◎決め手を欠く小沢代表選戦略
◎決め手を欠く小沢代表選戦略首相・菅直人も両院議員総会で平謝りとは情けない。姿を見せずに糸を引いた小沢一郎の高笑いが聞こえる。しかし菅も代表選出馬表明と執行部続投の方針だけは辛うじて表明できた。永田町の耳目は小沢の動向に移行したが、大方の見方は「小沢は立てまい」というところに落ちつきつつある。勢い代理戦争となるが、「打倒菅」を打ち出すのか、幹事長・枝野幸男の更迭を狙った条件闘争になるのか選択がつきかねているように見える。決め手に欠いているのだ。
産経新聞によると議員総会前に「小沢幹事長のままだったら参院選で30議席も取れなかった、とは言っちゃいけないな」と執行部の一人がささやいたというが、これが菅の超低姿勢戦術を象徴している。政治とカネのせいで負けたとはおくびにも出せないのであろう。しかし、この菅の姿勢には、小沢に対する“未練”が残っているように見える。本気で代表選に臨まないように願っているのだ。そこには政権とは戦い取るものという鉄則が欠けている。まだ小沢の出方が分からないのだろうが、菅には党内目線、それも小沢目線があって、国民への目線がない。
小沢の沈黙にしびれを切らしたのか渡部恒三が 先に「9月に小沢君、堂々と立候補したらいいんじゃないか。菅君も堂々とやれ」とけしかけているが、小沢にしてみれば「その手は食わぬ」のだろう。先に指摘したように代表選に出馬して勝ったら「一番嫌な首相のポジション」に就くことになってしまう。検察審による強制起訴などを考えたら、とてもできる選択ではない。ようやくで取材記者にも分かって来たとみえて、主要紙の「出馬する」と断定する見方は消えつつある。
民主党内情勢は29日の外相・岡田克也による菅続投支持表明に加えて、前原誠司、野田佳彦らのグループが支持に回りつつある。問題はいち早く支持表明したはずの鳩山由紀夫の威令が例によって派内に徹底しないことだ。側近の前官房副長官・松野頼久が小沢支持グループ「一新会」の例会で「鳩山は一新会に支えてもらった。今度は私たちが恩返しする番だ。一緒にやっていきましょう」と述べるとともに小沢出馬を促したのだ。鳩山もなめられたものだが、逆に菅に対するけん制の意味も含めて、松野を使っているのかも知れない。「鳩山・小沢枢軸」はできまいが、できれば200人を上回る勢力だけに、この動きは無視できまい。
しかし小沢側も対抗馬擁立のめどが立たないのが実情だ。代理戦争を承知で悪名高き小沢汚染が指摘される候補になり手があるかだ。樽床伸二、原口一博、海江田万里、田中真紀子などの名が上がっているが、菅が立候補表明しているのにいまだに定まらない。たとえ候補を立てても世論は菅続投支持の流れだ。首相になって短すぎることが“続投効果”を生んでいるのだ。
小沢の秘策は8年ぶりに実施される党員・サポーター投票にあるとされている。初の党員参加の代表選は78年の自民党総裁選予備選で行われ、現職首相の福田赳夫を大平が破った例がある。その時の田中角栄の党員らへの働きかけはすさまじく、夜中の3時から電話をかけまくったので有名だ。福田は「天の声にも変な声がある」とぼやいて、本選挙を辞退した。これをつぶさに見た小沢が党員・サポーター票に目をつけることはじゅうぶんあり得る。しかし、自民党の党員と異なり、若い層が多い党員・サポーターが小沢の働きかけに応じるかといえば、むしろマスコミの動向に左右される傾向が濃厚だろう。小沢の秘策は恐らく奏功しまい。小沢陣営は一見攻めているようで、決め手を欠いているのである。
◎レームダックに死刑執行させたのは演出だ
◎レームダックに死刑執行させたのは演出だ
米大統領など辞めることが分かっている政治家をレームダックと呼ぶ。レームダックは新たな政策など打ち出さず、もっぱら引き継ぎに専念するのが政治の常道だ。ところが辞めるか辞めさせられることが分かっている法相・千葉景子が、最高度の国家権力の行使である死刑を執行し、自ら立ち会い、公開を指示し、勉強会を立ち上げる。これが政治的パフォーマンスでなくてなんだろうか。そもそも死刑廃止論者は、法の執行者たる法相での入閣を受けるべきではない。この政権は死刑まで演出に利用するのだろうか。
新聞は恐らく法務省担当記者が書いたのであろう。トーンは法務官僚の説得が奏効したうえでの死刑執行との判断が主流であり、法務官僚レベルとしては当然の成果と受け取っているのだろう。しかし果たしてそれだけで、政治的な意図がなかったのだろうか。本来なら千葉はほおかむりしたままで退任して、死刑反対論者である自らの信念を貫いてもおかしくないはずだった。それを急きょ死刑執行に踏み切らせたのは菅政権としての高度の政治判断があるのだ。85%の国民が死刑執行を容認し、臨時国会では法相問責決議が予想される事態に至っている。このままではまずいとの判断が働いたのだ。
その意図が垣間見えるのは段取りだ。千葉は参院議員の任期が切れる25日の直前の24日に死刑執行命令書に署名している。国会議員である間に署名して、野党から指摘されている「民間人の居座り法相」のそしりをかわそうというのであろう。ところが問題は幹事長・枝野幸男がこの事実をわざわざ記者団に明らかにしたことだ。枝野は明らかに国会での追及対策のつもりであったのだろう。しかしなぜ枝野が法務省の内部事情まで知っていたかである。事前の調整の存在を疑わせるに十分な話ではないか。語るに落ちたというか、馬脚が現れたとしかいいようがない。
死刑執行そのものは法相としても当然の責務であるし、法と正義の名の下で粛々と行えばよいことだ。しかし冒頭述べたようにレームダックが信条をねじ曲げて行うべきことだろうか。辞める法相が勉強会を立ち上げても、「千葉人事」で懲りた菅は、後継の法相には「死刑を執行する政治家」を最優先して選任するだろう。千葉の狙う死刑廃止を研究する勉強会が宙に浮くことは目に見えている。千葉は就任以来、歴代法相が否定してきた指揮権発動問題について「検察も行政の一つだから、それに対して法相が指揮権を持っていると認識している」とこれを認める異様な発言を繰り返してきた。このような不信の象徴の法相に野党が参院で問責決議を提出することは首肯できることだ。既に有権者は「千葉法務行政」に「ノー」の判断を下している。これ以上民意の承認を得られなかった法相に死刑執行を始め法務行政を継続させてはなるまい。残余の任期と見られるのは2か月間とはいえ、何をするか分からない不気味さが漂う。それほど奇々怪々で異様な政治家だ。
「諫める」売れ行き絶好調
◎辻元の民主党入りは明明白白
◎辻元の民主党入りは明明白白
辻元清美の社民党離党のすべては国交副大臣辞任の際の“涙”が物語っている。あの涙は政権与党への未練と連立を解消した党首・福島瑞穂への怨嗟の涙だったのだ。それほど一度知ってしまうと離れられなくなるのが、政権与党の“蜜の味”なのだ。記者会見のボディランゲージは「民主党に入りたい」と見た。早ければ通常国会前、遅くとも総選挙前までには民主党入りするのだろう。これは蓮舫と並ぶ“看板娘”が登場することになり、民主党にとって選挙向けには相当の武器になる。
記者会見を聞いていたが、離党の第1の狙いは政権与党復帰にあることがありありと出ていた。「国土交通副大臣を経験し、現実との格闘から逃げずに仕事をしたい思いが強くなった」と正直に述べている。“蜜の味”といっても利権ばかりではない。政策遂行の充実感を知ったのだ。「総理、総理、総理」の追及ばかりでは空しいのだろう。本人も「総理、総理だけでは日本を変えられないと思った」とも述べている。
加えて選挙区事情だ。前回の総選挙で大阪10区から当選したのは、民主党が候補を立てず選挙協力に回ったのが大きかった。社民党の政権離脱はこれが困難になることを意味するのだ。朝日によると、約1週間前、辻元氏は親しい議員に「自分が昨年の衆院選で得た票のうち社民党票は1万5千、民主党票は8万5千。民主党が対抗馬を立てれば、私は間違いなく落ちる」と漏らしたという。5期目危うしの危機感が根底にあることは間違いない。
突然の辞任のように見えるが、少なくとも国交相・前原誠司とは相談の上の話であるように見える。前原の辻元辞任直後の発言ができすぎているからだ。「辻元氏は素晴らしい政治家。無所属になられたら、一緒の会派でともに仕事をさせていただきたい」という前原の言葉は、今後の段取りまで予感できる。当面は国会で会派を共にして投票行動も民主党と同一歩調を取り、時期を見て入党するという線だ。官房長官・仙谷由人にいたっては「可能性が非常にある政治家であると思うので、そういうポジションで頑張っていただければ」と早くもポジションまで用意しているような歓迎ぶりだ。
政治家とりわけ社会主義者は信念派と行動派に分けられるが、社民党の指導者は旧社会党以来の古色蒼然たる信念派が多い。党が老朽化して社会主義路線が息も絶え絶えの中で、辛気くさい爺さん婆さんばかりを見ていたら、辻元もやる気を無くす。選挙敗北の福島に対する責任論もうやむやのままだ。いつ壊れるか分からないような船からはネズミも逃げ出す。辻元は恩師土井たか子の意に背いて社会主義路線に見切りをつけたのだ。やはり老朽化した自民党を離党した与謝野馨と舛添要一に似ているが、与謝野と舛添には展望がなくなったが、辻元には民主党入党という展望がある。
◎「政策コンテスト」は首相のリーダーシップ放棄だ
◎「政策コンテスト」は首相のリーダーシップ放棄だ
なんともはや安易な発想である。来年度予算案の特別枠の内容について「政策コンテスト」という公開の場で議論するというのである。財務省主導の批判をかわすための苦肉の策のようだが、ポピュリズムの象徴で成果の上がらなかった事業仕分け同様に“大衆参加”のお墨付きがなければ、首相・菅直人が予算編成でリーダーシップを発揮できないのかということになる。政治主導どころか政治家不要を印象づけることになりかねない。
官房長官・仙谷由人の発表によると①特別枠の内容は「政策コンテスト」で選ぶ②公募による国民の参加やインターネットでの意見聴取も検討する③最終的には菅が判断して配分を決めるという形のようだ。菅自身も「これまで予算編成というと、やや密室の中で協議をする、あるいは関係者だけでの協議というところが多かったわけだが、今回はそういう編成過程も透明化したい」と説明した。しかし憲法に定められた内閣の予算提出権を大衆討議で決めて良いのか。
欧州などでは重要政策についての国民投票制度があり、日本でも導入すべきだという声が高まっている。選挙によって国政のかじ取りを議員に委ねている代議制民主主義を補完させるためのものであるが実現に至っていない。ましてや個々の政策について国民が参画して首相の決定に影響を与える「政策コンテスト」は何の法的根拠もない。事業仕分けでは「我々は国民の代表でここに来ているんだ」と開き直った者がいたが、国民は代表に任命した覚えはない。同様に何の基準でコンテストの参加者を決めるのか。また構想の破たんが目に見えているのがインターネットによる国民直接参加の仕組み。仙石はインターネットの何たるかを知っているのか。世の中でインターネットほど信用のおけないものはないのである。「国民」と称する外国人が外国から参加することも可能だ。ある組織が動員をかけて同じ意見を主張することも可能だ。
要するに政府は議院内閣制で成り立っており、予算編成は政治家がすべて責任を負うべきものだ。血税の使い道を「コンテスト」などという浮ついた用語で決定すべき性格のものでもあるまい。選任された政治家が責任を持って決定すればよいのであり、国民は選挙によって予算の当否を判断するのである。だいたい「1兆円を相当程度超える額」の特別枠とは、今後の民主党政権の成長戦略や重点施策を象徴するものとなるはずであり、予算項目の中でももっとも重視されるべきものだ。「コンテスト」の論議を菅が水戸黄門の印籠よろしく掲げなければ、財務省を押さえて政治主導を発揮できないとなれば、それこそ菅自身のリーダーシップを問われることになろう。
◎民・自長老笛吹けど龍馬現れず
◎民・自長老笛吹けど龍馬現れず
24日のBS朝日の番組は久しぶりに元首相・森喜朗と元衆院副議長・渡部恒三が大連立の話で盛り上がり面白かった。しかし民主・自民両党の長老が「救国円卓会議」で意気投合となれば書かざるをえないと思うが大新聞はなぜか触れずに、朝日も読売も回顧談を記事にしている。両者ともかなり真剣で太筆書きの切り口はちゃんと核心を突いていたにもかかわらずだ。
内容を紹介するとまず森が「国家国民第一で政治をやるのが政治家のつとめだ」と述べると、渡部が「是は是、非は非。増税だから何でも反対ではなく国のために役立つことに賛成してくれるならこれでいい」と応じた。ついで森が極秘の判が押された07年の大連立騒動の際の小沢一郎メモを取り出し「来年度に結論を出すべきものとして社会保障各党協議会の立ち上げ、国と地方の財政に関する協議会の立ち上げと書いてある。今度もこうしたことを中堅が集まってやったらいい。大連立はその後だ」と述べるとともに「しばらく政党の意識を抜いて、国家、国民のために話し合っていくことが国会の責任だし、政治家の務めだ」と付け加えた。さらに森は具体的な提案として「救国円卓会議をつくろう」と持ちかけた。渡部は「賛成だやりましょう」と応じた。
続けて森は「衆院の任期はあと三年ない。一年後でも2年後でも集まってやろう」と持ちかけると渡部は「賛成だ。国益優先。3年間党利党略なしだ」と答えた。両者とも自民党で当選した同期だがまさに肝胆相照らすムードが現出した。政治家だから冗談めかした部分もあったが、政局の認識、切り込みは正鵠を得ていた。つまり「真性ねじれ」の現状では、野党が何でも反対で国会に臨めば安倍政権以来の不毛の国会が続く。これは何としてでも回避せねばならぬし、回避するにはまさに危機的状況にある財政再建で最低限の一致をして、そのための円卓会議で党代表が話し合う。消費税増税で一致に至ればそのための大連立を組み法案を通す。こうした切り口で両党長老が一致したのだ。これは今後の政局を見る上で念頭に置いておいた方がよい。
一方、同日のテレビ番組では自民党総裁・谷垣禎一がやはり大連立に言及していた。谷垣は「すぐ大連立という発想は前のめり過ぎる。頭には全くない」と否定するとともに「立法の構成勢力と行政府が食い違うのは諸外国にも例が多い。まず、議論をする中で一定の結論を生んでいく努力をすべきだろう」と述べた。まさに「長老笛吹けど踊らず、坂本龍馬は現れず」という感じだ。どちらかと言えば谷垣は「真性ねじれ」を追い風に、政府・民主党を早期解散に追い込むことに照準を置いているのだろう。理想論と現実論のはざまで不幸になるのは国民でしかない。国家・国民のための政治より党利党略が優先して国会が相変わらずの混乱となれば、やがては世界的な「日本売り」を招き、財政破たんへの坂道を転げ落ちることが明々白々であることを与野党のリーダーは認識すべきではないのか。
◎絶妙な鳩山の「菅続投支持」発言
◎絶妙な鳩山の「菅続投支持」発言
首相を離れると物事が見えてくる典型的な例が中曽根康弘だ。実に澄んだ政治の見方をするようになった。ひょっとしたら鳩山由紀夫もそうかと思えてきたのが「菅続投支持」発言だ。タイミングといい方向性といい絶妙だ。裏には官房長官・仙谷由人の根回しがあったようだが、代表選に向けて投げかけた一石は大きい。
かって鳩山は森喜朗に対して「首相を退任後まで影響力を残したいという人がいるが、首相まで極めた人が影響力を行使することが政治の混乱を招いている」と述べたものだが、自分の過去の発言を忘却する癖は全く抜けていないようだ。今度の支持発言は「菅総理大臣に代わったばかりだから、しっかりやってもらいたい。現時点では、そう思っている。党内でガタガタやっている余裕はなく、執行部がしっかりと挙党態勢を作る努力をすべきだ」というものだが3つの条件がついている。菅による消費税発言の陳謝と国家戦略局機能縮小の撤回、脱小沢人事の再調整だ。菅は鳩山グループ60人を意識すればこれを受け入れざるを得まい。
鳩山は菅が希望している小沢一郎との会談についても「私が何らかの形で2人の間を取り持つようなことをやらなければいけないと思う」と取り次ぐ意向を明らかにしている。続投を支持した上で小沢との関係修復に動くというのだから、菅にとってこれ以上の朗報はない。鳩山を引き込んだ“仕掛け人”は誰かと言えば、仙石と見る。仙石は19日菅と会談した後、夜に都内のホテルで鳩山と長時間会談している。おそらく仙石は菅支持を要請、鳩山は条件をつけて支持する方針を取り付けたのだろう。それにしても仙石の“根回し力”は相当なものだ。
問題は22日夜の小沢、鳩山、参院議員会長・輿石東の会談だ。菅はこれに先立ち同日国会内に輿石を訪ね政権運営への協力を依頼している。菅にしてみれば鳩山に加えて輿石を味方につければ、小沢への説得力が一段と増すことになる。3者会談の焦点は鳩山の調整が菅・小沢会談に動くか、それともミイラ取りがミイラになって鳩山が小沢に取り込まれるかだ。表面的には「3人でこれからも協力していこう」とありきたりの話しか出ていないが、何を要求してゆくかがおいおい漏れてくるだろう。ポイントは“小沢支配色”を菅がどの程度受け入れるかだろう。
鳩山が小沢に取り込まれて小沢・鳩山連合となれば衆参両院の民主党議員数は412人で小沢グループは約150人だから210人の勢力となる。代表選の動向を左右する勢力だ。逆に鳩山の小沢説得が奏効すれば菅再選の流れが決まる。いずれにしても鳩山発言が代表選に向けて決定的な流れを作るか、小沢グループが戦闘モードに突入するか、事態は瀬戸際に来ていると見るべきだろう。
◎野党「菅続投」へ集中砲火:予算委審議
◎野党「菅続投」へ集中砲火:予算委審議
来月上旬の開催が確定した予算委員会は、参院選敗北を受けた首相・菅直人が続投の正統性をめぐって集中砲火を浴びる場となりそうである。菅が参院選敗北の歴代首相に浴びせたと同様の退陣論の洗礼をまず受けざるを得ないだろう。臨時国会自体は短期なため参院での問責決議採択のような事態には至らないと思うが、9月の民主党代表選挙にむけてボディブローとして作用するだろう。
小沢一郎は先週周辺に「菅はもたない。参院で首相問責決議案が可決されたら、総理は参院に出られない」(朝日新聞)と述べたという。確かに参院選挙で大敗北をした首相は、過去の例でも辞任に追い込まれるケースが多い。橋本龍太郎は1998年の参院選で何と今回と同じ44議席で退陣に追い込まれている。敗北の原因はやはり消費税引き上げによる不満と減税に関する発言が二転三転するという、今回の菅のケースと酷似している。2007年の参院選で惨敗した安倍晋三首相は、当初辞任することを拒否したものの、結局、辞任に追い込まれた。菅らが「参院選挙こそ直近の民意、安倍内閣は総辞職か衆議院解散を」と迫った結果である。 首相・菅直人が就任以来初めての予算委で野党側がこの構図を見逃すわけがない。既に自民党総裁・谷垣禎一もみんなの党代表・渡辺喜美も即刻退陣論だ。総辞職か解散を求めている。菅らの主張してきた“直近の民意”が政権に否定的に出たとして政権の正統性に疑問を呈する形で退陣を求めるだろう。しかし菅政権が成立してから2が月で首相のクビをすげ替えることに関する民意はどうだろうか。読売の調査では菅の続投支持が62%、反対が28%とまだ圧倒的に続投論が根強い。朝日の民主党都道府県連幹部への一斉調査でも8割超が続投を支持している。加えて新聞論調も菅の消費税増税路線を支持する空気がつよい。
一方「菅はもたない」という小沢の方も「小沢はもたない」と言われかねない側面がある。選挙責任は小沢も問われるのであり、「政治とカネ」で検察審議会の議決が大きく足をすくう要素となりつつある。野党は小沢の国会招致を予定している。こう見てくると、夏の臨時国会は野党が伝家の宝刀となった参院での首相問責決議案を提出して、一挙に勝負に出るのはまだ早いという判断に至るだろう。野党共闘の足並みも乱れる恐れがあるからだ。したがって夏の臨時国会での政変の可能性は薄いだろう。やはり秋口の民主党代表選を経て、秋の本格臨時国会が主戦場となる方向だろう。
◎菅は予算編成段階で野党の協力を求めよ
◎菅は予算編成段階で野党の協力を求めよ
財務省が示した「歳出71兆円」のシーリング達成は、ばらまき重視のマニフェスト(政権公約)を撤回しなければ不可能な方向が鮮明化しつつある。単に予算編成技術上の問題だけではなく政治的にも不可能である。にもかかわらず閣僚や民主党内から反発の大合唱だ。政治主導の国家戦略局も廃止し、各省一律10%カットも座礁し、予算のぶんどり合戦が野放しになりかねない。そもそもねじれ国会の現実は予算の制度設計の段階から野党に協力を求めざるを得ない状況にあることが分かっていない。井の中の蛙らによる「井蛙(せいあ)の見」が横行しては財政への信頼回復などとうていおぼつかない。
閣僚はいつから「政治主導」を忘れ省庁の応援団長になったのか。偏狭な発言が横行しだした。顔だけは大きい農水相・山田正彦に至っては「農水省が伸びた分だけ他の省庁が減る分があってもそれはメリハリだ」と狭量きわまりない発言。能天気にも「予算の一律削減はマニフェスト違反」とも宣うた。しかし問題はそのマニフェストにあることにまで頭が回らない。シーリングの骨子は歳出を71兆以下とし、借金は44兆だが、埋蔵金は使い果たした感が濃厚であり、借金を44兆に抑えられるかどうか疑問だ。外国為替資金特別会計の積立金を使って10兆円捻出(ねんしゅつ)するという奇策もあるが、一般会計への繰り入れには法改正が必要でこれも野党との調整が不可欠。
要するに特別会計などから多額の税外収入をねん出するか、マニフェストを撤回して歳出を削るかの選択を迫られているのである。しかし特会財源は単年度の効果しかなく、これを恒久財源を必要とするマニフェストの主要テーマに適合させることは、その場限りの逃げに過ぎない。したがって選択肢はマニフェストに絞られてくる。子ども手当の満額支給、農家戸別所得補償の本格実施、高速道路の無料化の3大ばらまき政策の撤回しかないのだ。ここで首相・菅直人の判断力と指導力が試される場面であろう。
参院選挙による有権者の判断は、マニフェストの欺瞞(ぎまん)性が白日の下に照らし出されたことも意味する。そのマニフェストに恋々としているのが小沢一郎とそのグループ、一部閣僚である。したがって菅が指導力を発揮しようとすれば、小沢ペースの「政局」に引き込まれる要素がある。一方でねじれ国会の現実は、借金によるばらまき政策遂行を是認する方向にはない。予算案は成立しても関連法案は成立しないという状況が現出するのだ。ばらまきなどいわゆる政治銘柄は法案が通らないのだ。
ここは与党がハードルを下げ、柔軟姿勢で臨むしかない。それには予算の制度設計の段階、つまり現段階から野党との協調姿勢を打ち出す必要があるのだ。予算化して関連法案ができてからでは遅いのだ。国会における不毛のドタバタが既に目に見える以上、編成段階で野党の意見を聞くべきだ。「与野党政調会長会談」などを新設しても良いではないか。ばらまき排除の予算など大枠で合意すれば野党も反対のための反対をするわけにはいかなくなる。菅はこうした柔軟姿勢なくして、国家の大計を立てることができなくなったことを認識すべきだ。
◎小沢過大評価が日本の政治を毀損する
◎小沢過大評価が日本の政治を毀損する
新聞、テレビの報道ぶりを見ると、民主党前幹事長・小沢一郎が政局のすべてのカギを握っているような印象を受けるが、果たしてそうか。買いかぶりすぎていないか。「小沢の沈黙はそこが狙い」(渡部恒三)ではないのか。そろそろメディアもすべてを小沢一郎に帰する「小沢神話」や「唯一論」を脱却して、政治を見るべき時が来ているのではないか。小沢は週明けから活動を再開するようだが、冷静に見れば小沢が“活躍”できる場は極めて限られている。
その理由はまず第1に焦点の参院選の責任論だ。もちろん首相・菅直人の消費税発言が原因の一つではあるが、すべてではない。小沢の責任に帰するものが半分以上はあると思う。一つは小沢選挙戦略の完全なる失敗である。複数区に複数候補を立てて対立が生じた結果の敗北が歴然であり、比例票の掘り起こしにも全くつながらなかった。2人区のすべてで、比例票は前回を下回っている。追い風の選挙戦術を逆風選挙に応用するという、だれが見ても稚拙な戦術を展開した結果だ。もっと政治的に大きいのは「鳩山・小沢体制」による大失政の余じんがくすぶり続け、これが不信感の継続となって選挙戦を直撃したのだ。したがって小沢は選挙責任を自ら認めるべきことはあっても、他人の責任を追及できる立場にはない。
第2の焦点は「政治とカネ」のぶり返しだ。第1検察審査会の「不起訴不当」の議決に加えて第5審議会の議決が、「小沢政治」を直撃しうる要素を持っている。第5審議会は10月までの任期のうちに議決するものとみられるが、「起訴相当」「不起訴不当」「不起訴相当」のうち手続きが終了する「不起訴相当」はまずないとみられている。問題は議決がいつ行われるかだが民主党代表選後の9月か10月となる公算が大きいようだ。小沢が立候補して勝った場合を想定してみよう。小沢は首班指名で首相になるが、直後に検察審議決が直撃する。憲法は、首相の同意がなければ国務大臣の刑事訴追はできないと定めており、首相の訴追は憲法上も不可能である。しかし政治的責任から免れられるわけがない。議決を受けて政局は大混乱に陥り、内閣は総辞職か解散へと追い込まれ、民主党政権は1年余で潰(つい)える。それでも小沢が代表選に立候補するだろうか。まずないだろう。代理戦争がいいところだ。
第3の焦点は大連立だ。消費税など政策限定の大連立の可能性は否定できない。しかしいくら過去20年間にわたって再編の主役を務めたからといって、今回も小沢主導で大連立があり得るかということだ。選挙直後の動きからみて状況が整う方向にないと思う。07年の大連立の仕掛け人である読売新聞グループ本社代表取締役会長・渡辺恒雄はとっくに小沢を見限ったと言われている。コーディネーターがいないのだ。既に自民党は早期解散・総選挙による政権奪還に照準を合わせており、政局は「協調より対決」を基調に展開するだろう。自民党政調会長・石破茂が言うように「大連立は小沢イズムが壁となって作用する。何があってもやりたくない」のだ。むしろ大連立なら小沢抜きでということになりうる。小沢と親しいたちあがれ日本共同代表・与謝野馨が財政再建などでの救国的大連立を唱えているが、自民党を出てしまった今は外野のヤジの部類にとどまる。政策での大連立は党機関対党機関の調整が必要となり、小沢流の裏技は利きにくいのだ。
また消費税での大連立といっても菅が「消費税は総選挙の後」と発言しているのに大連立でもあるまい。総選挙前は対立がどうしても前面に出勝ちだ。自民党総裁・谷垣禎一も大連立の可能性を「ゼロです」と否定している。それでは新連立の可能性だが、否定できないのは公明党との連立だが、選挙直後に小沢ペースに巻き込まれては公明党にとって「外聞が悪すぎる」ので当分はできないだろう。せいぜい政策ごとの部分連合だ。
こう見てくると主要政治テーマで小沢は越えがたい壁にぶつかっていることが分かる。参院選挙敗北でまぎれもない“責任者”の一人である小沢だけが生き残って、衆院選直後のような力を発揮できる余地はなくなってきているのだ。マスコミの“虚像”を作り上げるような無責任な小沢過大評価が、この国の政治を「政局過多」にして、真面目な政策論議を遠ざけていることを認識しなければなるまい。
◎紛れもなく「不起訴不当」は菅に有利
◎紛れもなく「不起訴不当」は菅に有利
東京第1検察審査会が「不起訴不当」の烙印を小沢一郎に押したことをめぐって、永田町では小沢に有利か不利かの論議が錯綜している。こういうときは議決の細かい内容に踏み込んで議論しても意味がない。一歩離れて見れば「首相・菅直人にプラス、小沢にマイナス」が歴然としてくる。選挙惨敗で小沢に陳謝することまで口にした菅だが、9月の代表選に向けて地歩を築きつつある。
出先記者の諸君は15日、菅が官邸に2時間遅れて着いた理由が分からず、憶測を飛ばしているが、筆者のボディーランゲージを読み取り当てる能力は、タコのパウロ君にまさるとも劣らない。その「解」は菅が官邸に着いた瞬間にある。選挙惨敗以来くすんだ顔をしていた菅が、デジタル大画面で見ると元気はつらつ。「お早うございます」の呼び掛けに時計を見て「もう『こんにちは』だ」と珍しく満面笑みで答えた。その後2時間あまりで第1審査会の発表だ。何でここに気がつかない。菅は発表を事前に知ったのだ。それで上機嫌だったのだ。もちろん公邸で対策を練るのに時間を取られたに違いない。古い話になるが首相・中曽根康弘が田中角栄の脳梗塞で倒れた日、一日中自らの上機嫌を隠さなかったことを思いだす。それほど権力者の存在は首相にとって重圧となっているのだ。
16日付全国紙における政界の反応への見方も分かれた。検察審の議決に毎日が「小沢氏側、起訴相当出ず安堵」と見出しを取り、小沢べったりの参院幹事長・高嶋良充の「小沢前幹事長は、一つの問題を大きくクリアされたものと思う」との談話を基に甘い見方を展開している。一方で読売は「小沢氏支持議員に衝撃」の見出しで「小沢氏の政治力の低下は免れない」「親方(小沢氏)が首相になる代表選に出るのは無理だ」などの反応を掲載している。毎日は第1審の不起訴不当の効力から理詰めで説き起こし、読売は太筆で政局から分析している。ここはどうみても読売の記事が優れている。
なぜ菅に有利かだが、小沢にしてみれば首相・鳩山由紀夫との連快(れんぺい)辞任でクリヤーされたはずの「政治とカネ」がぶり返したことを意味するからだ。現に自民党幹事長・大島理森は参院での証人喚問の協議をする方針を明らかにした。参院での喚問となればこれまでのように民主党は数を頼みに拒否し続けられない。「政局主戦場」である参院にまた火種が登場したことになる。加えて焦点の第5審査会の議決が9月か10月になりそうだということもある。2度目の「起訴相当」も予想されるところだが、小沢が9月の代表選に自ら立候補すれば「強制起訴」が予想されるままの候補となる。参加する地方党員やサポーターからは総スカンを食らうに違いない。だから本人の立候補は困難だ。存在感を示すだけの代理戦争はあり得るが、菅がこれ以上の失敗を繰り返さない限り、海江田万里や原口一博では勝負になるまい。
こうした分析を基にすれば菅が終始上機嫌である意味が分かるではないか。昨日の記事と重複するが、ここで菅が小沢に陳謝しては元も子もなくなることを付け加えておく。もっとも国会における説明責任問題は、菅の対応も迫られることになる。証人喚問要求などに菅がどう臨むかによっては鳩山亜流政権のそしりを受けかねないからだ。したたかな小沢がどんな手を打つかは未知数だが、政治は王道を歩んだ方がいい。永田町の論理で選挙大敗を詫びれば、国民の落胆は極まることになる。
◎菅は小沢に陳謝して矜持を捨てるのか
◎菅は小沢に陳謝して矜持を捨てるのか
宰相としてのあるべき姿を述べるならば、少なくとも対峙(たいじ)してきた相手に安易に謝罪すべきではない。政治信条を問われるからだ。首相・菅直人が小沢一郎と会談して、選挙結果をわびるというのである。「しばらく静かに」との脱小沢宣言が菅政治の基本であるはずだ。それが「韓信の股くぐり」をしようというのだから感心しない。消費税を唱えて選挙に敗北したのは首相としての信条の発露である。永田町政治の感覚で陳謝すれば、その写真や映像で支持率はさらなる急落を続けるだろう。
選挙後の菅のお詫び行脚が続いている。鳩山由紀夫、前原誠司、岡田克也ら代表経験者に加えて連合会長・古賀伸明らに会って「私の消費税発言で重い 選挙になったとお詫びしたい」と陳謝しているのである。ここまではいいが、問題は小沢へのお詫びだ。これは性質が違ってくる。菅は14日朝京セラ名誉会長・稲盛和夫を急きょ官邸に招いて約40分間にわたり会談している。狙いは何かというと、どうも小沢との会談の斡旋を依頼することにあったらしい。
小沢は投票日直前から姿をくらまし、党役員でも閣僚でもないことを理由にどこにも姿を見せていない。事務当局を通じても話は進まない。菅は小沢と親しい稲盛に斡旋を依頼せざるを得なくなったという構図だ。実際会談で菅は「小沢さんと会える日時が決まっていない」と漏らしたと伝わっているが、これは斡旋を依頼したという意味だ。菅は記者団に小沢との会談に固執することについて、代表経験者に詫びたことを挙げ「ほかの代表者と同じような形で(小沢氏にも)申し上げたい」と、小沢に陳謝することを明らかにしたのだ。
狙いは何か。まず第一に党代表選挙をスムーズに展開したいとの思惑が挙げられる。幹事長・枝野幸男の更迭論が収まらない中で、小沢と人事の調整をしようにもできないのである。「代表選まで現体制」という菅の発言は、小沢に対する誘い水でもあるのだ。小沢が乗ってくれば枝野更迭もあり得ることを示唆しているとも受け取れる。次に菅は側近らに「公明との連携を実現するパイプ役がいない」と漏らしているという。これは重大な発言だ。公明との連立を目指していることをうかがわせるからだ。小沢はこの事態を見越して、市川雄一との一・一ラインを通じて創価学会幹部と会談するなど布石を打ってきている。菅にしてみれば選挙後は小沢への依存度が高まる一方なのである。
小沢にしてみればこの構図はとっくに読めていたのであろう。だから姿をくらました。菅が自分を必要とすることが分かっていれば、本当に「しばらく静かにしている」のが得策なのである。だから菅はしびれを切らして、マスコミを通じて小沢に謝る意向を表明したのである。しかし韓信の股くぐりは大志を抱くものが小さな恥辱に耐えるものであり、国家のリーダーがこれまで遠ざけてきた「政治とカネ」まみれの政治家に陳謝して「大きな屈辱」を味わえという教えではない。菅が陳謝した瞬間に、「小沢支配」がこの政権で復活しうることを意味しているのだ。小沢を遠ざけ、小沢が批判し続けた消費税増税を唱えたことは菅の政治信条と受け取られている。陳謝することはこの信条を撤回し、小沢の路線に屈することにほかならない。市民運動出身の政治家というのは、自らの信条も矜持もさておいて、憶面もなく長いものには陳謝する癖がついているのだろうか。首相としての矜持はどこに行ったと言いたい。
◎菅「準死に体政権」のまま続投の流れ
◎菅「準死に体政権」のまま続投の流れ
権力闘争はさておいて政策面でも野党にことごとく主導権を握られるであろう政権をどう呼ぶか。1丁目1番地の政策はすべて実現せず、政権としての存在が薄れたのだから「死に体政権」か。それでは成り立ての首相・菅直人にあまりにも可哀想だとすれば「準死に体政権」だろう。戦後の歴代首相でもまれに見る厳しい状況に置かれ、続投の方向が強いものの菅はまだなすすべを知らない。
参院過半数割れという事態のなかで、民主党政権の政策を改めて精査すれば、すべての重要政策がパソコン用語で「ゴミ箱」へだ。ゴミ箱どころかパソコン本体のリセットを求められている。菅の目指す部分連合とは、菅が1998年の「金融国会」で時の首相・小渕恵三に対して行った「金融再生法案の野党案丸のみ」を再現させられることに他ならない。因果応報とはこのことだ。
まず重要施策がすべて行き詰まる。衆院優位の予算案、条約案以外は、予算関連法案も含めて野党主導となる。したがって自民、みんなが反対する郵政改革法案の臨時国会での処理は絶望的だ。総務相・原口一博は「野党の意見も十分採り入れながら法案の作成をしなければならない」と述べるが、預入限度額の引き下げ程度で野党が応じると思ったら甘い。亀井静香主導の「準国有化」路線の根底を元に戻さざるを得ないだろう。影響力がほとんどなくなった亀井の後ろ盾を失った日本郵政への「天下り」社長・斎藤次郎への風当たりも強まる一方だろう。ちょっとしたミスが人事へと結びつく。
子ども手当、高速料金見直し、農家への個別補償などいわゆる「ばらまき政策」も挫折した。子ども手当は既に支給してしまった1万3千円を撤回することは困難だろうが、今後実施する「現物支給」部分など根本から見直しを迫られる。高速料金も新制度に野党は反対だ。農家への個別所得補償も本格実施は不可能だろう。民主党がみんなの党の抱き込みで秋波を送って、連携のポイントとなっている「公務員制度改革」も極めて難しい。労組を基盤とする政権だけに国家公務員、地方公務員の人件費2割カットは実現させられまい。
そして焦点の財政再建のための消費税増税路線は、先送りで冷却期間をおかざるを得なくなった。次の総選挙を意識した場合、たとえ菅が在任中であっても単独での突出は難しい。マスコミは今朝の読売新聞の社説のように「ひるまず消費税論議を進めよ」と消費増税に前向きだ。しかし菅は「これがひるまずにいられようか」と同社説を読んで思っているに違いない。社説に乗って選挙大敗の失敗をしたのである。この「準死に体政権」の状況は、自民党との大連立や公明、みんな両党との「新連立」で解消するしか手段はない。しかし衆院選をにらんで民主党政権つぶしにかかる野党は安易な連立に乗るまい。当面の焦点は亀井静香の社民党などとの統一会派により、衆議院で3分の2回復を狙う動きが奏功するかどうかだ。
菅は代表選挙を前倒しして9月5日にも実施する方針のようだ。小沢が黙って見過ごすか、候補を立てるかは、幹事長人事と絡んでおり、未知数だ。小沢が候補を立てた場合血で血を洗う戦いになるが、党大会は8年ぶりに「党員・サポーター投票」が行われる。一見党員・サポーターに人脈がある小沢に有利に見えるが、検察審議会の動向や「政治とカネ」が作用して党員・サポーターが小沢サイドを押すかどうか疑わしい。やはり菅が有利で再選の流れだろう。問題はその後の秋の臨時国会に「死に体政権」で耐えられるかどうかだろう。再選されても菅にとってまさに地獄の1丁目の状況が続く。
◎民主政権、八方ふさがりの状況
◎民主政権、八方ふさがりの状況
参院選大敗北のアッパーカットを食らって公邸に閉じこもった首相・菅直人は、改めて自らの置かれた立場にりつ然としているに違いない。政権の置かれた立場は明らかに八方ふさがりの兆候を示している。連立は当面不可能。部分連合は完全野党ペースになり得る。菅は「幹事長・枝野幸男更迭論」をはねつけるのに精一杯の様子だが、枝野問題は責任論もさることながら、資質に問題があり、留任させても激動が予想される中、大政党を率いることができるか疑問だ。
選挙結果で明らかになった構図は、ねじれは3分の2の衆院再可決ができない“真性ねじれ”であることだ。これは安倍晋三、福田康夫、麻生太郎の3首相を塗炭の苦しみに落ち込ませたねじれより厳しい。3分の2の再可決が可能であっても安倍に至ってはノイローゼ寸前、福田は自らを「可哀想」と表現、麻生は追い込まれ解散を選択せざるを得なかった。また議席数から判断すればみんなの党の11議席では過半数にいたらず、無理強いすれば国民新党の連立解消を招きかねないことだ。郵政改革法案をめぐって激突するからだ。公明党の19議席なら過半数に十分だが、同党は自民党との選挙協力も行っており直ちには無理だろう。
やはり部分連合しかないが、部分連合を口先で言うことは易しいが、実現性は極めて難しい。菅は「それぞれの共通の政策を持ち合って合意出来る形にしたい」と前向きだが、大平正芳、小渕恵三が唱えたものの成果が上がらず終わっている。自民党はマニフェストの撤回を前提にしており、消費税論議を取り上げても既に実施している1丁目1番地の子ども手当の財源問題でまず行き詰まる。「マニフェストの整理をしてきたらいつでも受ける」という自民党総裁・谷垣禎一の発言は、不可能なことを見越しているようにみえる。公明党が子ども手当法案に賛成したようにケースバイケースで反応する可能性があるが、これも世論の動向を見て上のことだろう。
大敗の責任論はとりあえずは菅には向かっていないようだ。焦点は枝野だが、菅は代表選出の9月の党大会までは現陣容を維持するとしている。しかし枝野の場合は参院選の責任論もさることながら、就任早々の発言のつたなさから、資質が問われている点が問題だ。みんなの党との連携をいち早く発言して、渡辺喜美からは「馬鹿か」と言われ、亀井静香からは「一線の指揮官として理解しがたい」と素質・判断力を疑われているのだ。激動国会を前にして対応ができるかどうか疑問である。
加えて月末の臨時国会で問題になるのが参院の人事だ。議長・江田五月への不信感が野党に強く、通常国会末には議長不信任案も提出されている。自民、みんなの両党は更迭論だ。自民党はさらに議運委院長などのポストも要求するものとみられる。公明党の動きが微妙だが、菅にとっては参院人事が参院選後の指導力発揮のメルクマールとなる。このように参院選挙は民主党政権を取り巻く環境をがらりと一変させた。今後衆院選挙に向けて対立の構図が根底に維持され続けるものとみられ、菅は自民党末期の首相以上の厳しい環境に直面せざるを得ないだろう。
◎政局、総選挙視野に混迷・流動性増す
◎政局、総選挙視野に混迷・流動性増す
与党過半数割れと当面の連立不成立が意味するものは政局の流動化であろう。勢いづいた自民党など野党は早期解散・総選挙で政権奪回に動き、解散綱引きが政局の軸となる。恐らく余す3年の任期を待たずに解散となる公算が高い。首相・菅直人は続投を宣言したが、民主党執行部の責任問題の浮上は避けられず、選挙戦で露呈した前幹事長・小沢一郎とのあつれきが9月の代表選に向けて拡大しよう。民主党政権はねじれ対策として国会では政策ごとの部分連合を目指すことになるが、党内的には150人の議員を動かし得る小沢の動きが妥協による挙党体制に向かうかどうかのカギを握る。
最大の敗因は消費税増税をめぐる菅発言だが、この負け方は消費税だけが原因ではない。消費税が導火線になって過去10か月の「何をするか分からない民主党政権」のイメージがよみがえり、民主党政治全体が問われた形となったのだ。普天間問題、暫定税率や郵政改革法案をめぐる混乱、数を頼みとした国会運営、小沢・鳩山由紀夫の「政治とカネ」など民主党政治への失望感が投票行動へとはね返ったのだ。
こんご焦点となるのは、ねじれ国会対策だが、自民党の福田康夫が首相時代に「自分が可哀想なくらいに苦労しているんですよ」と語った言葉を、ほうふつさせる光景が現出することになるだろう。連立の対象になり得る公明党、みんなの党は連立参加を否定しており、直ちに現政権に協力すると述べた政党はない。したがって「政策ごとの部分連合」方式で当面乗り切るしかないが、部分連合といっても桃源郷が実現するわけではない。部分連合は大平政権で事実上失敗しており、大平はねじれに加えて40日抗争が原因の心臓発作で死に追いやられた。要するに野党が賛成する法案でなければ通らないことになるのだ。
野党は自民党総裁・谷垣禎一が「菅首相は一刻も早く解散をして国民に信を問え」と述べているように、今後国会運営のあらゆる機会を活用して民主党政権を解散・総選挙に追い込もうとするだろう。衆院議員はあと3年の任期を残しているが、とても3年間は持たないだろう。ハプニングや党内事情で解散に追い込まれる要素は山積している。加えて党内抗争が始まりかねない情勢もある。「菅おろし」「幹事長・枝野幸男おろし」に加えて国会では「参院議長・江田五月おろしが」展開するだろう。野党の評判の悪い江田は、野党第一党の自民党に取って代わられる公算が大きい。
「菅おろし」は首相就任後の任期が短すぎて、攻める側も困難だろう。したがって当面は「枝野おろし」の動向だ。菅は今のところ枝野をかばっているが、焦点は小沢サイドとの妥協の形の新幹事長人事が実現するかどうかだ。人事で干された小沢サイドが中立または小沢寄りの幹事長人事を求める公算はある。小沢も鳩山・小沢体制の選挙だったら恐らく一けた台まで転落しただろうから、大きなことは言えない。「小沢選挙」も総崩れだった。小沢との間で妥協が成立すれば、小沢の力を借りて公明との連立や、自民党との大連立も動き出す可能性がある。消費税はその核となりうる。しかし自民党は参院選での復調をバネに、衆院での復調を目指す動きにつなげようとするだろう。したがって一段と野党色を強め早期解散に民主党政権を追い込もうとするだろう。民主党が3年前の参院選を「直近の民意」と主張して政権の正統性に疑問を挟み、早期解散・総選挙を求めたのと全く逆の図式となろう。政局は今後流動性を一段と強める方向にあると見ざるを得まい。当面の動きとしては月末に招集されるものとみられる短期の臨時国会で「江田おろし」が焦点となる。次に9月末の代表選挙に向けた民主党内抗争がどう展開するか、そして秋の長期臨時国会の動向へとつながる。
◎みんなの党の連立参加は至難の業
◎みんなの党の連立参加は至難の業
みんなの党代表・渡辺喜美の発言を分析すると、選挙後に民主党が新連立政権に取り込むことは至難の業のように見える。たしかに渡辺が繰り返し強調するように「アジェンダ(行動計画・政策目標)が違う」のである。むしろ渡辺は参院10議席確保を土台に、衆参のねじれをフルに活用して、民主党政権を痛めつけ、分裂を誘って衆院選に向けて政界再編の主導権を握ろうとしているかのようである。
各社の終盤情勢調査によると民主党は過半数割れどころか、40議席台になる可能性が生じている。朝日新聞と共同通信の調査傾向に顕著に表れている。読売、日経は「50議席前後」としている。この数字が意味するものは与党が過半数を維持するには連立対象が国民新党だけでは足りず、他のミニ政党を足しても足りない可能性があることだ。たとえ無所属などもかき集めて政権を維持しても、社民党離脱の例に見られるようにミニ政党が政権を揺さぶる事態になりかねない。安定した政権にするには公明党や、10議席台を確保しそうなみんなの党を連立に引き込むことが重要ポイントとなる。
首相・菅直人が「小政党は目立っただけじゃ駄目だ。他党と手を握って、仲良くしなきゃいけない」と述べ、幹事長・枝野幸男とともにみんなの党に秋波を送り出したのも、過半数割れ後のねじれをどうしても防ぎ、政権の安定を確保したいという一点にある。しかし渡辺の発言を聞いていると、「アジェンダが違う」「路線が180度違う」ことを挙げ「連立は組みようがない」の繰り返しであり、民主党にとって取り付く島のない状態だ。たしかに渡辺の指摘する「民主党は大きな政府で官僚主導の増税路線。みんなの党は小さな政府で民間と地域が主役の成長路線」では政策理念の根本が異なる。
それではみんなの党の狙いはどこにあるのだろうか。渡辺は「わが党が『この指とまれ』の政界再編をやってゆく」と強調する。そのためには参院10議席獲得は大きな意味を持つ。まず10議席あれば政党の法案提出要件を満たし、政党としての存在感は公明党と並ぶ。加えて参院でのキャスティングボートを握り、民主党政権を窮地に追い込むことが可能だ。渡辺は「民主党の悪法を片っ端からつぶす」とも述べている。しかし現政権の法案をつぶすだけでは単なる反対政党の域を出ない。政権を揺さぶることにより「民主党がばらけ、自民党もばらける。その状況を作り出す」(渡辺)のが目的だ。政界再編の核になろうというのである。渡辺は「最終的には次の総選挙」とも述べている。この発言で見えてくる長期戦略は、民主党政権に対峙(たいじ)して早期解散に持ち込み、衆院でも過半数割れに追い込み、みんなの党を中核とする政界再編を達成しようという構想だ。
ただ、問題は総選挙までみんなの党のブームが続くかどうかだ。渡辺の唱える政策も「節約で30兆ひねり出す」に始まって「4%以上の名目経済成長率を達成すれば消費税を増税しないで済む」に至るまで、だれが見ても実現性に乏しい内容だ。今回の有権者の選択は、民主党には失望したが自民党に戻るのは嫌だとするムードを反映したものであり、いわば「次善の策」の選択であろう。みんなの党の政策の是非を真剣に検討した結果ではあるまい。
◎菅、消費税の戦略ミスで手詰まりの窮地
◎菅、消費税の戦略ミスで手詰まりの窮地
8日で政権発足1か月の首相・菅直人は、参院選を前に手詰まりの窮地に陥った感じが濃厚だ。原因はただ一重に消費税増税路線が有権者から拒絶反応を受けていることに尽きる。この選挙戦略ミスをなぜ起こしたかだが、背後には歴代首相が陥りやすい首相就任直後の“高揚感”がある。与党過半数割れが確実視される中で、選挙後の大波は避けられない。
駆け出し政治記者や民放テレビは消費税で菅がぶれていると判断するが、見方が浅薄だ。菅がぶれていないのが民主党にとっては問題なのだ。就任早々消費税増税を言いだし、自民党と同じ10%を公約化し、低所得者への還付まで発言していることを忘れている。6日に「私の説明不足だった申し訳なかった」と陳謝したことが“ぶれ”と形容するほどのことだろうか。全く違う。ぶれていないのだ。いまさらぶれようにも手遅れなのだ。
消費税導入発言は、政治家としてはむしろ天晴れな部類に属する。小泉純一郎が消費税を逃げまくったのに比べれば、菅は政治家としての心情、責任を率直に吐露しているからだ。実際消費税なくして日本の政治は成り立たない状況にまで来ている。もう“節約”のきれい事では間に合わない規模の財政赤字なのだ。しかし、選挙戦略としてみた場合は「戦略ミス」の一言に尽きる。なぜこの戦略ミスを犯してしまったのかというと冒頭挙げた高揚感だ。長年官邸を観察していると、この高揚感がまず新任首相を動かすことが分かる。田中角栄が日中国交回復に一挙に動いたのもそうだ。消費税では大平正芳の一般消費税構想、細川護煕の国民福祉税構想がそれだ。就任早々は高揚感が使命感となり、「歴史に残る偉業」を達成したくなるのだ。
まさに落とし穴にはまり得る感情の顕在化だ。
菅の場合も条件はそろっていた。就任早々の全国紙社説では消費税導入が最大の課題と書いてある。これで世論は大丈夫と踏んだのだ。しかし市民運動家にしては大新聞の社説と一般大衆の反応が時として全く正反対になることを知らなかった。消費税では昔からそうなるのである。これが第一の誤算だ。加えて自民党も消費税10%への増税を主張しており、これに“抱きつく”ことで相打ちになるとの判断だ。しかし野党の主張と政権党の主張とは、国民に与える印象が月とすっぽんほど異なるのに気づいていなかった。案の定有権者の反応は自民党に向かわず菅政権へと向かいつつあるのである。これが第2の誤算だ。
こうして選挙情勢は、共同通信の分析によれば過半数割れはもちろん、50議席を割って40議席台にまで落ち込みかねないといわれる事態となった。政権サイドは手詰まり感が濃厚だ。菅が「人事を尽くして天命を待つ」と述べれば、官房長官・仙谷由人は参院選の見通しについて「神のみぞ知るということ」ともっぱら神頼りの発言をするに至った。当然小沢一郎など民主党内からそれ見たことかの反応が生ずることは目に見えている。ただたたき上げの菅が大人しく引き下がることはあるまい。二枚腰、三枚腰のしぶとさが身上だ。
◎まさか小沢本人の立候補はあるまい:民主党代表選
◎まさか小沢本人の立候補はあるまい:民主党代表選
永田町やマスコミから9月の民主党代表選挙で前幹事長・小沢一郎が首相・菅直人に対抗して立つとの見方が出ているが、果たして本当か。理由は民主党政権が菅の提起した消費税論議の末に過半数割れとなれば、“政局師”小沢が見逃すはずがないというのだ。しかし、この見方は小沢政治の基本を計算に入れていない。代表選に勝てば小沢が一番嫌いな「首相」になってしまうということなのだ。逆説になるが真実だ。ダミーを立てることはあっても本人が立つことはまずあるまい。
参院選挙後の政治日程だが“逃げ菅”を象徴して、臨時国会は月末に3日程度の短期で済ます方向のようだ。長期の臨時国会を開催して国民新党に義理立てをして郵政改革法案など通している余裕はなくなるからだ。長期国会をすぐに開けば小沢を刺激して政局になりかねないのである。菅は長期の臨時国会は9月末の民主党代表選挙を終えてからにしたい考えのようだ。選挙過半数割れの場合に備えてクーリング期間を置こうという考えのようだ。
そこで小沢がどうでるかだが、「小沢さんが一兵卒と言うときが一番怖い」と民主党幹部が漏らしている。自由党党首だった小沢が民主党と合併したときに述べたのが「合併後はポストを求めず、一兵卒として政権交代にがんばる」だ。その後民主党代表・菅は代表選で小沢に負けて、ひさしを貸して母屋を取られた形となった。今回も小沢は「一兵卒として頑張りたい。田舎の山や寂れた港町で静かに応援したい」と述べているが、これが怪しいというのだ。みんなの党代表・渡辺喜美は「この選挙が終わったら、恐らく民主党は消費税をめぐって小沢だ、反小沢だと、党内抗争になるのは目に見えている」と「乱」を予想している。
たしかに一連の小沢発言は選挙後の「政局化」への布石とも受け取れる。当選目標も60議席と高く設定、消費税増税反対、マニフェスト修正反対を公言。遊説日程も執行部のスケジュールには全く関与せず、独自の戦いを展開している。選挙後に菅批判で動くと見てもおかしくない姿勢だ。民主党内には「50議席を割れば小沢さんは動くが、割らなければ本気ではやるまい」と40議席台への落ち込みがカギになるとの見方も出ている。政局化となれば9月末の代表選挙が照準となるが、筆者は小沢本人は立つまいとみる。
なぜなら第一の理由がこれまで数々の首相になる機会を自ら回避してきており、今回もその環境は変わっていないからだ。国会答弁の体力、「政治とカネ」の追及を考慮すれば「なりたくない」の気持ちは変わるまい。小沢を強制起訴し得る検察審議会の動向も気にしており、5日、東京第5検察審査会に「冷静に判断すれば、政治家本人の刑事責任を問うような事案ではない」とする上申書を提出、けん制の動きを早くも開始している。検審が万に一にも「不起訴妥当」の結論を出せば勢いづくが、ここで万に一つの問題を云々するつもりはない。ただ小沢は存在感を誇示するために代表選に候補を立てる可能性は否定できまい。海江田万里や原口一博を立てて、陣営をまとめる動きはあり得る。しかし消費税増税やむなしの世論は、政権4か月で首相・菅直人を代えるような動きには同調しないだろう。小沢は6日「私は批判しているんじゃない。本来、政権党や政府与党は『こうあらねばならない』という当たり前のことを言っているだけだ」と和戦両様とも受け取れる発言をしている。小沢が結局は菅に協力するのか、党分裂にも直結しかねない対立路線を選択するのか、判断は極めて難しい局面だ。まだ選挙結果が定かでなく、方程式が多すぎる状況だからだ。
◎民主党過半数割れ後のシュミレーション
◎民主党過半数割れ後のシュミレーション
一週間ごとにドスンドスンと急落する菅内閣支持率の意味するものは何かというと、あと6日の勝負になった接戦区で自民党とみんなの党が有利になることを意味している。この下げは投票日に向かってなお続くだろう。終盤戦は与党による参院過半数割れが「微妙」の段階から「ほぼ確定的」の段階に移行しつつある。首相・菅直人も幹事長・枝野幸男も選挙後を意識した発言が目立つ。その場合政局はどのような展開を見せるかをシュミレーションしてみた。
とにかく支持率の急落がすさまじい。政権発足当時と比較してNHKが20%、朝日21%、読売が19%と鳩山前政権でもなかった急落ぶりだ。この急落ぶりが意味することは大接戦が展開している1人区で自民党が競り勝つ可能性を濃くしていることだ。みんなの党も比例区で7議席程度、東京や3人区の千葉などで議席を獲得しそうだ。当初予想したとおりみんなの党は10議席台に乗り、参院選の台風の眼となり、公明党を獲得議席数で上回る方向だ。こうした状況から民主党は50議席そこそこ、良くて53、4議席と、国民新党を足しても56議席の過半数に達しない傾向となりつつある。
その場合選挙後の政権はどのような形になるかだが、まず菅自身の進退は、既に「辞めない」発言を繰り返し布石を打っている。「4年間で4人の首相が代わった後の私の政権です。首相が代わってばかりいると外国から日本の政治の弱体化とみられかねない。責任を持って安定政権をやらせていただきたい」と負けても政権維持の構えだ。それではいかに政権を維持するかだが、4つのパターンが考えられる。それは①ミニ政党や無所属をかき集めて新連立を組み56議席を達成する②公明党、みんなの党との連立を模索する③一挙に自民党との大連立をする④ねじれはそのままにして政策ごとの部分連合を目指す、の4パターンだ。
①のミニ政党かき集めは既に菅自身が党首討論で新党改革代表・舛添要一に「一緒にやろう」ともちかけるなど動きが始まっている。しかし新党改革もたちあがれ日本もそれぞれ2議席程度しか残存議席が無い状況下で数合わせが可能かどうかだ。足しても足りなくなる可能性もある。
②の公明、みんなの抱き込みだが、選挙直後には困難だろう。公明とは小沢一郎と市川雄一との“一・一ライン”を活用する手があるが、干されてすねている小沢をどうなだめるかが先決だ。みんなの党抱き込みは郵政改革法案を捨てなければむりだ。同法案を断念するということは国民新党との連立を切ることに直結する。また支援を受けた全国郵便局長会(全特)も切ることになり、衆院選挙を考えると、いくら菅でも簡単にはやりきれないだろう。
③の自民党との大連立だが、あながち荒唐無稽(むけい)ではない。消費税増税、それも税率10%で一致しているのだ。消費増税を政局に直結させないで実現させるにはこれしかあるまい。しかしこの大舞台回しをできる人物がいるかどうかだ。小沢は自民党に信用がないから無理という前提に立てば人がいない。
こうみてくると④の政策ごとの部分連合の可能性が一番高くなってくる。大平正芳が唱えたパーシャル連合だ。菅が部分連合の核に消費増税を置けば自民党もむげに反対できないだろう。もっとも大平が急逝したのはそのパーシャル連合がうまくいかず、与党内から突き上げを食らったことも原因している。部分連合と言っても本質は“ねじれ”であり、民主党が自民党政権にしたことと同じ仕返しを食らう可能性の方が大きい。いずれにせよ過半数割れとなればいかに大きな壁が民主党政権の前に立ちはだかるかを意味することになろう。
◎菅、支持率急落で必死の逆襲:党首討論
◎菅、支持率急落で必死の逆襲:党首討論
4日のNHKと民放の党首討論を録画してつぶさに見た。新聞は日曜のサボり癖が抜けないのか皆素っ気ない報道ぶりだが、首相・菅直人の“逆襲”が目立っていた。とりわけみんなの党の渡辺喜美を集中攻撃、ぎりぎりの選挙戦でみんなの党が自民党にまさるとも劣らない“好敵手”になっていることをうかがわせた。さすがの渡辺もたじたじ。一方で新党改革代表・舛添要一には連立を持ちかけるなど、したたかさを見せた。内閣支持率が軒並み急落、民主党政権の過半数割れが極めて高くなってきたなかで必死の巻き返しの状況だ。
内閣支持率は由々しき状況だ。消費税を反映して朝日が発足当初の60%から39%に。読売が64%から45%にそれぞれ急落、消費税増税論への反発の根深さを見せつけている。こうした中で「いつでも1対1の真剣勝負ならやる。1対8の議論は議論ではない。下手をすると吊るし上げになる」と連立の国民新党まで“敵”とみなして党首討論を渋っていた菅だが、なかなかどうして4日の討論では準備万端で攻撃的だった。まず始めに「当方からも質問させてもらう」と先制攻撃を宣言。主にみんなの党と共産党をやり玉に挙げた。共産党は近ごろ喧伝している「消費税は法人税減税の財源にするため」(委員長・志位和夫)という主張について「それは法人税収が24兆円もあった昔の話。国際競争を今の法人税率でできるのか」とやり込めた。次いで矛先をみんなの党代表・渡辺喜美に向けた。
まず渡辺が「30兆の埋蔵金がある。これを活用すれば消費税増税はしなくて済む」と発言していることについて菅は「外為の埋蔵金なら税外収入として既に予算に盛り込んである。渡辺さんの労働保険金から5兆円を取り出すというのはスジが悪い」と決めつけた。そもそも有権者は民主党の「埋蔵金20兆」で懲りている話であり、渡辺の30兆はまさに誇大妄想の部類だ。菅はそこを突いた。加えて「民間人材登用・再就職適正化センター」を将来のある時期を決めて廃止するようにするサンセット方式を渡辺が推進しようとしていることについて「自分が作ったものがおかしいから廃止法案を出した。サンセットというなら反省をこめて廃止といわないと責任逃れだ」と急所を突いた。渡辺はおたおたして「暫定措置だから」と言い返すのが精一杯。菅は渡辺攻撃で相当理論武装して望んだ感じが濃厚だった。
一方自公政権批判は「政権担当の9か月間のことを非難するなら、その前自公政権11年間で220兆の国債乱発したことを言わなくては不公平」と主張。これには公明党代表の山口那津男から「菅総理は自社さ政権の時に国債を増やしたことをお忘れか。そういうことは言えない」と切り返され、水掛け論に終わった。消費税に関して谷垣が「大きな認識は一緒だ」「消費税の問題提起は評価する」とここに来てなぜか“敵に塩を”送り始めたのが奇異に感じた。事前に世論調査の動向が耳に入っていたからに違いない。消費税増税を菅にけしかける作戦とみた。
白眉は舛添に対して菅が「一緒にやってはどうか」と持ちかけたこと。筆者はかって小沢一郎のボディランゲージを読んで幹事長辞任を予言したが、舛添は全身でうれしさを表現した。舛添は口では「いくら団塊の世代だからといってそう簡単には」と述べたが、満面笑みのボディランゲージは“入閣ならすぐOK”と読めた。背景には菅も過半数割れの可能性を強く認識していることをうかがわせた。
◎月に1度の俳句自慢
6月の入選句は6句だった。
産経俳壇寺井谷子選
髪濡れてよりクロールで游ぐかな
毎日俳壇堀口星眠選
茄子漬けし手の枕べに香りたる
産経俳壇寺井谷子選
一滴を針より細き新茶より
毎日俳壇堀口星眠選
鷗外の墓にも花を桜桃忌
毎日俳壇大峯あきら選
もの捨てて風の涼しく吹く日かな
東京俳壇寺井谷子選
歯を磨きながら薔薇見て出勤す
【六月入選句】
55産経俳壇寺井谷子選
髪濡れてよりクロールで游ぐかな
56毎日俳壇堀口星眠選
茄子漬けし手の枕べに香りたる
57産経俳壇寺井谷子選
一滴を針より細き新茶より
58毎日俳壇堀口星眠選
鷗外の墓にも花を桜桃忌
59毎日俳壇大峯あきら選
もの捨てて風の涼しく吹く日かな
60東京俳壇寺井谷子選
歯を磨きながら薔薇見て出勤す
◎政治が読めていない枝野発言が続く
◎政治が読めていない枝野発言が続く
「おいおい菅さん、枝野幹事長人事は適材だったかな」と問いかけたい。最近の幹事長・枝野幸男は発言のピントのズレが著しいのだ。みんなの党代表・渡辺喜美からは「馬鹿かお前は」とさげすまれ、部下であるはずの選対委員長・安住淳が「頭を坊主にする話」と言い訳をして回らねばならない始末。永田町では「まるで噛み付き犬。器でない」との批判まで生じ始めた。どうも最大の政権党を率いる能力にクエスチョン・マークがつき始めている。
幹事長は情報源なので新聞はあえて叩かない傾向にある。したがってwebに最適の記事となるが、とにかく枝野発言は物議を醸し出している。まず過半数割れした場合の連立先を「みんなの党とは行政改革や公務員制度改革については、かなりの部分が一致していると思っているので、政策的な判断としては一緒にやっていける」と同党に露骨に擦り寄った問題。直ちに国民新党から「幹事長は死にものぐるいで過半数を制すると訴え、候補者にげきを飛ばす立場。過半数割れを前提に言うのは一線の指揮官として理解しがたい」(代表・亀井静香)と素質が無いといわんばかりの批判。あわてた安住が「本来は頭を坊主にしないといけない話だ。幹事長にも十分注意しておいた」と釈明、どっちが上司か分からない顛末となった。当の渡辺からは「考え方が一緒だからやろうと言うが、馬鹿かお前は。考え方が全然違うだろう。官公労働組合と手を切ってから来いよ。顔を洗って出直してこい」(朝日新聞)といわれる始末。連立というのは根回しの世界の話。数が足りないから記者団に発言すれば成立する話でないことを分かっていない。政治の基本を理解していないことが分かる。
渡辺の指摘した「官公労働組合」の問題も、枝野発言で共産党と一悶着。評判最悪の同組合について民放番組で「国家公務員労組が支持しているのは 大部分が共産党で、民主党支持の組合はほとんどない」と発言、激怒した書記局長・市田忠義との間で「取り消せ」「取り消さない」の議論に発展した。少なくとも官公労働組合ではないが悪名高き日教組出身議員がうようよいて選挙で支援を受け、北海道教職員組合の不祥事にまで発展した政党の幹事長が言える言葉ではない。
「雨後のタケノコ発言」もひどい。「雨後のタケノコのような新党がたくさん出てきているが、大部分はついこの間まで自民党政権の中枢にいた皆さんだ。野党になった途端、民主党の行政改革は生ぬるいだの、遅いだのと批判している」と述べたのだ。これも政治の基本をわきまえていない。連立相手が国民新党だけで足りなくなったら、「雨後のタケノコ」までかき集めなければならないことに思いが至らないのだ。そもそも自民党にかつて小沢一郎、鳩山由起夫、岡田克也などが所属していたことを忘れている。小沢批判は毎度のことだが、狙いが浅はかだ。つまり小沢を批判すれば「反小沢票」をかき集められるという思惑が見え見え。しかし狙いは外れてマスコミの反応は「小沢を批判して偉い」というものはなく、「内紛」と受け取られてしまっている。逆効果だ。
「ぼくは弁護士出身ですから」が口癖だが、討論を聞いても発言は長いばかりでポイントがずれている。蓮舫とともに民主党パフォーマンスの象徴である事業仕分けで有名になりすぎて、これを活用しようと菅が幹事長に起用したのはいいが、資質が問われる第一の候補になりつつある。発言の軽さは野党時代の癖が抜けない典型だ。衆参424人の議員を率いる幹事長にしては、政治の“読み”が浅すぎる。これを「党内きっての論客」とか呼ぶには抵抗を感ぜざるを得ない。
◎菅、消費税で究極の抱きつき作戦
◎菅、消費税で究極の抱きつき作戦
消費税論議は毒を食らわば皿までと指摘したが、首相・菅直人がついにその“皿”にかじりついた。街頭演説でいったん揺らいだ方向を再転換、逆進性緩和の導入方針まで言及、「消費税は政局化する」というタブーに挑戦した形となった。選挙に不利を承知で橋を焼落として退路を断った形だ。菅の武器は逆進性緩和による低所得者の負担軽減と自民党に対する“究極の抱きつき作戦”だ。これで参院選をしのげれば長期政権の資格を獲得することになるが、しのげなければ「政局」だ。
カナダで「公約は自民党への超党派協議の提示まで」と「10%公約」を撤回しかねないところまでぶれた菅だが、29日側近らとの打ち合わせで「ぶれは消費税貫徹よりまずい」ことで一致、あえて訴えてゆくことを確認。30日の街頭演説では正直に「『消費税を言うなら選挙が終わってからがいい』と言う人がいる。私はしないで済むなら、とも思ったが、選挙が終わって『いや、実は』と言ったらやはりおかしい」と既定路線に戻った。
しかし、消費税を打ち上げただけでは票が減る一方と判断したのか、低所得者への配慮を併せて打ち出す演説となった。ところが年収の範囲が何と三転して、構想が付け焼き刃であることを露呈してしまった。最初に「200万から300万」次ぎに「300万から350万」その次ぎに「300万から400万」を負担軽減策の基準として発言した。これは練りに練った構想でなく明らかに「選挙向けの思いつき」的な発言であることをいみじくも物語る結果となった。加えて菅は自民党への「抱きつきお化け」作戦も忘れずに「自民党が10%の消費税をマニフェストに書かれた勇気をたたえたい」「10%くらいは検討しましょうと自民党が最初に提案した。それを参考にして大いに議論していこうじゃないか」などとあちこちで発言した。
一連の発言から見た菅の消費税戦略は①ぶれの印象を与える発言撤回はしない②逆進性緩和で低所得者向け対策を訴える③自民党の10%増税に完全に乗って抱きつき作戦を展開する、というところにあることが見えてきた。これに対して自民党総裁・谷垣禎一は「自民党の消費税は民主党の消費税とは根本が違う。民主党はばらまきのための増税」と違いを強調しようとする。しかしこの発想には無理がある。消費者にとって良い消費税と悪い消費税はない。皆悪い消費税なのだ。むしろ菅のように逆進性緩和を強調して、必要を訴えた方が説得力がある。
一方で、選挙後に向けて牙を研いでいる小沢一郎も30日「民主党の公約は消費税を4年間上げないこと。約束は実行しないと駄目だ」と菅の方針を真っ向から否定。「消費増税民主」と「非消費増税民主」にくっきり分かれた双頭選挙が展開されている。


























