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◎安倍は朝日に「勝った」、トランプはNYTに負けた 杉浦正章

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◎安倍は朝日に「勝った」、トランプはNYTに負けた
   リスクの伴う対メディア戦
   首相・安倍晋三とトランプの会談を評して、前原誠司が「猛獣に従うチキン」と評すれば、脇から後藤祐一が「ポチだ!」と野次る。
前原は続いて「近づきすぎるとリスクがある」と指摘した。民主党は誰が見ても成功裏に終わった日米首脳会談をこの程度にしかとらえられない政党であったか。猛獣にチキンは従わない。逃げる。「近づきすぎ」と言うが、虎穴に入らずんば虎児を得ずの格言を知らないのか。北のミサイルや中国の軍事挑発は、より大きなリスクではないのか。衆院予算委の追及は、浅薄でどうもやっかみが先に立つ。「負け犬の遠吠え政党」そのものだった。それにつけても産経の「私は朝日新聞に勝った」「俺も勝った!」のスクープは見事であった。安倍とトランプの意気投合ぶりを端的に言い表している。リークした方も、他の新聞でなく産経を使ったのは、産経しか大きく扱わないからだろう。狙いを定めた「リーク」であろう。
 産経が11日付けの2面トップで報じた記事の内容は、「大統領選で日本に対しても厳しい発言を繰り返してきたトランプが、これほど安倍を厚遇するのはなぜか」と問いかけ、「実は伏線があった」と続く。以下は、昨年11月の米ニューヨークのトランプタワーでの初会談で、軽くゴルフ談議をした後、安倍はこう切り出した。「実はあなたと私には共通点がある」。怪訝な顔をするトランプを横目に安倍は続けた。「あなたはニューヨーク・タイムズ(NYT)に徹底的にたたかれた。私もNYTと提携している朝日新聞に徹底的にたたかれた。だが、私は勝った…」。これを聞いたトランプは右手の親指を突き立ててこう言った「俺も勝った!」と。トランプの警戒心はここで吹っ飛んだと思われる。というものだ。
 問題は、ここで安倍が「勝った」と胸を張った理由は何かということになるが、直感的には慰安婦強制連行をめぐる安倍と朝日との10年戦争を指すものと推定される。安倍は第一次安倍内閣の2007年に
「政府発見の資料の中には軍や官憲によるいわゆる強制連行を示すような記述は見当たらなかった」とする答弁書を閣議決定した。朝日はこれをを無視し続けたが、14年になってついに慰安婦報道をめぐり、朝鮮人女性の強制連行の虚偽を認め、記事を取り消した。社長以下陳謝の記者会見に臨んだものだ。安倍はその後「閣議決定は批判されたが、改めて間違っていなかったことが証明されたのではないか」と強調した。さらに「報道によって多くの人たちが悲しみ苦しむことになったのだから、そうした結果を招いたことへの自覚と責任感の下、常に検証を行うことが大切ではないか」とも述べた。まさに対朝日戦は安倍の圧勝に終わったことになる。
 一方トランプの対NYT戦だが、これは選挙中の戦いが選挙後も白熱戦を展開した。朝日などの報道によるとNYTは大統領令で中東・アフリカの7カ国の国民が米国に入るのを禁止した問題を大きく報じ、1月28日の社説では「臆病で危険」と断定した。また、別の社説では「トランプ氏が真実に耐えられるのか」と、迫った。これに対してトランプは29日朝には、NYTを「偽ニュースで経営不振」とこき下ろし、「誰か適性と確信を持つ人が買収し、正しく経営するか、尊厳をもって廃刊させるべきだ」とツイッターで発信した。トランプはこれを称して「勝った」と唱えたのだろう。もちろん大統領選で勝ったことも確かだ。しかし、NYTは逆に購読者数を伸ばし、昨年11月の大統領選後わずか7日間で約4万人を獲得。電子版の有料購読者は昨年10~12月期に27万6000人増え、5年ぶりの大幅な伸びとなった。これが物語るものは、その実トランプは勝ってはいないとも言えることになる。おそらくトランプ支持層ではなく、国論分断でインテリ層がNYTに付いたものとみられる。
 安倍の発言は昔1960年代末から1970年代にかけて日本で発生した言論出版妨害事件を若干ほうふつとさせる「危うさ」がないわけではない。同事件は、新宗教団体・創価学会と同団体を支持母体とする公明党が自らに批判的な書籍の出版、流通を阻止するために、著者、出版社、取次店、書店等に圧力をかけて妨害した事件だ。当時の日本のマスコミは戦前戦中の軍部による言論抑圧へのアレルギーがなお後を引いており、こぞって批判を展開、公明党がその路線を大きく転換するきっかけとなった。これを他山の石として自民党政権は言論抑圧と受け取られることに細心の注意を払ってきた。
 安倍のようにメディアの報道を勝ち負けで判断する発言は、ともすれば民主主義にとって「危うさ」が大きいと受け取られやすい。憲法のうたう言論の自由に抵触しかねないからだ。しかし、安倍にそこまでの意図はない。ことの本質は長年の“宿敵”朝日に対する意趣返しであろう。ヒトラーや日本の軍部なら批判などせずに、弾圧を実行に移す。安倍からはその気配など全く感じられない。一方朝日は報道機関としての中立性を社是で標榜しながらも、実態はそれを否定している。安倍は14年に国会答弁で「安倍政権打倒は朝日の社是」と発言している。この発言は同社の元朝日新聞主筆の故・若宮啓文が、評論家から「朝日は安倍というといたずらに叩(たた)くけど、いいところはきちんと認めるような報道はできないものなのか」と聞かれて「できません。社是だからです」と答えたことに立脚している。朝日がなすべき事は、この「社是」を見直し、自民党政権への“偏見”から脱却することだろう。まあ、無理だろうが。