実施する前には総選挙で民意を問う」と、法案の成立時期にはこだわらず、あくまで引き上げ実施前の選挙に固執している。
その実施時期については、政局がらみであるだけに野田はあいまいにしている。しかし、政府部内では社会保障と税の一体改革案で決まった「2010年代半ばまで段階的に10%まで引き上げる」との方針に基づき、13年度に3%、15年度に2%の引き上げの方向が内々固まりつつある。従って野田の発言の狙いは3%上げる前の任期満了選挙にあるのだろう。これが意味するところは来年の通常国会の解散か、13年8月の任期満了選挙かの綱引きに他ならない。しかし野田は任期満了選挙が、三木武夫の例に見られるように追い込まれる選挙の特質をもち、敗北につながることをまだ知らない。ましてや消費税をテーマとしては大敗不可避と言ってもよい。あい路を見出すには、今後少しでもチャンスがあれば解散に打って出るしかないのだ。その因果関係が分かれば、政局は一挙に流動化するかも知れない。いずれにせよ野田の解散回避路線と、自公一致の早期解散戦略が通常国会冒頭から激突することになる。
◎野田、TPP参加へじわり包囲網
◎野田、TPP参加へじわり包囲網
首相・野田佳彦の本会議答弁を聞けば前向きと受け取らないわけにはいくまい。ぐらりと環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加に傾いたとみる。野田は「一般論として、交渉の中で国益を最大限追求することは当然のことであり、国益に合致するよう全力を尽くして交渉に臨むべきだ」と述べたのだ。たとえ「一般論」と前置きしても、この時点での発言だ。「全力を尽くして交渉」に比重がある。折から、民主党内反対派の動きも、ここにきて勢い喪失の感を呈してきた。
「TPPを慎重に考える会」会長・山田正彦も、当初はスタジオジブリのアニメに出てくる“悪漢”そっくりのぐりぐり眼(まなこ)ですごみを利かせていたが、「交渉参加するなら離党する」と言っても、澎湃(ほうはい)として多数が同調する動きには発展しそうもない。ぱらぱらと同調する程度では、力にはならない。幹事長・輿石東も「そうならないようにする」と懐柔策を考えているようだ。その「考える会」もこのところ動きがぱっとしない。圧力がかかって出席者が毎回20人程度に減少しているのだ。
山田は政調会長代行・仙谷由人の「農協さんがTPP反対でわめいて走ってるが、言い募って党内合意を形成させないことを自己目的化して動いてはまずい」という発言をとらえて、辞任を求めた。しかし、けんかの仕方が“あさって”を向いていて、なっていない。仙谷の首など取っても何の役にも立たないのだ。本気でやるなら野田の首を取る動きに出なければ気迫は感じられない。仙谷も政調会長代行をやめて済むなら喜んで首を差し出すに違いない。ポイントは小沢一郎がTPPに前向き姿勢を見せており、反対の“核”が存在しないことにある。反対派には小沢に近い議員が多いが、みこしが動かなくては気勢も上がらない。何も知らない若手議員ばかりを扇動しても、しょせんは烏合(うごう)の衆に過ぎないのだ。
ニュースの出方を観察していると首相側近は、民放にリークし始めた。フジテレビ系FNNにリークして「野田首相、TPP交渉参加の意向固める」と報じさせ、TBSにリークして「首相は周辺に対し、外務・経産などTPPの交渉に関係する役所の人事を『当面凍結してでも参加したい』と漏らしている」といった具合だ。全国紙にリークすると活字が残って影響力が大きすぎるが、民放にリークするとじわじわと永田町に浸透して、地歩を占めることが出来るのだ。
加えて毎日新聞によるとTPPに参加した場合のメリットと参加しない場合のデメリットについて政府は、文書にまとめて党幹部らに配布している。これによると、まず反対派の衆院議員が一番懸念する解散・総選挙への影響について、「2013年夏まで国政選挙はない」ことを前提に「このタイミングで参加を表明できれば、交渉に参加しても劇的な影響は発生しない」と分析した。つまり現段階なら参加しても任期満了選挙までには有権者が忘れてしまい争点にならないというわけだ。逆に「交渉参加を延期すればするほど選挙が近づき、決断は下しにくくなる」と強調、早期参加の必要を説いている。
また12日のアジア太平洋経済協力会議(APEC)で交渉参加を表明すべき理由について「日本が参加表明すれば、米国が最も評価するタイミングとなる」と強調。交渉参加時期を延ばしたデメリットについては「日本は原加盟国になれず、ルールづくりに参加できない。出来上がった協定に参加すると、原加盟国から徹底的な市場開放を要求される」「先に交渉メンバーとなった韓国は日本の参加を認めない可能性すらある」と警告している。傑作なのは「実現できなければ新聞の見出しは『新政権、やはり何も決断できず』という言葉が躍る可能性が極めて大きい」と書いている点だ。これは素人の見出しだ。実現できなければ「野田政権、TPPで挫折」「新政権に普天間並みの打撃」「財界先行きに悲観論、株価は大暴落」などの見出しになる。こうして、野田とその周辺による巻狩作戦の輪がじわじわと狭まってゆく形となって来た。それにつけても自民党の谷垣禎一の代表質問はお粗末だった。ここに来て、TPPで何の代案も示さず、賛否を示さないままでは、政権を追及する資格に疑問符がつくではないか。

























